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【書評】【蘇る名作】「最弱球団 高橋ユニオンズ青春記」

おじいちゃん達の青春の記録

かつて「最弱球団」と呼ばれる球団がありました。
対戦相手のバッターが本気を出して打とうものなら、自軍の先輩たちから「打つんじゃねぇ、かわいそうだろ!」と罵倒されることもあったといいます。
若き日の西鉄ライオンズの主砲豊田泰光はこのチームと対戦するときはこう思っていたそうです。
「(早くなくなってくれないかな、こんなチーム…)」

8年連続Bクラスに向けて邁進している我が中日ドラゴンズでさえ、相手チームにそこまで同情されることはありません(実はされているのかもしれませんが)。

そこまで弱かった最弱球団、高橋ユニオンズとは一体どんなチームだったのでしょうか?
1954年から1956年までの3年間しか活動しなかった幻のチームを、ノンフィクション作家・スポーツライターの長谷川晶一氏が存命者たちの証言を丁寧に紡ぎながら、歴史に埋もれた球団にスポットライトを当てています。

そもそもなぜこのような最弱球団が誕生したのでしょうか? それは当時パ・リーグの球団数が7球団であったことに関係があります。奇数なので試合日程を組むのが大変です。ならば1球団減らして6球団にすれば良さそうですが、セ・リーグに人気で劣るパ・リーグは大映スターズ(千葉ロッテのご先祖様的なチーム)のオーナーでパ・リーグ総裁の永田雅一が球団削減ではなく1球団増やして8球団にしてセ・リーグに対抗しようと試みました。
そこで当時の財界の重鎮で隠居生活をしていた「日本ビールの父」高橋龍一郎に球団を持つことを打診。リーグとして全面的に支援すると約束をしてなんとか高橋を肯首させることに成功するのですが、この時の「全面支援」の約束を永田が履行しなかったことが結果的に3年で消滅する「最弱球団」を誕生させることになってしまったのです。

パ・リーグ各球団からは「若くて才能のある選手たち」がユニオンズに供出されるはずでしたが、実際に供出されたのは往年の力が衰えた大酒飲みのベテランばかりでした。しかも供出のはずが実際はユニオンズが獲得の対価を払わなければいけない金銭トレードでした。「永田ラッパ」というか、ほとんど悪徳商法、詐欺に近いレベルの話です。羽賀研二もびっくりです。温厚な高橋も「話が違う!」と憤慨しますが、それよりも高橋は「立派な球団を作る」という使命に燃え、私財を投じ、弱くてもスタジアムに応援に行き、たまに勝てばよくやったとベンチ裏で選手を労うなど、健気にチームを支え続けました。

「ポンコツと飲兵衛の寄せ集め」と揶揄され、開幕前から最下位必至といわれる中で初年度は8チーム中6位と健闘しましたが、その後の2年は「最弱球団」の名の通り最下位に終わりました。

そんなユニオンズが生んだ唯一のスター選手が、伝説の番組「プロ野球ニュース」のキャスターでおなじみの佐々木信也でした。
東京六大学のスター選手として慶応大学から入団した佐々木はルーキーイヤーから154試合フルイニング出場、180安打で最多安打(未だに破られない新人最多安打記録)、ベストナインという活躍を見せました。
(しかしこの年の新人王は21勝6敗、防御率1.06という驚異的な記録を残した西鉄の稲尾和久でした)

ある試合でサヨナラエラーをおかしたことを佐々木は振り返っています。グラウンドでうずくまり動けなくなった佐々木を先輩がベンチに連れて帰り、先輩達が次々と優しく励ましてくれました。その瞬間は「いい先輩ばかりだ」「いいチームに入ったな」と思ったそうですが、引退後に他球団を見て回るうちに「だからユニオンズは弱かったのだ」「仲良し球団では勝てない」と悟ったのだそうです。

さて、ユニオンズはなぜ3年で消滅したのでしょうか? セ・リーグに対抗するために球団を増やして8球団にすると大見得を切った永田が、3年経つと掌を返すように「やっぱり6球団にしよう」と言い出したからです。鳩山由紀夫もびっくりです。
不人気故にお金もなく、弱かったユニオンズは永田の大映に吸収される形で消滅します。
高橋はチームが消滅する際には選手達を私邸に集め、全員に大理石の置き時計を記念にプレゼントするなど、最後までチームと選手を思った温かいオーナーでした。こんなオーナー、今は見当たらないですね。

佐々木は大映で2年プレーしましたが、その年のオフに監督の西本幸雄から突然のクビを命じられます。ユニオンズが生んだスター選手はわずか26歳で引退を余儀なくされたのです。
そんな二人は後年「プロ野球ニュース」でキャスターと解説者として共演するようになるのですが、佐々木のわだかまりは消えなかったと言います。西本が佐々木をクビにしたアンビリーバボーな理由は本書でご確認いただければと思います。きっとずっこけます。

チームが消滅して60年以上経ち、存命してるOB達も80歳を超えました。最弱球団と呼ばれ3年で消滅した球団でしたが、それでも今も年に一度同窓会を開き当時を懐かしんでいるそうです。
「最弱球団 高橋ユニオンズ青春記」はプロ野球の歴史を学べる良書でありつつ、おじいちゃん達の青春の記録でもあるのでした。

・長谷川晶一
・577円(Kindle)
・彩図社


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