クジラアタマの王様:伊坂幸太郎:初Kindleで伊坂クオリティ

「クジラアタマの王様」(131/2020年)

今更なのですが、Kindle、購入しました。先日、ここ20年間に購入した文庫本をダンボールで13箱分処分したのですが、これを機にスペースを取らない電子書籍も試してみようと思いまして。で、「例の読み放題」がお試し期間なので何かあるかなぁ、と思ったら伊坂発見ですよ!これは運命的な出会いです。さらに文章と絵(挿絵でもなく、イラストでもなく、漫画でもないので「絵」とします)を融合させるというチャレンジングな作品です。お恥ずかしながら、あとがきを読むまでKindleだから絵が入ってるのかと勘違いしていました、すみません。

個人的読書史のオープニング作品(って大袈裟ですが、そのくらいのインパクトです)ですが、いつもの伊坂クオリティ、満喫しました。お菓子会社の話から、あれよあれよと物語は転がり、最後は「地球を救う」という流れ。かなり強引で無茶苦茶な展開なんだけど、伊坂の作り出すキャラクターの妙味と文体のしなやかさに完全に騙されてしまいます。

クレーム処理が得意なサラリーマンと、完璧な男性アイドルと、「正直者」の政治家の三人が活躍するのですが、この3人は夢の中で共闘してるらしいのです。この設定自体、正直ありきたりなんだけど、何かが違う。陳腐ともいえるファンタシー設定よりも伊坂テイストが勝ってるんですよね。気になるのは政治家、途轍もなく正直なんですよ、でも嘘もつくんですよ。全て自分が信じることのために。こんな政治家、絶対いないです。こんな素晴らしい(?)政治家がいたら世界は平和になります。

夢の中では剣とか魔法とか使って、竜みたいなものと闘ってるんだけど、そんなファンタシーよりも、政治家の方がよっぽどファンタシーなんです。この仕掛けこそが伊坂クオリティなんでしょう。

今回の絵との融合というチャレンジ、最初なので読者に分かりやすいようにこの設定を選んだってことなんでしょうね。文字だけも充分に楽しいけど、その先の何かを模索している感じ。正直、このスタイルの楽しみ方がまだ分からないけれど、これからですね。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?