象は忘れない:柳広司:すぐに忘れてしまうのが現実

「象は忘れない」(030/2020年)

あれから9年ですか。翌3月12日の水素爆発。本作は福島第一原子力発電所事故を様々な時系列で、様々な人の立場から描いた5つの短編集です。原発作業員、近隣住民、漁師の妻、米国軍人、それぞれの思いがとても静かに語られていきます。この静けさが、この事故の悲惨さを際立たせています。

一番切ないのは「卒塔婆小町」でした。漁師の仕事を事故で奪われて荒れていく夫の暴力から逃げて、子供と共に東京に出てきた妻。逃げてきたのに、福島からということで、理不尽な「放射能差別」を受け、日に日に弱っていく二人。そんな二人に優しく手の差し伸べたのは、、、なんと、、、という話です。どこまで行っても報われない、本当に悲しい話です。もちろん、事故を乗り換えて、復活している人も多々いるでしょう。でも、その人たちの裏側に、決して表に出ることのない暗闇の中でもがき苦しんでいる人たちがいることを忘れてはいけないと思いました。

とか、書いてますが、残念ながら、すぐに忘れてしまうんです、自分に関係のない「他人の不幸」のことなんて。それが現実です。でも、こういう作品に出合って、その時だけでも、思い出し、気にしていくことが大切だと思って、こうやって書いているのかもしれません。ただの自己満足かもしれませんが、許してください。

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