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昨日がなければ明日もない:宮部みゆき:冷たい。

「昨日がなければ明日もない」(65/2021年)

冷たい。優しいけど、冷たい。半端なく冷たい。容赦なく冷たい。これが宮部です。

杉村三郎シリーズ第5弾、中編3つ、楽しませていただきました。真ん中の「華燭」は前後に比べればコミカルに思えるものの、根底には結婚というものの裏に流れる冷たさが流れている。ドタバタコメディとして映像化したら、笑いの後に静かに忍び寄ってくる何かがある。結果オーライ的な内容だけど、宮部みゆきはシンプルな読書をさせてくれない。

「絶対零度」は果てどっちに転ぶのか、なかなか見極めがつかなかった。娘が夫に「幽閉」されているのではと疑う母。夫は妻(=娘)を義母(=母)から遠ざけないと危険であると主張する。一見、夫が悪いように思えるのだが、もしかしたら「毒母」かもしれない。そんな思いで読み進めると、想像を超えた「最悪最低」の結末が待っている。それを淡々と描き上げる宮部みゆきは本当に凄い。

「昨日がなければ明日もない」は家族の悲劇を書ききっている。こんな悲しい家族があるのだろうか。家族が無ければ良かったのに、と思われる残酷な内容に驚愕する。誰も「悪」ではないのかもしれないのに、家族でなければよかったのに。

宮部みゆきの現代小説は、本当に鋭く読者の心に切り込んでくる。簡単に、単純に読ませてくれない。エンタテインメントなんだけど、何かしらの違和感というか傷痕というか、僕にとっては「冷たさ」を残していく。だから読みたくなる。

死ぬまでに、あと何冊宮部作品を読めるのだろうか。

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