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鏡の背面:篠田節子:これほどまでのリアル

「鏡の背面」(124/2021年)

心が動きまくる。善と悪の境界線が目まぐるしく変わっていく。自分はどこにいるのか。こっちか?向こうか?自分は正しいのか、間違っているのか、中立なのか。分からない、判断出来ない。

社会的弱者を救うマザーテレサのような聖人が事故死する。その結果、彼女が実は全く違う人であった可能性があることが判明した。

聖人は罪人だった。でも、彼女はここ十数年は間違いなく聖女だった。いや、本当は違うのか、聖人のカモフラージュだったのか、それとも彼女は生まれ変わったのか。

物語は聖人になりすましていた「罪人」を追い求める。その過程が物凄くドラマチックです。でも決して陳腐にならないのは篠田節子の緻密な書き込みのおかげだと思います。男を手玉にとったり海外に逃亡まがいのことをしたり、表面上は派手なんだけど、読んでいるとどんどん心が冷えていく…勢いのある情景が凍り付いていく。凄い、凄すぎる。

他の読者も感想で書かれていますが、なんでこんなにリアルなんだろうか。非常識な展開なのに、問題無く受け入れてしまう。登場人物の書き込みが濃いからかもしれない。罪人を追っていた元週刊誌の記者のたたずまいとか、震えがとまりません。

ネタバレになるので内容は書きませんが、ジャンルでいえばサスペンス・ミステリなんでしょうが、そんなジャンルの枠組みは越えてしまっている恐ろしい作品です。展開は早く、様々な事実が明らかになっていく興奮は当然味わえますが、それ以上の感動が待ってます。小説好きならばマストリードでしょう。篠田節子を堪能してください。


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