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Residential Mortgage Trading Business概要(前編)

今日は自分がやってきた仕事で、私が金融×不動産×データの領域に足を踏み入れるきっかけになったビジネスの概要を紹介します。
長くなったので、前編・後編で記事を分けたいと思います。

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1.Residential Mortgage Businessの時代背景


私は2015年にアメリカに来たのですが、最初に入ったチームがResidential MortgageのTradingのAsset Management をしているチームでした。何故かと言うと、当時そのビジネスが急激に伸びていて、めちゃくちゃ人を採用していたので、とりあえずそこだったら(英語が喋れない人間でも)やることあるだろう、ということで東京から送り込んでもらったのです。

Residential Mortgageとは、日本で言えば「住宅ローン」のことです。それを「Tradingする」、つまり売り買いするということなので、基本的には日本でかつてあった不良債権の売買みたいなものです。なぜ米国でそのビジネスが伸びてきたかというと、2008年のFinancial Crisis(*1)のときに、政府が銀行からたくさん住宅ローンを買い取ったんですね。そして景気が上向いてきてからそれをずっと放出している(=セカンダリーマーケットで売っている)という状況だったわけです。なおかつ、買い手側の投資銀行サイドもいろいろと買わないといけない事情があったのです(*2)。

さて、政府はGovernment Sponsored Enterprise(GSE)という政府公社みたいな会社を通じて、住宅ローンを買っています。(GSEの説明はこちら)これは日本で言えば、住宅金融支援機構みたいなものです。日本では民間の銀行がoriginateしたローンを住宅金融支援機構が買うということはない(と思う)ですが、彼らもフラット35を提供していますし、それを証券化してResidential Mortgage Backed Security(RMBS)として販売しているはずです。それはさておき、GSEも債務の弁済がしっかりしている債権(Performing Loan)はいいのですが(証券化して売る。日本と同じ。)、不良債権(Non Performing Loan)となるといちいちサービシングするもの面倒だし、政府からはBalance Sheetを圧縮しろと言われるので、まとめて売ってしまおうということになるわけです。そこで、入札形式(Bid)で売買が発生します。

我々のビジネスはそれを入札で買って、買った価格以上で回収するというものです。

2.Bid概要

Bidがどのように進められるか説明します。Bidにエントリーできる企業についてはいろいろあるのですが、割愛します。入札では、「5000以上のローンが入札されます、期間は3週間~1か月です」、みたいな形でいきなり伝えられます。そして、Tapeと呼ばれるExcelがピロっと送られてくるわけです。このExcelを基に価格を出して、期限内に提出しないといけないわけです。
このTapeですが、どういう情報がどんなフォーマットでという規格が定まっています。Mortgage Banker Association(MBA)という組織が決めていて、大体のTapeはこれに準拠しています。
このTapeから必要な情報を抜き出して、自分たちのプライシングモデルに組み込むわけです(*3)。後程、モデルの説明をします。
自分たちの買いたい価格を提出した後、どこが買ったのか発表されます。発表後に、クロージングの作業があるのですが、ここではTapeの情報が本当かどうか、ということに焦点を置いています。買う側が虚偽の情報に基づいてプライシングした場合は、そのローンを外してもらったり、価格を調整できます。クロージングの期間は2-3か月もらえます。クロージングについても後程説明します。

さて、ざっと説明しましたが、入札における日本との違いを比較してみたいと思います。

2-1開示資料がTapeのみ
私も日本で何度か入札にかかわりましたが、膨大な資料が(*4)事前に配られました。したがって、事前のDDもお金をかけてやっていました。アメリカでは入札で価格をだすことにほとんどお金がかかりません。

2-2担保の価格も売り手が提供
買い手はとりあえずもらった情報に基づいて価格を算定して、細かい点については後で戦うという方法を取っています。これは入札参加者にとって初期費用が初めにかからない分、楽だと思います(ただし、タイトなスケジュールについてこれる能力・資金力がある企業しか参加できないという障壁があります)。

2-3価格の変更、ローンの除外を受け入れてくれる
割とリーズナブルに変更を受けてくれます。日本だと、事前に資料を配ってあるんだから、それを見て価格を出した以上変更は認めれないという姿勢ですが、アメリカでは資料は後から確認するので、その過程で提供されたデータと相違があれば変更できるという認識です。

3.Pricing概要

プライシングについて説明します。プライシングは日本と同じく、Discount Cash Flow(DCF)法です。要は予測されるCash Flowをローン毎に作って、それを自分たちが欲しいリターンで割り戻すことで現在価値を出すということです。では、どうやって予測CFを作るかということですが、いくつかシナリオが分かれます。

3-1.Non-Performing Loan
まず、既にデフォルトしてるローンですが、大別して二つの状態に分かれます。既にForeclosure(日本でいう競売手続きです)が終わって、不動産自体を取得しているもの(Real Estate Owned。REO)とまだForeclosure中のものです。

3-1-1.REO
既にREOになっているものは、いつ売れるか、いくらで売れるか、持っている間の費用はいくらか(税金と保険。Tax and InsuranceでTIと呼びます)が問題になります。いつ売れるかについてはただのAssumptionを入れます。一応、過去の実績も見ます。いくらで売れるかはBroker Price Opinion(BPO)と呼ばれるものが開示されるのでそれを使います。TIも開示されるので、それを使います。さて、問題はBPOが将来もその価格なのか、ということです。価格の将来予測については、House Price Appreciation(HPA)と呼ばれる指数があり、BloombergやReutersで機関投資家向けに販売しています。これに自分たち独自の予測を足して使うわけです。これでREOのCFは完成です。

3-1-2.Foreclosure
次にForeclosure(FC)ですが、アメリカでは大別して2つのFCがあります。JudicialとNon Judicialというもので、前者は裁判所の関与があり、後者はなしというものです。当然、関与があるほうがFCにかかる期間が長くなります。ここでは、各州毎のFCの予想期間を作っておいて、それをあてはめます(各州毎に独自のプロセスがあり、個別の予想が必要になります)。それに、さきほどのREOの予想期間を加えると物件が売れる時期ができます。物件の価格については、REOと同じ方法で算定します。費用面では、FCのリーガル費用が加算されます。これでFCのCFができます。

3-2.Performing Loan
Performing Loanですが、まずは支払いが継続するのが確実なローンとそうでないものに分けます。分け方はLoan to Value(LTV)とFICOスコアを見ます。FICOスコアはアメリカで使われているクレジットスコアです(*5)。
支払い継続性が確実なものはいいのですが、そうでないものはLTVやFICOの組み合わせでいくつかのグループに分けて、Default Rateをあてはめます。一定の割合でローンがDefaultしていくという想定で、Defaultした分は、FCのシナリオで価格を算出します。あとはそれをすべてCombineしてCFの完成です。

ここまでざっとPricingを見ましたが、あとは鉛筆なめなめの世界で、それぞれのAssumptionにどれだけ自分たちの予測を足していくかという話になります。

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前半はここまでで後半はClosingとAsset Managementの話をしたいと思います。

(*1)日本ではリーマンショックといいますが、こちらではFinancial Crisisが一般的な言い方です。
(*2)Financial Crisisのなんやかやで政府にペナルティを課された各銀行は政府との契約で「これこれの額を支払う」という合意をすることになるのですが、支払方法として認められていたことの一つに「債務免除」があります。なので、不良債権を買って債務免除した分もその支払いに組み込もうという思惑があったんですね。
(*3)この作業をTapeをCrackするといいます。
(*4)例えば、金銭消費貸借契約の写し、抵当権設定契約証書の写しとか。
(*5)ファイコと読みます。クレジットスコアについては、個人で体験した失敗エピソードを紹介したいと思います。住宅ローンを借りる際にFICOが重要なのは言うまでもないのですが、FICOを高く維持するのに重要なこととして、「クレジットカードの与信残高の上限近くまで使わない」ということがあります。私は個人で住宅ローンを借りようとしていた時に、クレジットカードで家の固定資産税を払ったら、急な出費が枠を圧迫してスコアが急に悪くなり、ローンの審査が通らかったことがあります。支払いのタイミングと額には気をつけましょう。その時に調べてわかったのですが、FICOを提供している会社は3社あるのですが、彼らのサービスで一定額を払うとスコアをロックしてくれるというサービスがあって、それはどうなんだろうと思った記憶があります。