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大学院進学へのきっかけ⑤

<課程博士と論文博士>
 機は熟した.日常の設計業務が楽しくて,ついつい博士号に向けた活動時間を取っていなかったことに改めて反省しました.博士号への道を歩み始めることになるのですが,まず博士号取得に際して2通りのアプローチがあることを紹介しておきます.(a)課程博士と(b)論文博士です.(a)課程博士というのは,大学院の博士課程(3年間)に入学することです.自分の研究テーマを大学院で3年間研究して,博士論文を仕上げて提出する.諮問を受けて大学に受理されれば晴れて学位授与ということになります.(b)論文博士というのは,誤解を恐れずにいうと,企業の研究室で優れた成果を挙げているが,実務に追われて実績・実力もあるが博士課程に入学できずにいる企業研究者の救済処置的に意味合いが強い.その企業研究者がこれまでの成果について博士論文としてまとめて大学に提出する.諮問を経て受理されれば,学位を授与されるというものです.つまり(b)の場合は,いわゆる博士課程に入学せずに学位を取得することができます.大学院進学へのきっかけ④で述べたように,インターナショナルでの協議において,実績も実力も十分なのに,Dr.という肩書がないばかりに日本人が不利益を被らない処置としては有効です.しかし,これは現場での経験が学位よりも重視される企業文化における日本特有の処置です.ですので海外の研究者からは,論文博士って何?通常のコースドクターとどう違うの?大学院に入学しないで博士論文のみを大学に提出して学位が授与されるということに対して違和感があるみたいです.この(b)論文博士については,文部科学省が廃止する方向で検討をすすめているみたいです.

<課程博士へのアプローチ>
 私は(a)課程博士を考えていました.会社を辞めて,大学院博士課程一本とするか,会社を続けながら,大学院博士課程(社会人枠)に入学するかが人によってアプローチが異なるところです.経済的に余裕があれば,大学院一本に絞れるのでしょうが,私は修士課程での奨学金も返済しなければなりませんし,子供も二人いましたので,勤めている会社を辞めるという選択肢はありませんでした.今思えば,博士号取得に際しての心構えや準備が甘かったなと,それによってかなり体力的・精神的に無理をしました.家族にも迷惑をかけました.小さい子供たちと遊ぶ時間もほとんどとれませんでした(ごめんなさい.ここで謝ってもしょうがないね).ですので,これから博士号の取得を考えている人やキャリアパスに悩んでいる20代のエンジニアの方に少しでも役に立てばと思って,まずは人生ストラテジー?的なものを示します.この人生マップ,とても大事だと思います(自分で言うなって!?).私がこの通り進んだとか自慢しているのではなく,このような道標すら,その時には持ち合わせていなかったのです.人生ままならないことがほとんどですが,このように進めたらいいなという道標を自分でイメージしてみることが大切で,それは心の安定につながるということが言いたかったのです.この通り進まなくてもいいのです.結婚や家族の不幸など様々なライフイベントが発生しますので,途中で進路変更も全然ありです.そんなに肩肘はらずに,RPGゲームの1コマだと思って,気軽に思い描いてみる(毎年見直す!).

人生攻略

<入社したら>
 まずは脇目も振らず目の前の業務の習得と目に見える成果を出すことに全集中する.会社に入って色々不満が出てくるかもしれません.上司がイケてない.やりたいことと違う.人間関係がウザいなどなど.でも,太くて長い自分自身の大きな道を描いているなら,そんな外乱は,自分の心から結構出て行ってしまうものです.仕事の流れを掴んだら,その業界あるいは自分の興味のある分野の市場動向をよく観察する.市場動向をウォッチすることは,本当に大事です.いくら性能が良い,品質が良い,アイデアが良いものであっても時流に乗っていなかったり,人々の感覚とずれている,あるいは先取りしすぎたら,全く評価されませんし,価値がないものとして葬られる可能性大です.ちなみに私は,事業構想やインタフェースといった月刊紙をよく買います.また,博士号を考えているなら,学会に入会するのはMustです.年会費1万円ぐらいですので,¥1,000/月のサブスク代だと思って将来論文を提出するだろうと思われる学会に入会する(身銭を切ると,その学会誌を熟読するようになる).欲を言えば,海外の学会にも入会した方が良い.アカデミックな世界においても,日本国内だけの情報では偏っていると言わざるをえません.海外の学会はもちろん英語ということになりますが,今はインターネットというすばらしい万能秘書役がいてくれますので,勇気を出して一歩,踏み込みましょう.

<35歳くらいまでには>
 興味のある論文はできるだけ取り寄せ,内容別に区分けして管理するとともに
 ①概要をまとめる,疑問点やツッコミポイントをメモしておく.
 ②海外論文なら,これは流用できそうだなという一文を拾って,
  どんどんリスト化しておく.(将来,自分が海外論文発表する際に利用できるようにしておく)← これめちゃくちゃ大事.ボディブローのように効いてきますよ.
 それから,得意なプログラム言語を最低1つは持つ.プログラム言語は,どの国に行っても通用する共通言語の1つですので,はっきり言って英語よりも強力です.英語は,英語圏の人としか会話できませんが,プログラム言語は国籍関係ありません.万国共通です.しかもこれができると,様々な繰り返し作業から解放されますし,ロジカルシンキングまで鍛えられて,1粒で3度美味しいのです.おすすめはPythonかな.専門学校に行かなくても,Youtubeですばらしい解説動画がいくつもありますので,自分の気に入った人のものを見て十分独学可能だと思います(良い時代ですね.Youtubuのプラグラマー有志の方には脱帽です).

<博士課程入学前の助走>
 あわてて博士課程(社会人枠)に入学するのはお勧めしません.博士課程というのは,特に授業がある訳ではありません.しかし,勉強することは鬼ほどありますし,働きながらだと本当に時間が足りません.なんの助走もなく,会社に勤めながら,3年だけで博士課程を修了するのはほぼ無理です(博士論文が仕上がりません)ので,まずは大学と共同研究することをお勧めします.最低でも1回/月に研究室には伺って,教授および大学院生とじっくり協議することを繰り返す必要があります.実験・研究というのはチームでやりますので,一人か二人の学生が自分に付きます.電話レベルでは,自分の考えた仮説やその考えに行き着いたロジックが完全に伝わらないことが多く,結果的に非効率です.実験に関する細かい指示や実験データの処理方法を正確に伝える必要がありますし,一緒にやる学生らと,仮説・実験結果に対する考察など広く深い共通理解を得ることは共同研究者としての務めでもあります.自分だけが分かってもダメです.それに関わるチームメンバーにも理解してもらうための努力やスキルも博士の重要な資質の一つです.最低1,2年の共同研究を経て,教授や学生との良好な人間関係を構築するとともに,自身の博士論文のテーマ・方向性を見極めてください.あわよくば,助走の段階で,1or2本の査読付き論文の投稿ができれば最高です.入学前の助走としての理想的な3つの成果物は,
 ・海外論文の例文ストック(大学院へ進学を考えている学生へという私の別記事をご覧ください)
 ・査読付き論文(すくなくとも1本)
 ・博士論文のテーマ(A3用紙1枚に,背景/目的/課題/仮説/アプローチ/理論/シミュレーション/実験(検証)方法/結果
です.
 博士課程入学試験というのがあり,英語や面接などがあります(大学にもよりますので,自身が入学する大学の博士課程要綱を購入して熟読してください).面接では,A3用紙1枚にまとめた博士論文のテーマについて説明する必要があります.もちろん,この時点で細かい実験方法や手順など明確になっている訳ではありません.ただ,全体の見通しを示す必要があるのです.これはどんな事業でも,計画書を提示して,コスト(費用見積り)やスケジューリングと研究の見通し,つまりどれくらいの期間で,予想する成果が得られ,どんな社会課題が解決できるのかを説明する能力が問われるということです.この助走が,入学後の3年間の研究のスムーズさを大きく左右するのだと肝に命じて,ここでの検討の手を抜かないようにしてください.
 ここまで心構え,準備ができたのなら,自身をもって,博士課程にコマを進めてください.



 

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