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1996年生まれの内科医/ 映画美学校卒業 podcastやっています。 https…

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1996年生まれの内科医/ 映画美学校卒業 podcastやっています。 https://open.spotify.com/show/7wxUOeANzO2kJ6XiRzEiNt?si=xZMvoJOjRdeFyCF2Hd7dYQ

最近の記事

「TAR/ター(2022年)」現代の価値観で梯子を外される"権威"について

緻密で洗練された完璧な映画だった...。 決して高揚感を煽るようなプロットではない(はずだ)が、鑑賞後の高揚感が凄かった。 “サスペリア(2018)”とか”ノクターナルアニマルズ”の様な、高潔な舞台設定と狂気を感じるほどの重厚な語り口。重厚だけど、難解ではなくて、解釈を観客に委ねるというよりは、観客に多元的な刺さり方を提供する懐の深さ。 "加害者≒権威"が主人公となる異例さ 表層的には”#metoo的な権威の告発”や”キャンセルカルチャー”を扱っているようにも見えるけど、

    • 「ペトラフォンカントの苦い涙(1972)」権力者と若者の拗れやすい構造

      女性の同性愛映画の言わずと知れた古典名作。 なかなか観れなかったけど、遂に観ることができた…。 UNEXT様ありがとう。 とても悲しく美しい映画だった。 男性に頼らず、ファッションデザイナーとして高い業績があり経済的・精神的にも自立したペトラが、若くて美しい奔放なカーリンへ入れ込み、メンヘラ化していく話。 年上の権力者が、若くて身軽な年下に入れ込んで破滅していく話は映画史でも繰り返し描かれるモチーフだと思う。女性同士なら"TAR"、男性同士なら"ベニスに死す"を彷彿とさ

      • 「バービー(2023)」は、かくして社会現象となった

        【ひとこと説明】 痛烈な社会批判を散りばめたサウスパーク的基調を備えた、大傑作ドリームポップコメディ ●社会批判性を明るい笑いに落とし込む聡明さ “Toxic masculinity(=有害な男らしさ)”や”Gender inequality”を正面切って批判している。特にtoxic masuculinityは2020年代映画の重要なキーワードであり、「パワーオブザドッグ」や「イニシェリン島の精霊」、「ドライブマイカー」でも(神妙に、あるいはシュールに)主題的に扱われてい

        • 「オッペンハイマー」は映画でありながら、オーケストラ的である

          【全体的な感想】 最高でした…。 (友人とやっているpodcastでも語っているので、こっそり宣伝します↓ https://open.spotify.com/episode/2Ym5PDvyXhUT0RcWuQZiEE?si=B8EWhvx0Q0W3Rc8jz6ftmw ) 尋問型の会話劇を軸に、「扇状回想法」の形で展開していく史実に基づいた科学者の”政治”サスペンス。 扇状回想法は代表的には『タイタニック』や『ソーシャルネットワーク』で用いられているシナリオパターンだ

        「TAR/ター(2022年)」現代の価値観で梯子を外される"権威"について

        • 「ペトラフォンカントの苦い涙(1972)」権力者と若者の拗れやすい構造

        • 「バービー(2023)」は、かくして社会現象となった

        • 「オッペンハイマー」は映画でありながら、オーケストラ的である

          「悪は存在しない(2024)/濱口竜介監督」が作品の成立経緯から内容まで、全て異質であるという話

          ■総合的な感想 底知れぬ不穏さと高い芸術性が両立している不思議な傑作だった。 ドライブマイカーよりも、構成やストーリーはシンプルで分かりやすいと感じる。 濱口監督特有の不気味かつ不穏な演出が随所に見られ、独自の幽玄美を構築しており、素晴らしい映像だった。 木を煽るように撮ったオープニングが異様に長尺で、自然風景のゲシュタルト崩壊が起きる。この時点で芸術映画的である。一方で、無名俳優が淡々と最小限の台詞で物語を構築しているにも関わらず、明快なエンタメ性も担保されているとい

          「悪は存在しない(2024)/濱口竜介監督」が作品の成立経緯から内容まで、全て異質であるという話

          Disobedience(2018) ロニートとエスティ 感想と考察

          ※ネタバレあり(ネタバレしかない) 冒頭のラビが亡くなるシーンから、NYで写真家をするロニートのシーンへ。「大事な知らせ」と職場の人が伝えにくる。大事な知らせを伝えたり、ロニートのリアクションは大幅にスキップして、行きずりの男と関係したりスケートしたりするロニートを淡々と映すのみ。飛行機乗ったと思えば英国へ到着し、とある家に着く。どことなく全員に歓迎されていないロニート。家にいたのは冒頭でラビを囲んでいたユダヤ教の人々。皆、経験な信者でありNYで自由を謳歌するロニートとは違

          Disobedience(2018) ロニートとエスティ 感想と考察

          ハングオーバー! ~JOKER 監督の出世作~ 感想と考察

          ※3分程度で読めます。 The Hangover (2009) 監督 トッドフィリップス (JOKER(2019)等) 脚本 ジョンルーカス、スコットムーア 脚本の二人が、本作のエグゼティブプロデューサーの友人がバチェラーパーティの後に行方不明になったという話(実話)を聞いて作った脚本らしい...。恐るべき、執筆力ですね。 アランの弄られ具合、ステュの見事な不幸インテリっぷり、フィルのトラブルメイカーっぷりが最高でした。 心に残った点を書きます。 1. サンドイッチ回

          ハングオーバー! ~JOKER 監督の出世作~ 感想と考察

          ブラックミラーは 「The National Anthem/国歌」 が最高傑作なのではないか?

          “I guess he knew everyone would be outside, elsewhere, watching screens.” “That’s what this was all about, about making a point” これ, ほんとこれ.........  脚本家のCharlie Brooker(https://en.wikipedia.org/wiki/Charlie_Brooker)巧妙過ぎて涙が出た。 この台詞が凄い2019に入

          ブラックミラーは 「The National Anthem/国歌」 が最高傑作なのではないか?

          「アンダルシアの犬 / ルイス・ブニュエル(1929)」の「何が前衛的であるのか?」を考察する

          1929年公開フランス 監督・製作:ルイス・ブニュエル 脚本:ルイス・ブニュエル、サルバドール・ダリ Wikipediaより引用 "アナキズムに心酔していたブニュエルによる、「映画の機能を否定した映画」" →脈絡のないイメージ群に, 物語を見出す必要がある →"ユングのConstellation" を思い出した. 観客の内的世界に対応した形で外的世界が特定の位置に配置される. 当時 ダリがフロイトの夢分析に影響を受けていたことを考えると, 意識的に構成した"夢"がアンダル

          「アンダルシアの犬 / ルイス・ブニュエル(1929)」の「何が前衛的であるのか?」を考察する

          「ミスト(2007)」 は極限状態における行動様式のシュミレーションとなる

          ミスト (原題 The Mist) 監督・脚本 Frank Darabont (ショーシャンクの空にの監督) 原作はスティーブンキング Stephen King あらすじ: 深い霧に包まれた街で巻き起こる怪異と,徐々に秩序を失う人々が描かれる。(Wikipedia) "密室"は使い古された舞台の一つ. SAW, Cubeといった有名な映画はもちろん, サスペンス小説の世界でも最も登場頻度の高い設定. 従来の密室達が"目覚めたら寒々としたトイレにいた"とか"不気味

          「ミスト(2007)」 は極限状態における行動様式のシュミレーションとなる

          ラッカは静かに虐殺されている 感想とメモ

          ISに支配されたシリア Raqqaの現実を世界へ向けて発信し続けるジャーナリスト集団 RBSS (Raqqa is Being Slaughtered Silently)のドキュメンタリー. 原題はCity of Ghostsで, いわば主人公となるRBSSの名前自体を翻訳したのがそのまま邦題になっている. 注意:以下ネタバレあり!!! 自分が映画を観るまで知らなかったこと. ・Raqqaはアサド政権に対する革命が起きるまで平和な街であったこと. ・ISのプロ

          ラッカは静かに虐殺されている 感想とメモ