【Interview企画/ちうね先生-Vol.2】碓氷峠の魅力とその伝え方 in 大正4コマ漫画『紡ぐ乙女と大正の月』【学生小委員会】
みなさんこんにちは!土木学会学生小委員会です!
前回に引き続き、漫画『紡ぐ乙女と大正の月』作者のちうね先生・担当編集の門脇拓史さんへのインタビューの様子をお伝えします。
『紡ぐ乙女と大正の月』はちうね先生が『まんがタイムきららキャラット』にて連載されていた4コマ漫画で、女子高生・藤川 紡が大正時代にタイムスリップし、窮地に陥ったところを助けてもらった令嬢・末延唯月らとともに女学生として生活する日々を描いた作品です。
作中で主人公たちが上野から軽井沢の別荘へ向かうのですが、そこで当時の最新の土木技術が詰まった「碓氷峠」の鉄道が登場します。今回は、碓氷峠のロマンとそれを漫画で伝える上での工夫について伺います!
↓前回はこちら!
大正時代の鉄道旅のロマン
橋本(学生小委員会)
第13話では、主人公の紡たちが避暑地・軽井沢に向かいます。上野から軽井沢まで碓氷峠を越えていく鉄道旅が丁寧に描かれていました。1話かけてじっくりと話を進められたのには理由があるのでしょうか。
ちうね先生
やっぱり、現代の私たちは、東京から軽井沢だったら新幹線でピューって行けると思うじゃないですか。昔の人はこれだけ時間をかけたというのを示したかったというのがあります。
ちうね先生
それと、私はもともと鉄道に詳しくはないのですが、大正時代に碓氷峠を走っていた鉄道は「アプト式」という特殊な形式で、昔はこんな苦労をしながら急斜面を列車が登って行ったということにロマンを感じて、しっかり描きたいなと思ったんですよね。
橋本(学生小委員会)
碓氷峠にも実際に行かれたとお聞きしましたが、取材をされた際の思い出などはありますか。
ちうね先生
「アプトの道」といって、もともと列車が走っていた線路跡やトンネルを歩くことができるんですよ。「ここを昔は列車が通っていたんだ」とか、「100年前の裕福な人たちはこれに乗って軽井沢に行っていたんだ」と実感して感動しました。文献で読んだことを実際にその場で見られるのが歴史の面白いところだと思っていて、そういう意味でもアプトの道を歩いたのが一番思い出深いです。
門脇(担当編集)さん
でも、あの回は本とかも買ったりして苦労しましたね。
ちうね先生
そうですね、漫画を描いている時間よりも調べている時間の方が長いくらいです。鉄道の前提知識がないので、何がわからないのかもわからないというような感じでした。
「そもそもどこ行きなの」みたいなところから調べました(※当時は上野発・長野経由・新潟行き)。大宮の鉄道博物館に見学に行って、大体これくらいの年代のものかなっていう列車をお手本に書いていました。
川端(学生小委員会)
客車の間に機関車が挟まっている当時の列車の編成も再現されていて、すごいなと思いました。
ちうね先生
そうなんですよね。軽井沢まで急な坂を登っていくために、真ん中と後ろに機関車がくっついて押し上げていく。冷静に考えたら当然なんですが、機関車は先頭についているイメージだったので、本で調べていて目から鱗でした。
※ちうね先生の碓氷峠取材記があります。こちらも是非読んでみてください!
説明口調は禁物!
宮﨑(学生小委員会)
ちうね先生は歴史が好きで、細かいところまでこだわって調べて描いていらっしゃるということがよくわかりました。
私は歴史の勉強が嫌いなタイプだったんですが、この漫画で出てくる大正時代のエピソードは抵抗が無くて、むしろ好きだなって思えました。史実を漫画の中で伝える中で工夫されていることはあるんでしょうか。
ちうね先生
やっぱり、説明っぽくなりすぎないようにすることでしょうか。こういうものがありますよって言うときに、言葉で全て説明するのは簡単ですが、それだと歴史の教科書と変わらなくなってしまう。あくまでキャラクターが動いていく中で自然に使うとか、会話しながらみたいな感じで、自然に出てくるように心がけています。
碓氷峠の回でも、もし初野(※主人公の同級生)とかが碓氷峠の鉄道についていきなりバーッて話すと、キャラクター性もおかしくなるし、読んでる人も引いてしまいます。会話の中で、自然に「あ、そうなんだ」って思えるような工夫をしています。これがなかなか難しいんですが……。
ちうね先生
それと、セリフ数を減らすように気を使っています。4コマ漫画はただでさえ密度が高いですし、時代ものという側面もあるので、説明っぽいと読みづらくなってしまいます。
ネームの段階では、わかってもらえないんじゃないかと思って、結構色々書いてしまうのですが、門脇さんに客観的な視点から、これは説明しすぎじゃないですかって削ってもらいます。門脇さんのおかげでかなり読みやすくなっていると思います。
門脇(担当編集)さん
極力、1吹き出しで3行を超えないようにしてます。
その知識を伝えてもそんなに面白くならないっていうところもあるので、そういう部分は削っていきます。
ちうね先生
深く読んでる人が、これって説明されてないけどどういうことなのって思ったら調べてもらうって感じで、説明しなくても話に影響しないところは、ちょっと流したりすることもありますね。
読み手の興味を引くコツとは?
宮﨑(学生小委員会)
ちうね先生は、ご自身が面白いと感じられたものを伝えるのが上手だなと改めて感じました。伝え方に関して他に意識されていることはありますか。
ちうね先生
親近感が湧くように、身近にあってわかりやすいものから入っていくようにしています。
例えば、数年前の上野の展覧会(※注)で知ったのですが、中国の清の康熙帝にこんなエピソードがあります。中国の清の康熙帝がマンゴーって食べ物があると知って、それは食べてみたいなって言った。その話を聞いた南国に赴任中の官僚が、当時は冷蔵技術がないので、腐らないようにドライマンゴーにして送った。でも、康熙帝は、いざ食べたらちょっと違うかなって思って「朕には不要のものである」と言ったそうです。
取り寄せたものが思った感じじゃなくて違うなって感じることは、自分たちもあるじゃないですか。そういう話に触れると、皇帝ってお堅いイメージがあるけれど、やっぱり人間なんだなって親近感が湧くかなと思います。あんまり興味がない人にも「これならわかる」っていうところを話の入り口にしてあげると、どんどん引き込んでいけるんですよね。
土木に関しても、橋とか、そういう身近な風景に映るものがたくさんあるじゃないですか。私も能登半島地震の時に、高架橋のゴム支承が地震の揺れを逃がしている動画をTwitter(現:X)で見て「あ、そうなんだ!」ってなりました。
そういう身近にあるものから映像を使って説明していくと、へえ、これってこういう役割があるんだって伝わっていくのかなと思います。
(※注:東京国立博物館で2014年に開催された特別展「台北 國立故宮博物院ー神品至宝ー」)
感想
取材チームも碓氷峠・アプトの道を訪れたことがあるのですが、ちうね先生も実際に歩かれる中で、大正時代の鉄道のロマンを感じられたとのことで、共感するところがあって嬉しく思いました。
多くの人を惹きつける作品作りには、徹底的に調べあげること、そして選りすぐったエピソードを登場人物たちの自然なやり取りの中で伝えることが大切だということがわかりました。今回お二人に教えていただいた、説明しすぎない、自然な流れの中で、身近な話から伝えていくといった工夫は、私たちの様々なアウトプットにも活かしていきたいと思います!
↓取材チームが碓氷峠を訪問した時の記事はこちら(近日公開予定)
<謝辞>
今回私達のインタビューのために貴重なお時間を頂戴しました
ちうね先生
担当編集 門脇 拓史 様
には厚く御礼申し上げます。本当にありがとうございました。
<取材チーム>
学生小委員会
東洋大学 宮﨑康平
東京大学 橋本拓幸
東洋大学 川端浩平
2024年1月12日 『土木学会応接室』にて
<メンバー随時募集中!>
「インタビューを通して、直接話を聞いてみて考えを巡らせたい!」「インタビューしたい相手がいる!」という学生は、是非とも学生小委員会に参加し、私たちとともにいろいろな方へインタビューに行きましょう!その他さまざまな企画も進行中です!