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老舗のカレーライスとソウル・ジャズ(1)

僕が気に入っている老舗のカレーライスとソウル・ジャズのアルバムにはリピートすることで魅力が増すと言う共通点があった。

はじめはこんなものかとサラッと食べ終えた(聴き終えた)が、何か心に残るところがあり、リピートしていると徐々にその魅力に取り憑かれると言った具合だ。

新進気鋭のシェフが生み出すスパイスカレーや、ジャズの歴史上に燦然と輝く革新的な名盤もいいけれど、日々の楽しみとしてまた別の味わいを持つこれらの魅力を記しておきたい。

初回はインデアンカレーとグラント・グリーンの作品について。


インデアンカレーの「インデアンカレー」
1947年大阪創業のいわゆるカレースタンドの老舗において店名と同じ名前を冠する名物メニュー。
フルーティーな甘さのすぐ後を辛さが追いかけてくるあのルーの味わいは他の店では再現出来ないオリジナルだ。
様々な試行錯誤があって生み出されたに違いない逸品で、万人受けするカレーライスと言って良い。
しかしながら、新しい店が続々とオープンし斬新なメニューを発表する昨今、ついそちらに目をむけてしまうカレーファンも多いだろう。
そんなファンにも、無駄のないオペレーション、許された者だけが行うルーをかける儀式など、行けば行くほど心地よくなる店の刻むリズムを感じながらこの一皿を食べてもらいたい。
短時間で最大限に味わう事が出来るようになると思う。
また、自分なりの食べ進み方を確立するのも面白い。
僕の場合、タマゴを追加した時に食べ進み方を間違えると満足度に差が出るような気がして、何度か試して独自の方法を見出した。
もちろんスタンドであるから席についてからそれを考えたりはしない。
店に向かう道すがら限られた時間の中で事前に脳内でシミュレートする。
店内に入ればそのリズムに身を任せ、食べ終えたらサッと出てまたすぐ訪れる。
そのルーティンが楽しい。
次回はもっと美味しいと感じるに違いない。
(写真は丸の内店。ルー大盛りにタマゴをプラスして。)

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グラント・グリーンの「キャリーン・オン」
このアルバム以降を彼の後期の作品として扱って良いと思うが、その理由はここから従来のジャズの楽器編成をやめ、同時代のソウルやファンクのエッセンスを積極的に取り入れたスタイルに変わったところにある。
(ここではソウル・ジャズとしたが、ジャズ・ファンクのはしりとも。)
当時のジャズリスナーの多くはその変化を支持せず、彼の人気は低迷した。
現在でもリスナーの大半がブルーノートから発表した初期〜中期のリーダーアルバムを推すと思う。
時代を経てクラブ・ジャズのブームの中、この時期の楽曲がサンプリングの元ネタになるなどして「再発見」され、ようやく後期のアルバム群も日の目を見たのだが、このアルバムはどうもその中でも地味な印象があった。
ジェイムス・ブラウンやミーターズと言ったファンクの人気アーティストの曲を取り上げていると先に知っていたからなのか、鍵盤がオルガンではなくエレクトリック・ピアノだからなのか、最初は大人しいサウンドだなと感じたのである。
ところが繰り返し聴いていると、ジャズの奏者としての小粋さを保ちながらもカロリー高めの演奏を繰り広げている事に気付き、グッとハートをつかまれてしまった。
実はしっかりとスパイスを効かせて、油も充分に使って調理されたアルバムだったのだ。
この後の作品はもう少しわかりやすい味付けとなり、それも大好きなのだが、このアルバムの後からじわじわとくる感じをつい何度も味わってしまう。
"Ease Back''はニューオリンズ出身のミーターズの曲だが、このアルバムのリズムの担い手イドリス・ムハンマドもニューオリンズ生まれでその出自を活かした起用が憎い。
"Hurt So Bad"は、歌モノのメロディをなぞっているだけのようだが不思議とそのメロウさがクセになるし、自身の作品"Upshot"でのグリーンのソロは特にリピートしてしまうじわじわと熱くなるプレイだ。
アルバムジャケットに登場する謎の男女が何の話をしているのか思いを巡らすのも一興。

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Track listing
"Ease Back" (Ziggy Modeliste, Art Neville, Leo Nocentelli, George Porter, Jr.) – 5:49
"Hurt So Bad" (Bobby Hart, Teddy Randazzo, Bobby Wilding) – 6:51
"I Don't Want Nobody to Give Me Nothing (Open Up the Door I'll Get It Myself)" (James Brown) – 6:14
"Upshot" (Grant Green) – 10:04
"Cease the Bombing" (Neal Creque) – 8:51

Personnel
Grant Green – guitar
Claude Bartee – tenor saxophone
Willie Bivens – vibes
Earl Neal Creque (track 5), Clarence Palmer (tracks 1-4) – electric piano
Jimmy Lewis – electric bass
Idris Muhammad – drums
Released Spring 1970

では、今回はこの辺で。

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