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アメリカで家を売った実体験から不動産テックを考える(前編)

これまで、自分が金融×不動産×データの領域で仕事するきっかけになった仕事を紹介してきましたが、今日は不動産テックについて、自分の体験からつらつらと思うところを話したいと思います。
ーーー長くなったので前編後編に分けましたーーー

0.初めに

私は不動産テック業界にいるわけでも、不動産エージェントとして働いたこともありません。ただ自分の経験(個人で家を売却したことと、不動産投資関連の仕事をしていること)から感じたことを書いているだけです。もし、「ここ間違ってるやんけ」とか「全然わかってないやんけ」というご意見・ご感想があれば、(お手柔らかに)コメントください。

1.家を売った話

2015年にアメリカに来て家を買うことになり、2年ほど住んでから、家を売却しました。買った当時は家は新築だったので、築2年の家を売却したことになります。取得価格は4000万円ほどで、結局3850万円ほどで売却しました。家を売るプロセス自体は日本とそんなに変わらず、大まかには下記のようなものです。

①エージェントを探して契約する
②エージェントがMLS(*1)に登録、それを見たお客から内見のリクエストが来るので、それに対応する
③必要に応じてオープンハウスをする
④オファーが入ると契約書の交渉になり、合意
⑤契約書にインスペクションなどの条項があれば対応、無事にクロージングを迎えられれば売却して終了


我々は自分たちが住んでいる家のサブディビジョンで一番多く物件を扱っていそうなエージェントと契約しました。彼女を選んだ理由は、①同じ地区の物件を多く扱っているので相場観がある、②同じ地区を多く扱っているので、この地区を気に入っている買い手が集まりやすいというものでした。
結局、売却には4か月ほどかかり、たくさんの辛い思いをしました(笑)。それらを通じて感じた、家を売却する際のペインポイントを紹介したいと思います。

2.家を売却する際のペインポイント

2-1.エージェントって必要?問題
最終的には間違いなく必要なわけですが、正確に言えば、仲介手数料に見合ってるかなという問題です。日本と違って、アメリカでは不動産を売却する際の仲介手数料は、買い手・売り手ともに売り主から払われます。なので、6%が売却金額から引かれます。そして、売り手の仲介と買い手の仲介で折半するわけです。6%って高くないですか?(*2)

日本にいた時は仕事、プライベート、ともに不動産を売却したことがありますが、仲介料の3%という金額を満額で払ったことはほぼありません。例えば、仕事でよくあったのが、仲介業者から「両手(売りと買い両方)やるんで全部で4%で」というディスカウントもあるし(本当はよくないけど)、「(物件が住宅ではなくビルなどの場合)売却金額が高額なので」とか適当な理由をつけてディスカウントしてもらっていました。プライベートでマンションを売った際も「買主は自分で見つけたので」とか言う理由でまけてもらいました。一方で、アメリカって全然ディスカウントしてくれないわけです。しかも専任契約が一般的です。なので確実にエージェントに6%払わないといけないわけです。一方で、エージェントがやる(やれる)仕事って、大きく大別すると①集客含むマーケティングと②契約作業になると思うのですが、それぞれやれることって限られていると思うんですよね。


2-1-1.エージェントが集客でやれること、ほぼない問題
まずは①集客含むマーケティングですが、絶対確実にやってもらわないといけないのはMLSに登録することです。現在、家を探す方法として一般的なのはTrulia、Realtor、RedfinといったWebsite/Appを見ることだと思います。これらはMLSのデータを取っていて、MLSに登録するとこれらのサイトで売り情報が閲覧可能になり、家を買いたい人がこれを見て、内見のオファーができるようになっています(私が家を買ったときもこれらを見てましたし、周りの人もこれ以外を見てる人を知りません)。で、それ以外に集客できる方法ってぶっちゃけないわけです(*3)。
いや、我々もオープンハウスやりましたよ?(4回も)でもほとんど効果を実感しませんでした。オープンハウスの問題点は、来る人が冷やかしできたのか、シリアスなバイヤーなのかわからない点です。でも、シリアスだったら、普通に内見のオファーすると思いません?正直、オープンハウスに関しては効果が不明だな、と感じました。実際、最終的に家を買ってくれた人はオープンハウスに来てません。
また、チラシを作ってばらまく、という方法もあります。これもエージェントがやってくれたんですが、効果は不明です。そもそも、どこにチラシまきますか?という問題があるわけです。実際にはチラシは近くのスーパーマーケットに置かれていましたが、そこに来る人(つまりそこの周辺に住んでいる人)の中で、家を探している人、かつそのエリアで探している人にどれだけリーチできているかは不明です。
さらに、エージェント自身が知り合いのエージェントにメールを送信する、という方法もあります。でも、このご時世、エージェントから勧められた物件を買う人っているのかな?と。我々が家を買った時も自分たちで(上記のサイトで)物件を探しました。
つまり、MLSに登録した後は、エージェントができる効果的なマーケティングはほぼないと言えるのではないでしょうか。
エージェントがしている仕事をもっと細かく言えば、例えば、MLSに掲載するにあたり写真が必要なので、カメラマンを手配する、といったことは必要です。また、物件の価格を下げるべきか否かという相談をすることもあるでしょう。ただ、集客に限って言えば、「ポータルに載せたら果報は寝て待て」という状態になってしまうかと思います。

2-1-2.エージェントが交渉でやれること、ほぼない問題
オファーが来ると買い手側と交渉が始まるわけですが、日本と違うことの一つとして、いきなり契約書が投げられて来ます。そこに金額やクロージングの日取り、インスペクションの有無、等々、条件が全部書いてあります。売り手側はオファー/契約書を見て価格含めAcceptするかどうか判断し、Counter Offerを投げ返す(もしくは無視する)ことになります。なので、交渉っぽい交渉(アンダーテーブルでごにょごにょする)はほとんど発生しません。日本だと契約書作成に入る前に買い手が買い付け意向書を提出して、大筋の合意ができてから売買契約書に進むと思いますが、こっちでは契約書を投げあうので、お互いの希望が書面上で明記されます。買い手としても売り手に受けられたらバインディングになる、という気持ちを持って契約書を投げてきます(*4)。
契約書は所定のフォーマットがあって、そこから大きく逸脱しないので、自分で読んでエージェントに指示を出して、彼らが事務作業をするというイメージです。なので、そこまで専門的な知識が必要とも思えないんですよね。
また、日本では、買い付けが出されても、買い手に対しての「こいつ本当に買えるのかな」という疑問を解消するすべがなく、仲介を通じて裏を取ってもらうということも必要ですが、こちらでは基本的にオファーに資金証明がついています。融資を受ける場合は融資証明、キャッシュの場合は残高証明がついているので、「実はお金がなくて買えませんでした」みたいなちゃぶ台返しされることにそんなに心配することはありません。
契約が締結されると、あとはほとんどTitle Companyの仕事です(テクニカルにはT-47を提出するとかありますが)。つまり、ここではエージェントでないとできない仕事ってほとんどないと思います。


2-2.内見の対応大変すぎ問題
売却開始から終了まで4か月程度かかったと書きましたが、その間に50件以上の内見の対応、4回のオープンハウスを開催しました。何が辛いって、その間、家を空けないといけないことです。
日本と違って、売り主(及び売り手の仲介)は内見の時に同席しません。買主が自由に見れるようにという配慮なのでしょうが、その間はどこかに行っておかないといけないわけです。じゃあ、どうやって鍵の受け渡しをするんだよと疑問に思られるかもしれませんが、下記のような流れです。

①内見のオファーがされると外注してある会社が売り手の携帯にテキストする(急な依頼の場合は確認の電話がかかってくる)
②売り主はAcceptするか、別の時間を提案するか、Rejectする
③Acceptされると鍵のパスコードが買い手の仲介に送られる
④買い手と買い手仲介が家に到着すると玄関に取り付けられている鍵ボックスのようなものにパスコードを打ち込み、中から鍵を取り出す
⑤家を見終えたら鍵をボックスに戻して、勝手に帰る


というわけで、かなりシステム化されています。
内見自体は2時間の設定だったり、1時間だったりいろいろですが、基本は顔を合わせないようにするためにその時間帯+αを外出する必要があるわけです。これが本当に大変でした。なぜなら、もちろん家をよく見せるために毎回掃除しないといけないわけです。掃除する→外出する(子供付き)→掃除するのループを毎回こなさないといけません。そしてオープンハウスは1日中外出しないといけないという。。。そして、日本人がアメリカで直面する「家の中では靴脱いでほしい問題」。もちろんスリッパを用意して、靴脱げと指示しますが、完全に守られているかというと。。。靴は玄関で脱いでくれても裏庭にスリッパのまま出てそのまま中に戻ってきたり。。。なので、終わった後も掃除したり、疲れ果ててしなかったり。
他の人が靴はいて過ごした家を買うのが嫌だったから新築にしたのに結局この問題からは逃れられなかったという。。。

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以上、私が実際に感じたペインポイントでした(なんかただの愚痴のような気もしますが笑)。それともちろん、価格が下がって損してる!という一番のペインもあります。後編ではこれらのペインポイントに対応してでてきた不動産テックの動きとそれでも残る問題点、日本での動きなどについて話したいと思います。


(*1)Multiple Listing Serviceの略。日本でいうREINS。アメリカでは仲介契約を締結するとこのポータルサイトに情報を載せることが義務付けられている。詳しくはwiki見てください->こちら
(*2)まだ日本の意識を引きずっています(笑)。この「日本と比べて価格高っ!」っていう問題は、日本が異常に安すぎるという側面もあるために、一方ではこの感覚が必ずしも正しいというか、絶対的な正義ではないと感じています。この話はまた機会があれば。
(*3)エージェントをつけないで売る方法もあります。Sale by ownerと呼ばれるもので、実際の契約作業はLawyerにお金を払ってやってもらいます。この場合、買い手に仲介がいればその分は払わないといけないので、3%+LawyerのFeeということになります。ただし、集客する方法はほぼ皆無で、家の前に看板を立てたりしますが、視認性が悪い地域(今回のようにサブディビジョン内に家があり、サブディビジョン全体が塀に囲まれてたりすると、家の前の道路を通り過ぎる人はほぼ皆無)だと無理だと思います。とはいえ、最近はSale by owner物件専門のWeb Pageもあります。
(*4)実際にはOption Periodがあり、Option Feeを払えば、契約をキャンセルできる期間が存在します。金額は100-500ドルくらいで7日間とか10日間の期間が一般的なようです。その期間が過ぎればバインドされます。