鹿の王 水底の橋:上橋 菜穂子:「医」の持つ力

「鹿の王 水底の橋」(088/2020年)

「鹿の王」の続編、というよりはサイドストーリーかな。いや、「サイド」ではないな。あの作品から新しく立ち上がった新しい物語だ。今後、いくつもの新しい作品が立ち上がりそうな予感。本作品から読んで、気に入ったら、文庫で4冊の「鹿の王」に挑めば良いと思います。

医術の物語。そこに政治が絡むところが前作から続くポイント。ファンタジーな世界設定なので、もし日本で考えるならば2~5世紀くらいの話なのかな。人の生死にかかわる「医」は権力との結びつきも強く、それをめぐって派閥争いが生じる。また、宗教にも近いだけに、いまよりも複雑な思惑が絡む。

今の時代のコロナにしたって、全く根拠のないデマで人々は右往左往する。ちょっと考えれば理解できるのに、それを無視して、その場の雰囲気で行動してしまう愚かな人間たち。医学というものは、不思議な力を持っているのだなと改めて思った。

主人公は天才医師、ホッサル。技術は高度なはずなのだが、「支配されている側」の民族のため、政治的に潰される可能性もある派閥の時期リーダーである。医のテクニックだけでは生き延びることが出来ない状況にイライラしているものの、政治の現実とも折り合いをつける覚悟をする姿は、実にリアルである。

次期皇帝継承争いに絡んだ大事件が発生。その背景には「医術」、そして「命」の問題が。人の命とは何なのか、そして「生きる」とは何なのか。重いテーマを抱えつつ、ちゃんとエンタテインメントしたファンタジーです。このタイミングで読んで欲しい作品です。

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