ネタバレで人は殺せるか

夕刻。渾身のキムチパスタの味を調えていると、我が長兄・ラオウが久しぶりに実家に帰ってきました。

私「この前送った小説、どうだった?」

数週間前にしたためた3000字程度の小説を読んでもらおうと、ラオウにメールで送っておいたのです。

ラ「あの物語、気持ち悪かったな。××が○○じゃないのはわかったけど、結局××はなんだったんだ……?」
私「うふふ、それはね……」

期待通りの感想です。文中に散らかしておいたヒントを小出しにして長兄・ラオウのリアクションを楽しんでいると、隣に座っていた中年男が細い目をさらに細めて口を開きました。

男「あぁ、△△(物語の核心となってしまう単語)の話だろ?」

この男、我が父・リュウケンです。リュウケンが口を開けば禍が起きる。そう思って、我が家でリュウケンにだけは私の小説を読ませていなかったのです。数日前に読ませた我が次兄・トキが、食卓でボソッと私に△△を耳打ちしていたのを上手く盗み聞きしていたのでしょうか。

YouTubeで関連動画をたくさん見て、図書館に行って関連書籍を読み、数日かけて夜な夜なしこしこと書いた物語です。

書き上げたときの喜び、読んでもらって気持ち悪がってもらえることの気持ちよさ。今日この瞬間までの日々は、振り返ってみれば、久しぶりに誰かに恋をしているような瑞々しい時間でした。

我が母、トキ、ラオウ、我が友人・シン、レイ、けんか別れしてしまったユリア……。目をつむれば付き合ってくれた仲間たちのリアクションがありありと蘇ってきます。特に「俺のはじめての性描写を読んでくれ」と言って原稿を手渡したときの友人の表情が忘れられません。

まさか一度も内容を読んでいない人にネタバレをかまされるなどとは……。

ミステリー作家もこんな気持ちになることってあるのでしょうか。

もしそうなら、とてもうれしいです……。

おしまい

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