翼竜館の宝石商人:高野史緒:想像力の爆発

「翼竜館の宝石商人」(145/2020年)

想像力の爆発とでも言えば良いのでしょうか。どうしたら、17世紀のオランダ、アムステルダムを舞台に、画家レンブラントの周辺をテーマにしたミステリを描こうと思えるのか。常人には高野の頭の中はワンダー過ぎて、もう恐ろしいです。

当時のヨーロッパの「汚い」感じが、重厚な雰囲気を盛り上げます。リアルが押し迫ってくる中で起きた奇怪な事件、絵の中から人間が蘇って這い出して来るんです。ペストで死んだ宝石商が生き返る、ホラーなのかファンタシーなのか、読者は困惑したままアムステルダムの路地裏に投げ出される。電気の無い時代、全てが暗闇の中で進行していく感じがたまらない。薄暗い中でうごめく人間たちの強い生命力を感じます。

なぜこの時代を描くのか。どうやってその舞台を頭の中に構築するのか。登場人物の造形はどこから作り出すのか。全ては作家の力なのでしょう、凄すぎます。文字だけで、私たちを未知の世界に連れて行ってくれる。

王道のミステリの組み立てですが、舞台を飛躍させることにより、全く違った世界観になる。小説の素晴しさ。実写ではない、想像のワンダーを堪能しましょう。

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