見出し画像

育児のアウトソースは夢か

Yuita博士と言えば、知的でチョイ悪なのにどこか微笑ましい記事を書く noterさんとして右に出る者がいない存在ですが、今回またしても彼女の記事に触発されて、私は書いています。


可愛い子には旅をさせよ

ひと月前の記事に、こう書きました。

家庭から医療、教育、住居、被服、介護、育児がアウトソースされていき、最後に残された自前主義が料理です。

「育児がアウトソース」とは、例えば保育所です。
実態は、保育所に入れたくても定員オーバーで入れない待機児童がいたり、預かってくれる時間に制約があったりで、フルタイムで働く共稼ぎ夫婦が、育児を完全にアウトソースすることは難しいようです。

正直に白状しますと、私は昔、育児は母親の仕事だと考えていました。
「女たちよ。料理をやめよう」という考えの私が、育児はやろう、という考えだったのです。

その考えは、自分が実際に子供をもってから、変わりました。
親が子につきっきりなのはよくないと気づいたのです。

スイス在住時、私はフルタイムワーカーで妻は専業主婦でした。
妻と娘の二人きりタイムが長くなります。
これは妻にとっても、娘にとっても、好ましくないのではないか。
娘は、親以外の人間に慣れず、人見知りする子になる。
妻は、一人の時間が減る。

そこで、当時 2歳になったばかりの娘を保育園 (nursery) に半日預けることにしました。
最初はたいへんでしたね。
毎朝泣き叫んでましたよ。娘も、(ある意味)妻も。
慣れてくると、一人の時間が増えた妻は泣いて喜んでいました。
娘は保育園に行くのが楽しみになっていました。

簡単なことだったんですね。
親と子は、引き離したほうがいいんだ、と知りました。

引き離すと愛情が弱まる、なんて全く逆で、半日離れていると、娘のママへの恋心は強くなるのです。ママの娘への以下同文。
男女の関係と同じじゃないか。

スイスでは、シッターを雇うのが当たり前の感覚です。
同じアパートの住人から、シッター紹介しましょうか?とよく声をかけられたものです。
でも、うちはシッターを雇ったことはありません。
どうも、シッターと聞くと、頭の悪そうな巨乳娘がやって来て、男どもがたいへんなことになっちゃうんじゃないかと・・・

アメリカドラマの観すぎだよ!

オーマイグッドネス5

共稼ぎとメイド費用の収支

我が家は、スイスから香港に移住して 2年になります。
現在お隣に住むアグネスの例を紹介します。

Agnes(アグネス)
香港人。現在 35歳。香港人のご主人と 3人の子供(7歳女、5歳男、2歳女)と 4人のメイドと暮らす。大手金融機関にフルタイム勤務 (Manager)。
料理を含めいっさいの家事をしたことがない、と明るく話す気さくな人。

先日、世間話のついでに、メイドさんたちのお給料を訊いてみました。

一人につき、HKD 5,000/月だそうです。
1香港ドル=14円として、7万円ですね。
4人で、月 28万円ですか。

以下、1香港ドル=14円で換算した日本円で話を進めます。

アグネスの収入はさすがに訊けません。
が、私の勤務先の社員の給与はわかります。
人材市場の流動性が極めて高い香港ですから、外資系企業の給与水準はどこも同じと考えていいでしょう。
35歳の Manager の年収は、ボーナス込みで 1,300万円です。
月収にすると、108万円。

4人のメイドにかかる費用は、アグネスの収入の 26%。
収支で言えば、108万円 - 28万円 = 80万円の黒字になります。

4人のメイドをペイして、まだ 80万円残りますか。
あと 10人以上雇えますね。

メイドさんのお給料(月 7万円)が低いと思われますか?
これはひとえに、アグネスが雇っているメイドさんが住み込みだからです。
つまり、”家付き” だと考えれば、低くはありません。
香港の家賃相場は、東京の約 4倍です。
仮に、メイドさんが香港で一番安いアパートを借りたとしましょう。
四畳半一間で月 10万円はかかるでしょう。
アグネスの家に住めて、給料を 7万円もらえるということは、実質 17万円の給料をもらっているのと同じです。

では、住み込みではない、通いのメイドさんを雇うのはいくらかかるのか。

私の職場に、最近 2人目のお子さんが生まれた同僚がおりまして、彼はパートタイム(時給制)のメイドさんを雇っています。
回数券制による割引も含め、時給 2,100円だそうです。
彼は、メイドさんに 1日 4時間、月 20日来てもらっています。
電卓を叩くと、月額 16万8千円。
住み込みのメイドさんの実質賃金にほぼ一致しますね。
市場原理ってうまくできてるなあ、と唸ってしまう瞬間です。

金か夢か

最近、すっぴんボーイッシュの部下キャンディと、仕事以外の話も少しはできるようになりましてね。(2年でようやく)

たまにはランチなんかも一緒に行くようになりまして。
昨日、香港のメイドの話題になったんです。
キャンディに、あなたはなぜメイドを雇わないのですか?と訊かれて、一瞬考えました。

どう答えても白々しい気がする。
直球はまっすぐ打ち返そう。
他人を家に入れるのが嫌だからです、と私は答えました。

キャンディはくすっと笑って、あなたも、日本人なんですね、と言いました。

どういう意味・・・と言いかけて、たぶんキャンディは日本人のことを相当わかっているんだろうな、と思いました。
日本にはメイドを雇う習慣がありませんからね、とだけ言うと、キャンディは言いました。
「日本のドラマを観ました。メイドを雇う話です。有名な女優さんが演じていました」

メイドを雇う日本のドラマ? 有名な女優? 松嶋奈々子か?

キャンディは、トントンっとスマートフォンを操作して、「これです」と見せました。

逃げ恥

『逃げ恥』か!

あれってメイドを雇う話なのか・・・まあたしかにそうだな。

てゆーか、ガッキーなら雇いたいわ。
って、もう人妻だよ!

キャンディは、珍しく楽しそうに言いました。
「契約結婚のベネフィットを合理的に計算していて面白かったです(笑)」

いや、君はあのドラマの観方を間違えてるゾ、と思ったけれど、恋愛とかに興味ゼロのキャンディにとっては、そういう観方もありでしょうね。

「香港人はお金の計算とかしないんですか?」
「あそこまではしないと思います。でも・・・」
キャンディは周りを気にしながら、小声で言いました。
「チャイニーズはあそこまですると思います」

キャンディによると、あのドラマは非常に中国的だと言うのです。
ガッキーも星野源もお金の話ばかりしていると。
『逃げ恥』の制作陣に伝えてあげたいコメントですね。

香港は家賃がクレイジーなので、マイホームどころか親元を離れてアパートを借りることすら夢のまた夢なんですね。
香港の若者は、親と同居しながら働き続けるしかないのです。
ちなみに、こんな香港にしたのは中国から来た富裕層だというのが定説で、香港人が中国人をよく思わない理由のひとつになっているようです。

日本では保育所やシッターなど育児にかかる費用が高くて、子供が 3人もいたら妻の収入が育児費で消えかねないそうです、とキャンディに説明したうえで訊いてみました。
「何のために働くのかわからなくなると思いませんか?」
「それでも働き続けるしかないと思います」
「給料が保育園代で消えても?」
「辞めてしまったら、そこで終わりです」

ん? なんだろ。
どっかで聞いたような・・・

スラダン

安西先生・・・!!

仕事がしたいです2

(全国 600万の三井寿ファンに謝れワタシ)

子供の保育園代を稼ぐために自分は働いているのだ。

立派ではありませんか。
お金のためではなく、子供のため。
仕事で輝いているママでいるため。
それもまた、素敵な子育てですよ。

香港でマイホームは叶わぬ夢かもしれませんが、日本で育児のアウトソースは夢なんかじゃありません。

夢じゃなかった

アウトソースとは、その分野のプロフェッショナルに業務を委託することを意味します。
そのほうが、自前でやるよりコストが低くクオリティが高いからです。
医療は医師に。
教育は教諭に。
住居は建築士に。
介護は介護福祉士に。
育児は保育士に。

これらはすべて国家資格です。
それらをプロに任せ、自分は自らのプロとしての仕事に専念する。
ときに、私はファイナンスのプロなので、プロとしてアドバイスします。
保育園代は、コストではなく投資です。
投資には、必ずリターンがあります。
投資は、長期的視点で見ることが大切です。

金か夢か?
いいえ。金も、夢も、手に入れるために。

シェリー おまえの言うとおり 金か夢かわからない暮しさ
転がり続ける 俺の生きざまを
時には無様なかっこうでささえてる

シェリー いつになれば 俺は這い上がれるだろう
シェリー どこに行けば 俺はたどりつけるだろう

シェリー