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日本人上司よ。干渉をやめよう

最終面接に合格した Kevin が当社のオファーにサインしたことで、採用活動に区切りがついた。

昨日、”反省会” という名目で、人事部長のティファニーと食事に行った。
現在は、私もティファニーも WFH(在宅勤務)。
自宅で仕事をしたあと、夕方頃オフィスの近くまで出てきたわけだ。
香港育ちイギリス人であるティファニーは、地元の名店に誰よりも精通している。彼女が選んだお店は、ジャッキー・チェンが愛用していたと言われる広東料理店だった。同世代の日本人をよくわかってるな(苦笑)
 
採用活動の ”反省会” とは名ばかり。会食のおもな目的は情報交換である。
ティファニーがもつヒト絡みの情報と、私がもつカネ絡みの情報が等価交換であることによって成り立つ飲み会 “ミーティング” なのだ。例えば彼女は、トップ人事の内定情報や社員のスキャンダル情報などをもっている。私は、取引先の資金繰り、内部監査、某戦争当事国との送金スキームなどの情報をもっているという具合。 


ひととおり情報交換し合ったあと、ティファニーが一瞬ためらうような顔をしてから言った。
「BD 部門の Yasuda-san を知っていますか?」
 
やすだ? 聞いたことないな。
BD(事業開発)の Director(部長)は知っているが、BD 部門の全員を知っているわけではない。
 
「知りません。日本人なのですか?」
「はい。彼は数ヵ月前に採用した BD Manager です」
 
ティファニーの話はこうだった。
Yasuda氏は、このご時勢に、100% オフィスに出勤している、という。
香港でコロナがアウトブレイクした頃、当社は一時期オフィスを閉鎖、社員は完全 WFH となった。その後、感染者数が落ち着いてきたため、オフィスを再開したが、オフィスに来るか WFH を継続するかは、個々の社員の裁量に委ねられている。
当社は WFH を推奨している。ただ、オフィスの機能は元どおりになったので自由に活用してください、というスタンスである。
 
Yasuda氏が毎日オフィスに来るのは、彼の自由だ。
しかし、Yasuda氏が毎日オフィスに来ることで、彼の部下たち(香港人)が WFH を選びづらい空気になっているらしい。


 私「Yasudaさんの部下は、全員オフィスに出勤しているのですか?」
ティ「彼の部下は 3人いて、最近まで 3人ともオフィスに来ていました」
私「異常事態ですね」
ティ「先週、彼の部下のひとり、Connie が WFH に切り替えました。彼女には 2歳のお嬢さんがいて、シッターが急に辞めたので、次のシッターが見つかるまでの間、自宅にいる必要があるのです」
私「Connie の WFH に Yasudaさんが不満を言っている、とか?」
ティ「いえ、WFH は承認したのですが、毎朝決まった時間にオンライン会議に出席することや、毎日仕事を終えるときにその日の活動を Teams で報告することなどを義務づけているそうです」
 
私はスマートフォンを手にとり、社員データを検索した。
 
Yasuda・・・BD Manager・・・
こいつか。知らない顔だ。
色白、ダサい眼鏡、七三分け、神経質そうな目。30代半ばといったところか。
 
私「HR Director としては・・・何も言えないか」
ティ「言えないわね。Yasuda-san がやっていることに、過失はない」
私「少なくとも、法律や就業規則には違反してないね」
ティ「そのとおり(笑)」
 
私「でも、うちのやり方ではない」
ティ「日本の会社には、毎朝ミーティングがあるんでしょ? Chorei?」
私「”朝礼” だね。会社だけじゃない。学校にもある。なんならナイトクラブのホステスたちも朝礼 (morning meeting) をやる。朝じゃないけど」
ティ「あはは。日本人の伝統ってわけね」


やすだ、という人間のことは知らない。
今どき、昭和のサラリーマンを引きずってるようなマイクロマネジメント。しかも 30代という若さで、オジサン顔負けの伝統主義にあきれた。
ひととおりあきれたあと、ふいに私を襲ったのは、怒りだった。
 
やすだ、という会ったこともない人間に怒りを感じるのはおかしい。
でも、この男の行動に代表されるような日本社会の悪しき因襲、くだらない権威主義と形式主義に、反吐が出る思いだった。
 
Yasuda氏の頭の中を想像した。
会議を行うことで仕事した気になっている。
部下の時間を縛ることが上司の当然の権能だと思っている。
物事の本質を考えず、無邪気に慣例を踏襲する思考停止ぶり。
 
部下とコミュニケーションをとることの大切さは、私も理解する。
1 対 1 の面談をもつことも必要だと思う。しかしそれは頻繁に行うものではなく、定期である必要もなく、まして毎日やるなど常軌を逸している。
基本的に部下というのは、上司と関わる時間を最小化したい生きものなのだ。
 
私の上司は本社 @ジュネーブにいる。スイス人だ。
彼は以前、隔週の定期ミーティングを提案したが、私が「その必要はない。ミーティングは必要なときにだけセットすればじゅうぶんだ」と言ったら、「そうだな」とあっさりその提案を取り下げた。


私「日本人同士だからといって、私が直接介入するのはマズいだろうな」
ティ「わかってる。ただ、こういうとき日本人ならどうするかなと思って」
私「Connie には、ボス・マネジメントの試練だと考えてもらうしかないね。Yasudaさんには、Akhil (BD Director) からひとこと注意させれば? ここは日本じゃないよ、って」
 
言ってから、待てよ、と思った。
日本ならいいのか?
そもそも私は、日本の会社のそういうところがイヤで日本を出たんだった。
外国人が日本で働きたがらない理由のひとつもそれだ。
上司が部下に干渉しすぎる。
意味のない会議が多すぎる。
 
ところで。
やすだ、という人は日本語を読めるだろう。
彼がこの note 記事をたまたま発見する事故が起こったら、解決するかな。
いや。しないか。


(追記)
「やめよう」シリーズの第 1話です。

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