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【詩】白金台のチョコレート - リマスター

春の手前の白金台は、花粉が飛んでいることを除けば、全てが気持ちがいい。空気は冷たいが、街路樹から差す光の線がとても綺麗だ。  

僕らはたまに行くちょっと高級なチョコレート屋で、チョコレートを1枚だけ買おうとした。1枚1,600円するチョコレートは、アールグレイのいい香りがする。僕がお金を払おうとレジに向かうと、派手な服のおばさん(GUCCIのセーターを着ていたが、似合っていなかった)が10万円分のチョコレートを買っていた。おばさんはレジの店員とごちゃごちゃ話しながら、非常に上機嫌だった。会計が済んでも話は終わらず、店員は僕の存在に気づいていたはずだが、それを気に留める様子もなく、お得様である派手なおばさんの面白くもない話にいちいち声をあげて笑っていた。僕はたっぷり待たされたが(もちろん)店員に文句を言う勇気はなかった。さっきと打って変わって愛想の悪い店員から1枚のチョコレートを受け取り、僕らは店から出た。手をつないで歩きながら「すごい人がいたね」と2人で話した。僕らが"普通"で、おばさんが"変"なんだ。おばさんが"異常"に金持ちなんだ。そういう風に考えようと思った。「セーター、似合ってなかったよね」彼女がそう言って笑ったので、救われた気持ちになって僕も笑った。  

いいじゃないか。1枚だけチョコ買ったって。


(2013.3.6 初稿)


#詩

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