世界最大級の農業見本市Salon International de l'Agriculture現地レポート
フランスは、「France2030」と呼ばれる国家戦略の中で、第三の農業革命を加速させようとしています。France2030とは、産業競争力の強化と未来産業の創出を目的とし、総額540億ユーロを投資する計画のことです。
同戦略には10の目標が掲げられており、6つ目の目標として「農業・食糧革命を加速するために、健康的で持続可能かつトレーサビリティのある食糧に投資する」ことが掲げられています。
今回は、政策的に農業に力を入れるフランスにおける、AgriTech(アグリテック)最新トレンドについて、世界最大級の農業見本市Salon International de l'Agricultureのイベントレポートを通してご紹介します!
※このnoteはRouteX Inc.協力のもとで作成しています。
Salon International de l'Agriculture とは
Salon International de l'Agriculture (SIA)は、フランス・パリで毎年開催される世界最大級の農業見本市の一つです。
プロ以外も入場することができ、美食を求めて遠方から参加する人や、出展されている動物を鑑賞しに来る人など、毎年様々な動機を持つ人が来場する一大イベントとなっています。
SIAは今年で第60回目の開催を迎える長い歴史を持ち、今年のテーマはSoils and land, life in our hands(土壌と土地:生命をこの手に)でした。
イベント会場の様子
会場では、フランス全土から農業に携わる多くの関係者が集い、技術の展示、ワークショップやカンファレンス、動物の売買、豊富な試食などが行われていました。
SIAは大きく四つの領域に分かれています。
畜産・家畜部門
作物と植物、ガーデニングと家庭菜園
フランス、海外、世界の産品
農業サービスと貿易
各分野でそれぞれの企業や団体が、いかに自身が提供する「イノベーション」が将来の農業を創っているかを熱心にプレゼンしていました。
開会の挨拶の中で、マーク・フェノー農業・飲料主権大臣は、この見本市を通じて農業従事者や食品産業の企業に誇りを取り戻させる機会にすることを強調し、そのために農業収入の改善を引き続き推進し、さらに次世代の農業従事者の育成をサポートすることを約束しました。
挨拶の最後には、このSIAがフランス国民の日常生活において中心的な役割を果たしているのは、「農業」であることを国民に再認識させる機会にしたいことを述べ、イベントの盛況を祈念しました。
次に、今年のSIAの目玉だったSIA’PRO 2024についてご紹介します。
農業のプロフェッショナルの交流場 SIA’PRO 2024
SIA’PROとは、農業の専門家を対象とした3日間に渡る国際会議で、60回目の節目に初めて開催されました。
長い歴史の中で初めて開催された背景には、SIA出展者の属性と需要が関係しています。
2023年は出展者の3分の1以上が業界の関係者との交流が目的で参加しており、SIA’PROの開催は高まる専門家向けの需要に答えた形となりました。
同イベントでは、B2B専門の交流スペース、展示スペースとともにハッカソンが行われました。
ハッカソンは、AgriTechにおけるイノベーションを促進するNPO団体La Ferme Digitale と AIユニコーンスタートアップのMistral AI主導で2日間に渡り開催されました。(La Ferme Digitaleについては、詳細を後述します。)
テーマは、「農家が直面している課題をAIを活用して解決する」ことで、様々な業種の企業が参加し、多くのソリューションが生まれました。
AgriTech エコシステムを形成する La Ferme Digitale
「フランス2030」の農業における戦略では、課題として農業における脱炭素化や生物多様性などが挙げられています。その他にも生産者から消費者までのサプライチェーンの改善やデータ収集などの課題が存在しており、目標実現のためには技術革新が必要不可欠です。
SIAはFrance 2030達成のため、農業分野で行えることを考える絶好の場となっています。
AgriTechを支援する数多くのエコシステムのステークホルダーが集う中、とりわけ存在感を放っていたのは、SIA’PROのハッカソンでも主導的な立場を取っていたLa Ferme Digitaleです。
前述したようにLa Ferme DigitaleはNPO団体ですが、100以上もの企業と欧州全域から集まったスタートアップが揃って一つのエコシステムを築き、AgriTech領域のイノベーションを促進しています。
同団体が毎年開催する、AgriTechが抱える課題を解決するためのカンファレンスLFDayでは、Bpi FranceやLa French Tech等の政府機関からの後援を受けています。
La Ferme Digitale注目スタートアップ
フランス国内でAgriTechエコシステムを形成するLa Ferme Digitaleスタートアップのうち、今回はイベントに出展したスタートアップの3社をご紹介します。
Ynsect
Ynsectは、垂直農場を利用してミールワームを生産するスタートアップです。
国家の起業支援プログラムFrench Tech 2030にノミネートされています。
昆虫飼育市場のパイオニアとも呼べるこのスタートアップはミールワームを人間やペットの食料として生産・加工し、昆虫ベースの代替タンパク質食品の提供を行っています。
栄養価が同量の牛肉より高く、CO2排出量が40%低い昆虫食は世界的に注目を集めています。
また昆虫食だけではなく、ミールワームを加工して農場向けの飼料の生産も行っています。この飼料で育てた食べ物を餌として自社のミールワームに与えることで、循環型経済が完成すると謳っています。
日本では昨年3月に丸紅株式会社がYnsectと協業することを発表しており、昆虫食はより身近なものになっていくでしょう。
Javelot
Javelotは穀物の貯蔵環境を管理するためのソリューションを提供するスタートアップです。こちらもYnsectと同じくFrench Tech 2030にノミネートされています。
Javelotのソリューションは、外気温と穀物の温度をリアルタイムで検知し、最適な保管条件を維持するために自動で最適化してくれます。スマホやパソコンから、遠隔で操作することも可能です。
他にも畑から消費者までのフローを最適化するソリューションも開発しており、穀物を最適な条件下で保存し効率的に消費者の元へ届けることでロスの削減にもつながります。
Javelotの取り組みは、農業分野におけるイノベーションと持続可能性を推進する事例と言えるでしょう。
Foodpilot
Foodpilot は農業分野での脱炭素化に向けたプラットフォームを提供しているスタートアップです。France 2030のプログラムでは2度も受賞した経歴を持ちます。
Foodpilotは、企業が環境に与えている影響の見える化と導き出したデータの分析を行い、その結果から脱炭素化のためのプランを提案します。
また、Foodpilotはワインの脱炭素化にも注力しており、ワインに特化したプラットフォームWinePilotも開発しています。
フランスのエリート養成機関グランゼコールと農業
最後に、グランゼゴールの農業分野における関わりをご紹介します。
グランゼゴールとは、フランスが誇る一流の高等教育機関のことで、多くの分野に渡ってエリートを育成しています。
SIAでは、農学に特化したグランゼコールが出展していました。
これらの学校では、理論と実践のバランスを重視したカリキュラムが提供されており、学生は最新の研究に基づく知識と共に、現場で直接応用可能なスキルを身につけます。
AgroParisTech(パリ農業技術高等学院)やBordeaux Sciences Agro(ボルドー国立農業技術学校)などが代表的です。
農業領域に特化したグランゼゴールは、Agreeniumというフランスの食料農業省、高等教育・研究省、外務・欧州省の共同省令によって設立されたコンソーシアム機関に所属し、フランスの農業エコシステムの重要なプレーヤーとして活動しています。
各グランゼゴールは、この機関の中で学生を国際的な研究プロジェクトや交流プログラムに送り出し、グローバルな農学の課題解決に取り組んでいます。
例えば、現在進行中のプロジェクトには、サヘル地域の干ばつに対する取り組みをAGRHYMET(農業気象水文機関)の共同実施やASEANにおける食の安全性と品質の課題に取り組むASIFOODなどがあります。
このように、フランスのグランゼコールにおける農業への取り組みは持続可能な開発や国際協力を中心に展開されており、次世代のイノベーションが生まれる事を期待されています。
最後に
いかがでしたでしょうか?
農林水産省によると、フランスはEUの主要な農業国で、農用地面積はEU全体の18%(2021年)、農業生産額はEU全体の21%(2021年)を占めEU最大です。
つまり、フランスの農業にEUの食糧安全保障が深く関連していると言っても過言ではなく、以下の通りフランス自身も農業を重要視していることがFrance2030から読み取れます。
国家規模で壮大な問題に取り組むフランスから、新たな技術やソリューションを持つスタートアップが生まれることが期待されます。
日本でも農業就業人口の減少などにより、農業における問題が深刻化していることから、注意深く観察していきたいですね。
本noteが皆さまの学びやインプットに資する内容となれば幸いです。
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