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教祖の脱税・有罪判決・収監(1984年7月20日〜1985年8月20日)- 自身の名義で総額170万ドルの預金などを持ち、計16万2千ドルの利子収入などを得たが、税金を払わなかったため、内国歳入庁(IRS)に訴追され有罪(懲役18カ月・罰金2万5千ドル)となった。

1970年代は文教祖のアメリカ時代だった。彼は反共を標榜して大都市において大規模な集会を開いて注目を集めるようになった。それに伴って1978年、彼の特別補佐官パク・ポヒ氏がアメリカ下院の国際関係小委員会(フレーザー委員長)に召喚されて調査を受けるなど彼の米国内のおける活動が制約を受けるようになった。脱税容疑でダンベリー刑務所に収監されて13ヶ月間服役して85年に出所した。統一教では生涯に6回に渡って刑に服する試練に遭ったとしている。

6回の刑務所ぐらし、異端論争…文鮮明総裁とは一体誰なのか?

(前略)

文師の脱税事件について説明しておこう。

アメリカの税制度では、宗教団体は納税義務を免除されている。しかも、免除されるのは、連邦税から地方税まであらゆる税についてである。宗派や信者数は関係ない。教会と名のつくかぎり、100%非課税という特権を有しているのである。

文師は自分名義で、チェース・マンハッタン銀行などに、総額一七〇万ドルの預金などを持っており、計一六万二千ドルの利子収入などを得た。これに対する税金を払わなかったため、IRS(内国歳入庁=日本では国税庁にあたる)から訴追された。文師側は、「たとえ個人名義でもこれは教会の金である(ゆえに無税)」と主張したのだが、最終的に裁判所はこれを認めず、懲役一八カ月、罰金二万五千ドルという有罪が確定した。

(後略)

朝日ブックレット 49・追求ルポ 原理運動
ルポ 6・崖っぷちに立つ文鮮明のアメリカ生き残り作戦

(※ 当時の外国為替レートは1ドル = 240円 前後。)

法務省に圧力をかけて1992年に文鮮明教祖を無理矢理入国させた金丸信氏の武勇伝については以前に別の記事『1992年の文鮮明教祖来日に金丸信副総裁(当時)ら政界が便宜』でふれましたが、4月6日に韓国外交部が公表した外交文書でも確認されました。

文鮮明氏は本来「入国不許可」だったが、金丸信氏「保証」で来日実現 ...韓国外交文書

2023/04/07 07:27

【ソウル=上杉洋司】「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)創設者の文鮮明氏が1992年に来日した際、本来は入国が不許可となるところ、自民党の金丸信副総裁(当時)の便宜で認められたことが、韓国外交省が6日公開した外交文書で明らかになった。

文氏が当時から自民党有力者と深いつながりを持ち、日朝国交正常化に意欲を燃やしていた金丸氏が、北朝鮮とパイプを持つ文氏に特段の配慮をしていたことをうかがわせるものだ。

この経緯が記されていたのは、駐日韓国大使が92年3月31日付で外相に送った2通の公電。文氏は米国で脱税の有罪判決を受けて服役しており、入管法の規定で本来は入国できなかった。韓国大使館が日本外務省に文氏の入国について非公式に問い合わせたところ、法務省は当初、不許可とするつもりだったが、金丸氏が「保証」したことにより、入国が認められたとの説明を受けたという。

公電によると、文氏は自民党の国会議員らで作るグループの招請で講演のために3月26日~4月1日の日程で米国から来日。3月31日には東京都内のホテルで約2時間、金丸氏と面会した。

韓国外交省は作成から30年が経過した外交文書を公開している。

松野官房長官は6日の記者会見で「法相の裁量的な処分である上陸特別許可を受けて上陸が認められたものと承知しており、当時の法相の判断として適切なものであったと聞いている」と述べた。


1978年の来日以降、教祖の入国は許可されませんでしたが、教祖がアメリカで懲役一年六月の判決(1984年5月に確定)を受けてダンベリー刑務所(コネチカット州)で服役(入管法第五条の上陸拒否事由に該当)した後、教祖の入国は不可能となっていました。

(追記 1984年11月26日付のレーガン大統領(当時)宛の親書で岸信介元首相は文鮮明教祖の釈放を嘆願しました。)

(追記 釈放された1985年8月20日(当日)の動画を見ると、教祖は(日本語ほどには)英語は流暢ではなかったのかもしれません。)




Reverend Sun Myung Moon smiles and waves on July 4, 1985, as he leaves the Federal Correctional Institution in Danbury, Conn after serving 13 months of his 18-month sentence for tax evasion. He served out the rest of his sentence at a halfway house in Brooklyn, N.Y.
A cartoon of Reverend Moon converting the prisoners in Danbury Federal Prison
July 5, 1985, New York Post

脱税の罪で起訴され有罪となり服役した経緯は Wikipedia(英語版 - Google 翻訳)(罰金は15,000ドルと記載されていますが、おそらく誤り)等にまとめられていますが

日本語で書かれた記事を探してみたところ(この記事の冒頭でも引用した)『ルポ 6 崖っぷちに立つ文鮮明のアメリカ生き残り作戦』(朝日ブックレット 49、追求ルポ 原理運動、1985年3月15日、朝日ジャーナル編、朝日新聞社発行)の一節が目に留まりました。

(前略)

文師の脱税事件について説明しておこう。

アメリカの税制度では、宗教団体は納税義務を免除されている。しかも、免除されるのは、連邦税から地方税まであらゆる税についてである。宗派や信者数は関係ない。教会と名のつくかぎり、100%非課税という特権を有しているのである。

文師は自分名義で、チェース・マンハッタン銀行などに、総額一七〇万ドルの預金などを持っており、計一六万二千ドルの利子収入などを得た。これに対する税金を払わなかったため、IRS(内国歳入庁=日本では国税庁にあたる)から訴追された。文師側は、「たとえ個人名義でもこれは教会の金である(ゆえに無税)」と主張したのだが、最終的に裁判所はこれを認めず、懲役一八カ月、罰金二万五千ドルという有罪が確定した。

(後略)

朝日ブックレット 49・追求ルポ 原理運動
ルポ 6・崖っぷちに立つ文鮮明のアメリカ生き残り作戦

(※ 当時の外国為替レートは1ドル = 240円 前後。)

念のため、記事全文を末尾に引用しますが、法律に従えば、教祖が日本に上陸することが不可能であったことは明らかです。東京佐川急便事件で晩節を穢す前の金丸信氏の影響力は凄まじかったようです。

尚、教祖が収監された際には、神山威(12双)日本統一協会 第2代会長も偽証罪で同じ刑務所に収監されました。


出入国管理及び難民認定法


第二節 外国人の上陸

(上陸の拒否)

第五条 次の各号のいずれかに該当する外国人は、本邦に上陸することができない。

 日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、一年以上の懲役若しくは禁錮又はこれらに相当する刑に処せられたことのある者。ただし、政治犯罪により刑に処せられた者は、この限りでない。


(前略)

統一教会のアメリカでの不人気、評判の悪さの理由について、まず、教祖が韓国人であることかあげられる。これは、単なる人種的偏見以上に根が深い。

日本の仏教徒の前に、突然、白人が現われて、新たな仏教の教えと称するものを説いたらどうだろう。もともとアジアの教えである仏教を、よりにもよって西洋人に説教されるとは、夢想だにしなかったに違いない。東洋人である自分たちの方が、仏教の本質を理解している、と信じたいはずでもある。この反発は、深く帰依していればいるほど、強いのではなかろうか。

それと同じ反発を、文師は平均的アメリカ人にもたらした。宗派の違いにかかわらず、信仰心が篤ければ篤いほど統一教会を嫌悪する、という一般的傾向が見られる。

超保守派も「反キリスト」と批判

教義の対立もある。文師を救世主と見なす統一教会の教えは、キリストの再臨を信じ、待ち望む伝統的クリスチャンには、とうてい受け入れがたいものなのであろう。

超保守派で反共にこり固まったファンダメンタリストたちが、活発な反共運動を展開している文師と協調、共闘するどころか、「統一教会は反キリストである」とののしってきた背景には、こうした対立と不信とがあるのだ。

さらに、統一教会が布教活動の強引さでしばしば摩擦を起こし、そのメンバーらが各種の事業活動をしているため、宗教団体というよりも金もうけの団体ではないか、という印象を平均的アメリカ人が受けていることなどもある。

(後略)

朝日ブックレット 49・追求ルポ 原理運動
ルポ 6・崖っぷちに立つ文鮮明のアメリカ生き残り作戦

朝日ブックレット 49

追求ルポ 原理運動

(1985年3月15日、朝日ジャーナル編、朝日新聞社発行)

ルポ 6 崖っぷちに立つ 文鮮明のアメリカ生き残り作戦


中島 修(ジャーナリスト=ニューヨーク在住)

なかしま おさむ
1948年北九州市生まれ。慶応大工学部中退。専門紙記者、英語雑誌編集部を経て、いくつかの米紙で研修を受けた。

八四年秋、一部の在米日本人宅に、一通の手紙が舞い込んだ。発信者は神山威、発信地はコネチカット州ダンベリーの連邦刑務所(ただし消印はニューヨーク市)になっていた。

心当たりのないままに開封した人たちは、この神山氏が、あの統一教会の教祖・文鮮明師とともに、同刑務所に服役中の人物だと知って、二度ビックリ。やや時代がかった言い回しでつづられた文面には、有罪になったのは法廷通訳の誤訳のせいだから、再審に、お力添えを願いたい、などと書かれていた。

文師の脱税事件について説明しておこう。

アメリカの税制度では、宗教団体は納税義務を免除されている。しかも、免除されるのは、連邦税から地方税まであらゆる税についてである。宗派や信者数は関係ない。教会と名のつくかぎり、100%非課税という特権を有しているのである。

文師は自分名義で、チェース・マンハッタン銀行などに、総額一七〇万ドルの預金などを持っており、計一六万二千ドルの利子収入などを得た。これに対する税金を払わなかったため、IRS(内国歳入庁=日本では国税庁にあたる)から訴追された。文師側は、「たとえ個人名義でもこれは教会の金である(ゆえに無税)」と主張したのだが、最終的に裁判所はこれを認めず、懲役一八カ月、罰金二万五千ドルという有罪が確定した。

興味深いのは、宗教団体の多くが足並みをそろえて文師側を支援した、という事実である。右は超保守派のモラル・マジョリティーのリーダー、ジェリー・ファルウェル師に代表されるファンダメンタリストのグループから、左は故マーティン・ルーサー・キング師らが創設したグループまでが含まれる。

常日ごろ、教義の解釈などをめぐって不協和音が絶えず、おまけに、これまで統一教会をこっぴどく批判してきた団体がほとんどなのに、なぜこれだけ大同団結できたのか。答えはきわめて簡単明瞭である。ある口の悪い批評家のことばを借りれば、「連中は皆同じことをやっているからさ」というわけである。非課税という特権を守ることでは、全宗教団体の現世での利害が一致するから、日ごろの対立もなんのその、大同団結したにすぎない。

マスコミも、こぞってこの裁判を批判した。『ニューヨーク・タイムズ』や『ワシントン・ボスト』などのリベラル派と目されている新聞も、批判的な論調をはった。

しかし、マスコミは、文師や統一教会に賛同して、判決を批判したわけではない。

多くの神父が教会の金を個人名義の口座に預金し、利子を所得として申告していない、と言明している。事実上、それは黙認されてきた。額がケタはずれに大きく、それが個人資産だったのではないかという強い疑いが指摘されても(文師はその金で、自分の子供の授業料を払い、金時計などを買っている)、文師のケースにかぎり訴追するのは、法の下の平等に反するーーというのが、マスコミの趣旨であった。

なぜ、文師が訴追されることになったのか。そもそもの発端は、一九七六年、ドール上院議員(カンザス州選出、共和党の実力者)がIRSを動かし、文師の税務調査をさせたことである。政敵を蹴落としたり、目ざわりな人物を黙らせたりするのに最初に使われるのが、この税務調査なのである。

ドール議員はなぜIRSを動かしたのか。IRSはなぜ、税の追徴ではなく、きわめて異例の訴追という強硬手段に踏み切ったのか。

文師および統一教会の評判があまりに悪いからだ、というのが衆目の一致するところである。

統一教会のアメリカでの不人気、評判の悪さの理由について、まず、教祖が韓国人であることかあげられる。これは、単なる人種的偏見以上に根が深い。

日本の仏教徒の前に、突然、白人が現われて、新たな仏教の教えと称するものを説いたらどうだろう。もともとアジアの教えである仏教を、よりにもよって西洋人に説教されるとは、夢想だにしなかったに違いない。東洋人である自分たちの方が、仏教の本質を理解している、と信じたいはずでもある。この反発は、深く帰依していればいるほど、強いのではなかろうか。

それと同じ反発を、文師は平均的アメリカ人にもたらした。宗派の違いにかかわらず、信仰心が篤ければ篤いほど統一教会を嫌悪する、という一般的傾向が見られる。

超保守派も「反キリスト」と批判

教義の対立もある。文師を救世主と見なす統一教会の教えは、キリストの再臨を信じ、待ち望む伝統的クリスチャンには、とうてい受け入れがたいものなのであろう。

超保守派で反共にこり固まったファンダメンタリストたちが、活発な反共運動を展開している文師と協調、共闘するどころか、「統一教会は反キリストである」とののしってきた背景には、こうした対立と不信とがあるのだ。

さらに、統一教会が布教活動の強引さでしばしば摩擦を起こし、そのメンバーらが各種の事業活動をしているため、宗教団体というよりも金もうけの団体ではないか、という印象を平均的アメリカ人が受けていることなどもある。

そうした背景を考えると、統一教会がいまだに米国キリスト教協議会に加盟できず(一九七五年に申請、却下)、文師が七五年にニューヨーク州ベリータウンに設立したセミナリー(神学校)が、現在にいたるも正式に認可されない(再申請中)、といった事情も理解しやすくなる。

アメリカで統一教会は伸びているのだろうか。答えは否、である。コロンピア大学大学院神学部博士課程の研究者によれば、統一教会は、伸びるどころか、むしろ脱会者が増え、後退しているという。現在のアメリカ人会員数は「せいぜい二千人どまり」と、彼は推定している。

ある女性会員は「多数の外国人が来てるから、在米の会員は少なくとも三千人」と打ち明けた。

もっとも、統一教会本部(ニューヨーク)の広報責任者はアメリカの信者数について「四万~四万五千人」という。

文師が活動の本拠に選んだアメリカで退潮が続くのは、ゆゆしき事態である。そこで、文師は日本と韓国から、幹部を含む大量の会員をアメリカに送り込み、なんとか盛り返そうとした。その結果、主要ポストの大半が韓国人と日本人で占められることになった。

アメリカ統一教会の組織機構は全米を五州ずつ、一〇の地域に分けている。この一〇地域のすべてで地域責任者には韓国人が任命されている。言葉の問題があるので、いずれもアメリカ人の補佐役がつけられている。

各地域には、五人の州責任者が置かれ、それぞれ一州ずつ統括する。たとえば、ニューヨーク州責任者が日本人であるなど、ここにも相当数の外国人が任命されている。

各州はさらに五地区に分かれ、それぞれ地区責任者がいる。

こうして、全米に二五〇のセンターが置かれていることになるが、会員がニューヨークなどの大都会に集中しているので、事実上、名前だけのセンターも多い、と見なければならない。

統一教会といえば、かつては「花を売る娘たち」として名高かった。統一教会本部によると、こうした街頭募金は布教活動の一環だという。資金集めという実益と会員の自己修業という宗教目的にかなうというのだ。

三年間、街頭募金活動に従事し、花やキャンディーを売ったというある女性会員は、毎日、記録をとり続けた。「早朝六時ごろから、深更一時ごろまで働いた」ーーその献身ぶりには目を見張らせられる。平均収入は「一日一四〇ドル」だったという。

二年間、週一、二回、花を売ったという女性会員は、「朝八時から深夜一一時まで働いても一日五〇ドルから一〇〇ドルくらいにしかならなかった」と言った。とくに、統一教会のことが知れわたっているニューヨークでは厳しいという。

この街頭募金からの寄金だけでは、統一教会の潤沢な資金はとても説明できない。そこで、アメリカで事業部門といわれているものを見てみよう。

エンパイヤ・ステート・ビルの六一階に、ハッピーワールドUSAという会社がある。雑貨を扱う小さな貿易会社である。元『世界日報』編集局長の副島嘉和氏が日本の雑誌で「統一教会の重要企業」と指摘したハッピーワールドのアメリカ現地法人と目されている。取材を申し込んだが、責任者(日本人)に拒否された。

五番街に面して、文師が創刊した『ニューヨーク・シティー・トリビューン』のビルがある。この地下に、イルファ(一和)、ジンセン・アップという二つの会社が入っている。名目上は二社だが、社長(韓国人)、副社長(日本人)は兼任、オフィスも共通、スタッフも同じ。事実上、一心同体の会社である。社長、副社長など社員の大半は統一教会のメンバーである。

両社はもともとエンパイヤ・ステート・ビルの六一階にあった。両者が移転した後に入居したのが、ハッピーワールドUSA。八四年三月のことであった。

七七年に創立されたイルファは、日本で朝鮮人参とか高麓人参などと呼ばれている人参を韓国から輸入している。人参茶、錠剤も扱う。

ところが、人参についての碁本的知識のないアメリカでは、あまりもうからなかったらしい。新製品の開発につとめた結果、ついにヒット商品を生み出した。ジンセン・アップ(炭酸飲料)がそれである。「このところ毎年、三倍増で伸びています」と、担当者は胸を張る。

統一教会本部は、統一教会とかかわりがある、といわれている各種のビジネスについて「独立の事業である」と主張する。確かに、ビジネスは教会の一部門、宗教活動のひとつとして行われているわけではない。会社は登記上、教会と別組織であり、税金も払っている。

しかし、『ニューヨーク・タイムズ』によれば、ほとんどの場合、会社は教会のメンバーによって所有され、運営されている、という。例えばーー

マサチューセッツ州グロースターといえば、アメリカでも有数の漁業基地として名高い。ここに、インタナショナル・シーフードという水産会社がある。地元からロブスターを買い上げ、加工し、世界中に出荷している。自前のマグロ船団も所有し、夏の漁期には活況を呈する。同社を中心とする水産業は、一連の事業の中で、最も成功しているものにあげられている。

また新事業として注目されるものに、日本レストランがある。赤い花(プロードウェー)、黄色い花(五六丁目)、かおり花(ウォール街の近く)、園花(三四丁目)、という具合に花という字が入っているので、内部では「花シリーズ」と呼ばれている、という。現在、マンハッタンに五、六軒というところだが、ある幹部は「目標千軒」とぶちあげている。

文師の片腕・朴氏を送り込む

反共軍事政権の多い中南米で、文師の提唱した「CAUSA」(カウサ)という反共運動が活発な活動を展開してきた。ところが、伝統的にローマ・カトリックの影響力が強いこれらの国々では、民衆の強い反発を買い、必ずしも勢力は伸びていない、と伝えられている。

一番有名な例はブラジルであろう。三年あまり前のことになるが、統一教会の活躍ぶりがテレビで報道された後、全国的に反対運動が巻き起こり、怒った民衆は七都市で統一教会の建物に投石し、破壊し、略奪し、放火した。その結果、中南米最大を誇ったブラジルでの勢力は、一時壊滅状態にまでおちいった、と伝えられる。

そこで、文師は、方針を転換した。その第一の拠点に選ばれたのが、ウルグアイであった。

『ニューヨーク・タイムズ』によれば、一九八一年以降、総額七千万ドル余が投じられ、同国第三位の銀行であるバンコ・デ・クレディトを支配下に収め、大統領府と向かいたつビクトリア・プラザ・ホテルを購入し、『ウルティヌス・ノーティシアス』という日刊紙などを買収している。

総人口二九〇万の同国に、統一教会の会員は二〇人もいない、という。それなのに、なぜウルグアイなのか。民政移管を望まぬ現軍事政権との結びつきが取りざたされる。

ビジネス部門といわれているのはこれだけではない。

『デイリー・ニューズ』によれば、トンイル(統一)をはじめ、総計一五〇あまりの関連企業があるといわれている。広大な不動産もある。ウエストチェスター郡(ニューヨーク州)だけで、五〇〇エーカー、一二〇〇万ドルにのぼる土地もあるという。そして、会員が独立して事業を営んでいるケースも多い。むしろ、それを奨励しているといわれている。

一九七六年に設立されたニューズ・ワールド・コミュニケーションズ社の社長が、文師の片腕として知られた、韓国陸軍退役中佐・朴普熙氏である。一九七八年に米議会でいわゆるコリアゲート事件の調査が行われたとき、KCIAとの癒着が取りざたされた人物でもある。

同社の発行する日刊紙について触れておこう。

『ワシントン・タイムズ』は首都ワシントンの超保守派新聞であり、リベラルな『ワシントン・ポスト』を好まぬ保守政治家、ビジネスマンなどを含め、一定の読者層を持つ(推定九万五千部)。レーガン大統領のお気に入りで、大統領が同紙の記事をよく引用するのは有名な話である。

最近、西海岸でも印刷を開始し、年内にシカゴ、ダラスでも印刷開始の予定。全国紙化を目ざして、鼻息が荒い。といっても、採算がとれているわけではなく、ここ数年以内に採算が取れる見込みもない。創刊二年半で同紙につぎ込まれた金は、一億五千万ドルを超えている。

『ノーティシアス・デル・ムンド』はニューヨークで発行されているスペイン語紙。コミュニティー・ペーパーとしての性格が強く、記事もくだけたものが多い。有力な競争紙がないこともあり、一九八〇年四月の創刊以来、わずか四年あまりで、ヒスパニック・コミュニティー最大の新聞に成長した、といわれている。

潤沢な資金で権威づけ策す

『ニューヨーク・シティー・トリビューン』は七六年一二月、タブロイド判の『ニューズ・ワールド』として創刊された。八三年四月、『ニューヨーク・トリビューン』へ改題されるが、それはスタートからつまずく。『ニューヨーク・タイムズ』から、題字があまりに似ていると訴えられ、タイトルから定冠詞(The)を落としたうえ、字体も変更せざるをえなかったのだ。タイトル問題はその後も尾を引き、結局、一〇月一七日付で、再度の変更(『ニューヨーク・トリビューン』→『ニューヨーク・シティー・トリビューン』)を余儀なくされた。

これは、同紙の苦難の道そのものといえよう。大手の日刊紙だけで四紙がしのぎを削る、競争の激しいニューヨークでは部数も伸び悩み(推定約六万部)、必死のテコ入れにもかかわらず、多額の累積赤字をかかえている。

同紙のモートン編集局長は、二年間東京特派員を務めたこともある日本通である。「『ニューヨーク・タイムズ』に代表される、リベラリズムに毒されたアメリカのマスコミを正常化するために、私たちは使命感をもって努力している。批評・解説に重点をおいた編集方針は、いつかきっと受け入れてもらえると信じている」と語った。

文師は、新聞のほかにも言論界への影響力の浸透をはかっている。一九六八年、国際文化財団を設立した。同財団は最近、むこう五年間に五〇〇万ドルの予算を計上し、パラゴン・ハウスという出版社を設立したばかりであり、「世界平和教授アカデミー」「科学の統一に関する国際会議」のスポンサーになっている。

ノーベル賞受賞者を含む著名な学者が相当数これらに参加している。なぜか。「文師の厳命を受け、ノーベル賞受賞者を獲得すべく、〝リクルート〟して回った」という元幹部の暴露証言は、その理由の一端を物語っているといえよう。

統一教会は、アメリカに関するかぎり、決して伸びてはいない。むしろ、悪評にあえいでいるのが現状である。しかし、かれらは自らを権威づけ、正当化するために、さまざまな顔を装い、あらゆる可能な手段を探っている。ここに記したのは、ごく一部にすぎない。それを可能にしているのは、潤沢な資金であり、大量派遣された韓国人、日本人会員なのである。

最高幹部は韓国人、実務をとりしきる中堅幹部は日本人、第一線で手足となって働き、金を稼ぐのも日本人、それに加えて日本からの大量送金--という構図になっているのである。

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