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銭湯私景・第弐湯『電氣』

私のホーム銭湯である東光湯(仮名)には、5✕5mのサイズの主浴槽のほかに、バブルが出る「寝湯」と「でんき風呂」がある。

「でんき風呂」とは何か。昔はなかったような気がするが、どうだろう。いつごろから導入されているのか、効能はいかばかりかなど、皆目見当がつかないし、詳しく調べる気力もまったく湧かないが、入ると確かに肌がピリピリっとする。個人的には、何かの拍子に電圧を高めすぎたら感電するんじゃないか、と若干疑っている。

浴槽内の壁面には、22インチのモニターぐらいのサイズの鉄板が貼られていて、そこから電気的なピリピリを放出しているようだ。

ある日、「でんき風呂」の近くを通りかかると、ひとりのおじいちゃんが浸かっていた。浸かっているのはいいが、その姿勢が完全におかしく、説明が困難だが、水泳の背泳ぎのスタート時のような、もっとはっきり云ってしまうと、いわゆる「まんぐり返し」のようなアクロバティックな体勢(noteで大丈夫ですか?)になってしまっており、その状態から恨めしそうにこちらを睨んでくる。表情は真顔だ。

コレ、何が起こっているのかというと、たぶんこのおじいちゃんはヒザに持病を抱えていて、患部の右ヒザを鉄板に近づけて電気のピリピリを強めに当てたい一心で工夫するうちに、結果的に水中で奇妙な姿勢になってしまった、というのが経験豊富な銭湯探偵である私の見立てだ。おじいちゃん本人に確認はしていないし、訊く気もさらさらないが、傍目(はため)にヒドい姿勢であることは間違いないし、何よりもこちらを真顔で睨んでくるのだ。

私は無言でそっと目をそらし、露天風呂に向かった。


♪本日の銭湯インストルメンタル
『The Goonies "R" Good Enough(グーニーズはグッドイナフ)』/1985年/シンディ・ローパー
※映画『グーニーズ』の主題歌。何だよ、この選曲は! ファミコンのゲームも懐かしいですね。

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