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Sunano Radioの詩。
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2018年2月の記事一覧

【詩】ねぇ -リマスター

【詩】ねぇ -リマスター

ねぇ、ぼくは時々、君にそっくりな人を見るんだけど、君は、ぼくを見た? 3日前も、偶然、見かけたんだ。君は一人で忙しそうに歩いてた。いつも持ってた水色の傘の下から見える、口角の上がった口元が君そっくりだったんだ。淡いグレイのストールの巻き方も、その後ろ姿も、傘の持ち方も、歩き方や、香水と、風呂上がりに脚に塗るボディークリームのあまい匂いまで。ぼくはいつも、とっさに身を隠してしまうのだけど、前にまわっ

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【詩】東京タワー -リマスター

【詩】東京タワー -リマスター

ランドセルを背負った少女三人が、大きな声で話して騒いでいる。「高尾山!」「エベレスト!」「富士山!」「スカイツリー!」「それ山じゃないよ?」「ちがうよ、わたし、高いものの名前って言ったもん」「うそ、山の名前って・・・」

突然、電車が止まった。

窓の外の空は思い切りの青だった。突き抜けるような青。アナウンスが「緊急停止訓練です、緊急停止訓練です」と言った。乗客たちに驚いた様子はない。スマ

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【詩】白金台のチョコレート - リマスター

【詩】白金台のチョコレート - リマスター

春の手前の白金台は、花粉が飛んでいることを除けば、全てが気持ちがいい。空気は冷たいが、街路樹から差す光の線がとても綺麗だ。

僕らはたまに行くちょっと高級なチョコレート屋で、チョコレートを1枚だけ買おうとした。1枚1,600円するチョコレートは、アールグレイのいい香りがする。僕がお金を払おうとレジに向かうと、派手な服のおばさん(GUCCIのセーターを着ていたが、似合っていなかった)が10万円分

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【詩】彼の貧乏とはつまり - リマスター

【詩】彼の貧乏とはつまり - リマスター

彼の貧乏とはつまり、一本の煙草を二人で分け合いながら、少しずつ吸うような、そういう種類のものではないのだ。煙草は彼女が一人で吸い、彼は口が淋しいと思っても、ガムを買うための金はない。

(2013.3.2 初稿)
#詩

【詩】unknown - リマスター

【詩】unknown - リマスター

雨は止まない。壁のむこうに手は届かない。崩れた言葉は誰にも伝わらない。助走をつけても空は飛べない。折りたたみ傘はうまく畳めない。乾いた涙は空気に溶けない。飛び乗った亀の甲羅は小さい。

いやぁ、ようこそ、みなさん。ヤミさん、ヒカリさん。ごゆっくり。くつろいでくださいね。

でも、時間だけは守ってね。

(2013.3.2 初稿)
#詩

【詩】真夏の夜の嘘 - リマスター

【詩】真夏の夜の嘘 - リマスター

ひどく喉が渇くので、水を3杯飲んだ。渇いて、渇いて、唇がひりひりと痛む。身体中が砂になって、ひび割れて崩れていくような、どうしようもない渇きだ。むし暑い真夏の夜。汗ひとつかかず、僕はひらすらに水を飲んだ。ビールを飲みたいと思ったが、冷蔵庫には入っていない。

熱があるかもしれない。

僕は立ち上がり本棚の上にある救急箱から(胃腸薬と睡眠薬とたくさんの種類のアレルギー薬が入っている)体温計を

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【詩】誕生日 - リマスター

【詩】誕生日 - リマスター

たったひとつぶのこころ
たったひとつぶのなみだ

きみのからだの中に入った夜も
玄関の外でしゃがみこんだ朝も
むかしばなしのように 遥か 彼方

雨が 雨だけが
あの日とまったく同じように降っている 今

(2013.2.18 初稿)
#詩

【詩】そういうようなことすべて - リマスター

【詩】そういうようなことすべて - リマスター

ピストルのない場所に、けしごむ
けしごむのない場所に、ピストル

空がない場所には、屋根
屋根がない場所には、星

何もないことを想像する
全て揃っていることを想像する

髭が生えてしまうこと、胸が育ってしまうこと
そういうようなことすべて

暗闇を迎え入れ、自ら井戸を下りてしまうこと
そういうようなことすべて

(2013.2.13 初稿)
#詩

【詩】Dear Miss - リマスター

【詩】Dear Miss - リマスター

彼女は綺麗な革靴を履き、こころもち首をかしげて話をする。月と猫を見つけると、いつもまっすぐ指さしてわたしに報告してくれる 。目を細めてカメラをかまえると、思いのほかあっさりとシャッターを切る。切りとられた景色は、いつでもすこしだけ悲しげだ。

見えない誰かに感謝したくなるときがある。

それは何処かの神様かもしれない。
亡くなった小さな祖母かもしれない。
大好きだったわたしたちの猫かもしれない

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【詩】お医者さん - リマスター

【詩】お医者さん - リマスター

想いが、言葉が、ぱきんとはじけて割れて、限られた断面だけが、間違って人へと伝わっていく。

「間違い?」

誤解が誤解を大きくしていき、僕にも誰にも答えが見えなくなる。

「答え?」

かちこちに凝り固まったしこりをどんなに洗い流そうとしても、焼け石に水だ。

"お医者さんに相談に行かなきゃ"

「ここがずっと赤いんです」
「ほら、こんなに真っ赤になっちゃって」
「こんなは

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【詩】背中のボタン - リマスター

【詩】背中のボタン - リマスター

昨日 何かの拍子に 思い出した
君の 背中に 一つだけ
ぼこっと でっぱる 膨らみがあった
すべらかで やせた 背中
その膨らみだけが 妙に 目立っていた
肩甲骨の 少し下あたり

僕は いつも それを押した
まるで何かのボタンみたいに それを押した
押すと くすぐったいようで 君は
喉の奥で くすくすと 笑った 笑った

(2013.2.15 初稿)

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【詩】不眠症の薬 - リマスター

【詩】不眠症の薬 - リマスター

悲しみはちっとも消えない。疲れて疲れて、昔あなたから貰った手紙を読んだ。

『ごめんなさい。傷つけて。でも、綺麗な心でいたいのは、人間の性でしょう?』

性?

手紙はいつも"おやすみなさい"で終わる。"うまく眠れるといいね"

枕元の不眠症の薬をちらりと見る。
あなたはもう眠ったのだろうか。テレビ画面が青白くちかちか光っている。
とてもあなたに会いたいけれど、僕はあれから随分と変

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【詩】白い部屋の秒針

【詩】白い部屋の秒針

その部屋は、時計の秒針の音が常にしていた。わたしはその音がとても苦手なので(時間を意識し過ぎてしまうからだ)自分の部屋には時計を置かないようにしている。しかし、その部屋はずっと音が鳴っていた。まるで、鳥が柔らかくて削りやすそうな木を見つけ、くちばしで木の側面を削っているみたいな、規則的で実際的な音がした。

『カチカチ』『カチカチ』

わたしは時計を探した。その部屋は、壁も家具も白で統一されていた

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