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映画レビュー五十二本目 ミッドナイト・ファミリー

この、最近とんと更新御無沙汰の映画コラム、

初のレビュー依頼が来ました。凄い。意外。

作品は、深夜のメキシコシティで闇救急車を営む一家を追ったドキュメンタリー

「ミッドナイト・ファミリー」
https://www.madegood.com/midnight-family/


です。

早速、内容へ。


メキシコの首都、メキシコシティでは、

公営の救急車が人口比で20万人に1台程度しか無く

民間の「闇救急車」に頼らざるを得ない現状。

それをを生業とするオチョア家に密着。

生業と言えど、商売敵は無数。

現場へもサイレンと拡声器で追い抜きながら向かう。


が、

無心で救命医療を施しても、

収入は患者やその家族からの支払いだけ。

それも「金は無い」と突っ撥ねられれば終わり。

家族の遊興費も教育費も

警察から強要されるワイロで消える。

まだ多感な小学生の末っ子までも

深夜勤務に同行させられる。

それも取り締まれない、ワイロ警察。


という図式が、

「メキシコの生活水準は厳しく苦しい」

と伝え聞かされた三十年以上前の印象から

全く変わっていないことに驚く。

そして、数多の劇映画で描かれていた

「警察に賄賂は絶対必要」

という昭和のマンガ的な図式も未だ適用。

善悪の判断無く

「摂理」として存在する恐怖。

それを当然と受け容れる社会。

そして、腐る社会。


会えない恋人へ、

その日の仕事の状況を説明するホアン(長男)

本当は友達とサッカーに明け暮れたいホセ(次男)

家族の為に気丈に振る舞いながら

密かに薬を飲み深夜の出動に備えるフェル(父)

それだけ生真面目に業務をこなせる背景には

「これ以外には食い扶持が無い」

という社会情勢があるのだろう。


大枚をはたいて購入し、内装も仕立てた救急車。

嵩む食費、教育費、家賃、車の維持費、各人の手取り。

気付くと、そこに遊興費は無い。

フェルがスマホで音楽動画を眺めながら、

ふと口ずさむ歌。

そして、少し陽気に奏でる鼻歌に

こんな世界で無ければ謳歌できたかも知れない

人生を垣間見てしまう。



ガミガミ怒ることの無い、人の良い父

責任感が人一倍強い長男

その姿を逐一見続けながら育つ次男


その絵面が、

きっと今夜も繰り返されて

数々の命が救われていることを願いながら

この、オチョア家が一番救われていくことを

真摯に祈りたい。

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