黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続:宮部みゆき:選手交代

「黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続」(75/2022年)

さて、おちかから引き継いだ富次郎のデビュー戦です。ガラリではなくソロリと流れが変わりました、流石宮部、凄いです。シリーズ第6弾での大幅なメンバーチェンジは静かにスタートです。本作は小編三つの、中編「黒武御神火御殿」となります。

この中編が宮部のファンタジーマインド炸裂の、今までの三島屋シリーズの中でも異彩を放つ物語。家が、屋敷が人間を攻めてきます。さらにはその屋敷を取り巻く環境自体も敵となります。もう八方塞がり。その中でこの異空間に紛れ込んでしまった、それぞれに訳アリの五人がサバイブしていきます。けっこう長期間に渡るバトルを描いていて、ちょっと「ブレイブストーリー」を思い出してしまいました。シリーズでも「家モノ」はありましたがここまで好戦的なのは無かったです。

三つの物語は富次郎の人となりを説明しつつ、今後の意気込みをじわりじわりと読者に浸透させる役割かと。「泣きぼくろ」は幼馴染というか、小さい頃の交流のあった友達からの告白。ユーモアあふれるという解釈もありますが、さてどう読みますか?
「姑の墓」は家族の絆、いや呪縛か、家というシステムの恐ろしさを描いています。容赦ない展開はさすが宮部、現実は優しい事よりも厳しい事の方が多いのですよと静かに語り続けるこのクールさがたまらないのです。
「同行二人」は妻子を喪った飛脚の哀しいけど、少しだけホッとする物語。哀しみや痛みを乗り越えて生きていけない人もいます。その弱さに寄り添う人の情けの物語です。

富次郎の生き方、考え方がだんだん分かってきました。さて次は、もう少し踏み込んだ彼の生き様を見ることが出来るでしょう。ま、宮部のことだから、かなりひどい目にあわされると思いますが、期待して待ってます。


この記事が参加している募集

#読書感想文

189,831件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?