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マネーフォワードxクラビスのM&A事例から学ぶ「SaaSの非連続成長実現のヒント」by SaaS部 2021 Spring

みなさん、こんにちは。今回は、2021年3月に開催したイベント「SaaS部 2021 Spring」からレポート記事をお届けします。弊社の投資先およびSaaS領域での起業家を対象にしたこのイベント、経営者の皆さんの熱量溢れる学びの詰まった会となりました。

今回は3つのセッションの最後を締めくくった「SaaSの非連続成長実現のヒント」をお届けします。DNX Ventures倉林が、株式会社マネーフォワードのCFO金坂さん、B2B事業のマネーフォワードビジネスカンパニーCOO竹田さんをお迎えして、マネーフォワードによるクラビス社のM&Aを事例としてお話を伺いました。本記事ではその一部を抜粋してお送りします。


M&Aを積極的に活用、起業家の経営参画も

マネーフォワード金坂直哉さん(以下:金坂さん):みなさん、こんにちは。金坂です。私は元々金融で働いていたのですが、2014年にマネーフォワードにジョインして、CFOの仕事をしています。2年程前からスタートアップの成長支援などもやらせていただいています。

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マネーフォワードは創業から9年、現在は4000を超える会計事務所と連携し、日本全国とベトナムにも開発の拠点を置くようになりました。その中で現在コア事業を担っているのはB2B向けのマネーフォワードビジネスドメインです。課金してくださっているお客様が15万社程います。

また、マネーフォワードはM&Aもかなり積極的に行ってきました。現在M&Aという形でグループに入っていただいているのは、クラビス、ナレッジラボ、スマートキャンプ、R&ACの4社です。スマートキャンプ以外の3社はSaaSですね。各社のグループジョイン直後の導入数は、クラビスだと5.5倍、ナレッジラボだと6倍と、買収前に比べてとても強い伸びを見せています。これはM&Aを通じてグループにジョインしてくださった起業家や経営陣の方と一丸となってサービスの拡販に取り組めていることが大きいと思います。そのような成功体験を経て、ジョインしてくれた経営陣がマネーフォワード全体の経営にも入ってくださっています。スタートアップは人が大事なので、経営層のレベルアップや視点の多様化といったシナジーを生んでいきたいと思っています。

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買収された側から経営する側へ、非連続成長を生み出せるM&Aとは

マネーフォワード竹田正信さん(以下:竹田さん):では、ここからはM&Aされた企業側としてお話しさせていただきます。竹田です。

3年程前に経営していたクラビスをマネーフォワードに売却する形でグループにジョインしました。その後グループ本体の営業責任者に就任し、現在はB2B事業であるマネーフォワードビジネスカンパニーのCOOをしています。買収された側がグループ本体の経営をするという珍しい経歴かと思います。

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私のいたクラビスは、領収書や請求書などの紙の証憑をスキャンするだけで1営業日以内に会計データに変換できるという、自動記帳サービス「STREAMED」を提供しています。当時は、今後紙がなくなっていく時代になるのにスケールしないのではないか、とVCから言われていた時期もありましたが、マネーフォワードと一緒になることで、非連続成長と言っていい大きな成長を遂げることができました。マネーフォワードが持つ広い顧客基盤や営業力を活用できたところが大きいですね。ただ同時に、当時マネーフォワードが悩んでいるところを一緒に解決できたことが非常によかったんだと思っています。だからこそ1+1=2ではなく3や4になるような、連続の積み上げだけではできない成長を両社共にすることができました。

当時マネーフォワードは、会計事務所を通じたクラウド会計の導入を推進していたのですが、会計事務所は、所長の平均年齢が65歳とクラウド以前にITに抵抗がある世代が多いんです。特に確定申告の時期など会計ソフトへの転記で皆さん忙殺されていたので、効率化したいというニーズは高いものの、相当なITリテラシーがある事務所や顧問先でないと使いこなすことができずにいました。そこで、そもそもクラウド会計を導入する前に、クラウドを導入したいと思っている会計事務所自体の課題を解決することができないかと考えたんです。まず課題を解決できるパートナーとしてマネーフォワードがプレゼンスを出していくことで信頼感を獲得していく。その信頼を基盤として進めれば、クラウドの導入もドライブしていくのではないかと思います。会計事務所の課題は、なんといっても紙に埋もれてしまい業務が非効率であることです。まずはそれを解決できるSTREAMEDを提供していく方が、お客さんもマネーフォワードにとっても有益なのではないかと思いました。

これまで新規顧客獲得に寄り過ぎていたKPIも、戦略の変更に合わせて、既存顧客への価値提供を評価するように変えていきました。これが結果的に上手くいき、その後のマネーフォワードとクラビスの非連続的な成長に繋がっていきました。M&Aがなかったらこのような成長曲線は描けなかったと思うんですね。AとBが一緒になってABではなくまったく新しいCになっていくこと、これがM&Aの妙味です。新しい価値を創造することができるという意味で、M&Aは非連続成長を生み出す有効な手段だと思います。


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M&Aはスキームや金額ではなくカルチャーを重視

竹田さん:マネーフォワードでは、M&Aや事業提携を通じてプロダクトラインナップや顧客基盤の拡充をしていきたいと考えています。その際、スキームや金額にはこだわっていません。ご一緒したことで経済価値が上がるか、我々が掲げるMisson、Vision、Valueを進めていけるかという目線で、積極的に検討しています。ファイナンススキームについても現金、株式交換共に検討します。過半数取得についても柔軟に捉えており、将来の過半数取得を視野に入れたマイノリティ出資から実績を積み上げていくこともあります。その際のコールオプション要求などもしていません。他社との共同出資も検討可能です。

我々が特に重要視していることとして、カルチャーフィットが挙げられます。協議段階からカルチャーについて、志を共にできる人なのかということを丁寧にすり合わせます。そのおかげで、一般にM&AのPMIは成功確率がとても低いと言われていますが、一緒になってから合わないということはこれまで起きていないですね。買収された会社を経営していただくというのではなく、一緒になった会社を共営していきたいと考えています。


スタートアップによるM&Aが開くSaaSの未来

DNX Ventures 倉林(以下:倉林):ここからは私の方からお二人に質問をさせていただきたいと思います。アメリカでSalesforceによるSlackやTableauの買収など年々M&Aの規模が拡大しているように、今後日本のSaaS業界でも同じことが起きると思います。ただ日本の大企業では、竹田さんのような人をリテインして、本体の取締役のようなポストに置くことは難しいので、スタートアップの買収はできない、あるいはしないということが続いていくことが予想されます。したがって、SaaSスタートアップにとって、マネーフォワードのようなSaaS上場企業によるM&Aは重要な意味を持っていると思っています。

僕と金坂さんの縁は面白くて、僕がMBA時代にゴールドマンサックスでインターンをした時にメンターとしてついていただいたのが金坂さんだったんです。新卒でGSにいる人の優秀さに圧倒されたのをよく覚えています。

そんなM&Aのプロである金坂さんに質問なんですが、Salesforceを見ると、100%買収かつ100%インテグレーション、あるいはSalesforce Venturesから少額出資のいずれかなんですね。マネーフォワードでは比較的柔軟な対応を取られているというお話でしたが、この辺りはどのように整理されているのでしょうか。

金坂さん:お互いの目線が合うのであれば、基本的には100%買収が良いと思っています。クラビスやスマートキャンプはまさにそういった事例ですね。ただM&Aは個別性が高いので、そうでない場合は個別に柔軟に対応していますね。個別性と経営陣同士のコンセンサス次第だと思っています。

倉林:アメリカを見ると、買収後は本体の色に染めていくことが多いように思いますが、竹田さん、クラビスがマネーフォワードに買収されたときはどうでしたか?

竹田さん:それが信じられないくらいなにもなかったんですよね。逆に社長の辻さんに、「どうしたら良いですかね」と言われまして。色に染めるのではなく、一緒にこの状態をどう良くするのか考えようというスタンスでしたね。

金坂さん:私もあまり混ぜすぎない方がいいと思っていたんですよね。クラビスはセールスが竹田さん含めて4人しかいない、プロダクト作りのカルチャーが強い会社だったんですが、それに対して特に当時のマネーフォワードは比較的セールスが強い組織。
マネーフォワードのカルチャーは、スピードとかプライドとか、一般的にスタートアップに共通するような価値観が中心になっていますが、それを押し付けることはしません。むしろ信頼関係を大切にして、元々いるマネジメントの方にそのままマネジメントしていただいていますね。そしてマネーフォワードの仕事も一緒に考えていただくことで、最終的に混ざっていくのが我々が考えるいい形だと思っています。

倉林:そして現在までマネーフォワードのB2B事業は竹田さんがやってくださっている。まだ日本では数少ない珍しいケースだと思いますが、SalesforceのCOOは元々買収されたQuipのCEOであるように、これからは買収された会社のマネジメントの方が本体のマネジメントに入るようなことが当たり前な時代がくると思っています。

(文 / 編集・池袋奈緒子 監修・倉林陽 / 上野なつみ)


他セッションのレポート記事:

https://note.com/dnx_vc/n/n3a8a03e5f59c


関連記事:

https://note.com/dnx_vc/n/ne58e377d771d

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