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本と鍵の季節:米澤穂信:高校生である必然性がある

「本と鍵の季節」(74/2021年)

米澤の高校生もの、相変わらず切れ味が鋭い。容赦なく攻めてくる。流石である。高校生という生き物を馬鹿にしていない。この姿勢が米澤クオリティ、他の高校生ものとは一線を画している。

ネタバレはしないでおこうと思うと、書けることは少ない。高校二年の図書委員、男子二人が様々な事件を、本作では解決する、くらいが精いっぱいかもしれない(笑)。これ以上書くと、勘の鋭い読者には余分な情報であろう。米澤作品なので、大事に読んでほしい。

大きなテーマは「人の悪意」だと思う。男子二人、大きく分けると「悪意前提」派と「悪意は偶然」派である。ちなみに私は前者なので、前者の登場人物のロジック寄りで読み進めたが、悪意が犯罪の唯一の源であるとは思っていない。ただAさんにとっての悪意はBさんにとっては善意に思えるかもしれない。また、法を犯さない悪意も存在する。

敢えて主人公を高校生にしているから成立する物語なのだ、これは。悪意に対する「未成年」の対応であることが、この冷たくもどこか未来を感じることが出来る空気を醸し出している。これが成人となると、風景はガラリと変わるだろう。

決して二人は馬鹿ではない。かなり成熟していると思う。がしかし、まだ高校生であるところもしっかり書かれているので、バラスンが取れているのだと思う。もし、米澤が小学生を主人公にしたミステリを書いたらどうなるのかな、とか思いつつ、この実に良質な短編集、お楽しみください。あの頃に戻りたくなること、必至です。



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