アリスの国の殺人:辻真先:3冠の訳
「アリスの国の殺人」(112/2021年)
なんと1981年作品です。主な舞台はゴールデン街と言っても良いでしょう。漫画雑誌業界、出版社界隈の物語。ギラギラした昭和の香り(じゃなくて匂いか)がプンプンします。
児童書担当から突如コミック誌の編集にコンバートされた青年、綿畑が主人公です。昔から「不思議の国のアリス」大好きだったからは、現実世界での事件と不思議の国の事件の両方に対峙することになります。
これミステリというよりも、ミステリの体裁を取った何モノか、です。何モノかを探る過程、それを妄想と言うのかもしれませんが、その大切な部分は読者に任されています。最高の舞台がそこにはあります。
現実世界の物語は、コミック誌の辣腕編集者が殺された。そこには愛憎やビジネスや社会情勢などが実に細やかに組み込まれています。語り口調がクセのあるユーモア満載だし、突拍子もないキャラばかりなので騙されてしまいそうになりますが、骨格はソリッドです。
そこの不思議の国の事件が重なります。現実世界の常識を超えたキャラに連動して事件を解決していく様は実にクレバー。こちらも最後までまんまと騙されちゃいました。
ブログ等で低評価な感想を読むと、それには納得です。本作品は謎が解ける時のカタルシスを提供するものではありません。不思議の国のパートも不要かもしれません。ストーリーを追うだけならば無駄と思う気持ち分かります。でも、「このミス」「週刊文春ミステリーベスト10」「ミステリが読みたい!」2021年版で3冠だったのは、こういう作品もミステリファンに読んでほしいという思いと、こういう作品もアリなんだよという作家、作家を目指す人たちへのメッセージだったのかもしれません。
こんなミステリがあったんだよ、40年前の作品だけど、全く色褪せていないでしょ、登場人物も面白いでしょ、若い年代の読者にとってはサイエンスフィクションかもしれないけど。
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