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酔っ払いは戯言を繰り返し話す

東急田園都市線の池尻大橋駅の東口の階段を上がって、商店街を歩いていた。1年くらい前に1年半だけ住んだ街だ。ストレスがたまったときは夜な夜なひとりでドラッグストアの上にあるカラオケ屋に行ってみたり、カッコつけたいときは角にあるオーセンティックバーで、寒い夜はいろんなネギが置いてある店のすき焼きを平げ、だいたいいつも小綺麗な銭湯で汗を流した。なおサウナは別料金だから入ったことがない。

住んでた部屋はベランダの向こうに大橋ジャンクションの壁しか見えないようなところで、窓を開けたら隣の家の壁だった。日当たりは最悪、湿気はこもるし排ガスくさく、暑苦しくて夏の日に窓あけて寝ると階下から知らない女の喘ぎ声が聞こえた。山手通りまで響いてる気がしていいのだろうかと思ったけど、最中に見知らぬ男から言われたこと聞いてしおらしく窓閉める奴はそもそも窓あけておっ始める輩ではない。当たり前だよなあ。

渋谷の会社に勤めることになって選んだ部屋だった。一度下見したのにいい部屋がなくて、決めあぐねてる僕を見かねて親が「ここでええんちゃうん」とhomesのURLを送りつけてきたところだ。ワンルーム18畳、築ジャスト30年、池尻大橋駅徒歩5分渋谷駅南口から徒歩20分、これが一番大事。前の家の住人の郵便物は延々届くし、白く貼り直した壁にすぐカビが生えたり、テレビアンテナがあるはずなのにMXがロクに映らないとかいろいろ言いたいことはあったけど、家賃が6万だったから文句は言えなかった。それでも札幌で住んでた部屋の倍近くはあるんだけどな。

金があったらもう一度あの辺に住みたいとは思う。でももうあんな生活はしたくない、とも言い難い。なんだかんだ会社から電車の時間を気にしないところってのは都合が良い。どれだけ飲まされてもなんとかなるって思えるし、朝だって辛くない。交通費がもらえなかったのは痛かったしいまだに恨んでいるけど、夏の暑い日でも毎日40分歩いていたからバテなくて済んだかもしれない。今更それが何になったというわけでもないけど。

やっぱり人間が住めるところには限度がある。悲しいけど無理なもんは無理。ある程度うまく世界を折り合いをつけて諦めることは大事。僕にとってはあの街がそうなのかもしれない。

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