それまでの明日:原尞:ハードボイルドを最大限利用したミステリ

「それまでの明日」(116/2020年)

14年ぶりなんですね、凄いですね。でも、まだ5作目って、信じられないシリーズ物。

「そして夜は甦る」が1988年発表。そこから「私が殺した少女」(直木賞受賞作品)、「さらば長き眠り」ときて、2004年に「愚か者死すべし」を発表。そして本作「それまでの明日」です。

自分の読書メモを掘り返したことろ、2007年に「私が殺した少女」、2008年に「愚か者死すべし」を読んでいました。そして2020年です。このシリーズ、サザエさん方式で、主人公は年を取りません。私立探偵の沢崎は中年の冴えないオジサンのままです。

ネタバレにならないように書きますが、いくつもの勘違いが複層的に絡み合う物語。ハードボイルド小説なんですが、底にはパズル的ミステリが流れいると感じました。意図的なウソと、状況から勝手に「勘違い」していたことによって深まる謎。思考の「土台」が最初からズレているから、その上に積み上げた「推理」が徐々に崩壊していく。最初は無理やり積み上げたものを修正していたのに何かがおかしい。がしかし、土台の過ちに気が付いた時、今まで積み上げてきたものが一掃され、本当の姿が突如として立ち上がる快感、たまりません。

ハードボイルドなんですが、ハードボイルド要素が「トリック」として効いているから面白いんですよね。沢崎の行動にしても、ハードボイルドだから読者は納得する。物語をハードボイルド風味に仕立てているのではなく、ハードボイルドを最大限利用したミステリなんですね。

それにしても、沢崎だからこそ、周囲の登場人物に、そして読者にも真実を伝えるタイミングをコントロールするという「トリック」が使えるんだな、やられたぜ。

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