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暗い夜も 光る朝も 巡り巡る世界でも

蝉の鳴き声で叩き起される朝

室内に居ても止まらない汗

食卓に用意されている朝食

何度袖を通したか分からない夏の制服

前日に凍らせておいたペットボトルの麦茶

汗で湿って履きづらい靴

容赦なくせり上がってくるアスファルトの熱

車の排気ガスにむせながら自転車で駆ける国道

電車の時間を気にしながら自転車を停める駅の駐輪場

大きな音を立てて線路を転がる車輪

息を切らせながら駆け上る駅の階段

汗で制服が体に張り付いたまま転がり込む満員電車

風邪を引きそうなくらい強く冷房を効かせた車内

汗をハンカチで拭きながら新聞のページをめくる中年男性

吊革に掴まる腕同士が当たって分からなくなる相手との境界

不快そうな顔の若いサラリーマン

揺られながら告げられる目的地の駅

人の海を掻き分けながら向かう電車の出口

改札に表示される定期券の有効期限

コンビニで買う昼食と少しの軽食

カバンの中で教科書を濡らす溶けかけの凍らせた麦茶

汗をタオルで拭いながら上る坂

制汗剤と汗の匂いで満たされた下駄箱

書き終わったノートと教科書で埋め尽くされたロッカー

気怠げに交わされる挨拶

妙にヒンヤリした机と椅子

授業の始まりを知らせるチャイム

汗で腕に張り付く教科書のページ

既に進路が決まり、寝ている隣の席の友人

全く頭に入ってこない数学の定理

授業の終わりに配られる課題

窓の外で楽しそうにはしゃぐ一年生

いつもと変わらない時間割り

担任から何度も聞かされた夏休みの過ごし方

駅前の塾に向かう帰り道

私を駆け足で追い越す同級生

焦がすような眩しい夕日

遠くでひぐらしの鳴く声が聞こえる

永遠に続くかのように思われた日々

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停滞や安定しているように見える日々も常にどこか変わっていて、私たちはそれに気付かずに過ごしている。

緩やかに、だけど、確実に変化している日常を、知らずに受け入れて順応して、気付けば生活の当たり前に組み込まれる。

そして、気付いた時にはあの頃の生活は取り戻せない。

しばしば人は過去を振り返る時に教訓を見つけようとする。

「だから、後悔しないように今を生きなくてはならない。」
 
「だから、前を向いていかなくてはいけない。」

そんな事は無いはず。

あの日々はそんな事の為だけにあるのではないと思う。

ただ、「こんな事があった」、「そんな話もしたね」と過去を慈しむだけでも、過去を振り返る価値があると思う。

‘今’の責任ばかりを‘過去’に求めてしまってはあまりにも‘過去’が救われない。

必ずしも‘過去’を教訓にする必要はなく、もっと大切に、大事に。

もう会えなくなってしまった人を思い出すように、思い出しても良いんじゃないだろうか。