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【AI×環境問題】AIによる鉄スクラップの画像解析、ホントは相性悪い?

世界で最もCO2を排出すると言われる鉄鋼業界。そんな中、今回取材した株式会社EVERSTEELは「鉄リサイクルの促進」の事業を展開しています。

具体的には、リサイクルのために工場に運び込まれる「鉄スクラップの分別・検収作業」の自動・効率化。

スキルを身に着けるのに時間がかかり、熟練の作業員の人力に頼らざるを得ず、さらに技術を継承する人材が不足しているというこの「検収作業」の問題を、AIによる画像解析で解決しようとしています。

今回は、鉄スクラップ解析アプリケーションの研究開発を行う株式会社EVERSTEEL代表取締役 田島圭二郎氏に、業界の実情や今後についてお話を伺いました。

株式会社EVERSTEEL
代表取締役 田島圭二郎氏

御社の「鉄スクラップ解析アプリケーション」は、どういった用途で使われるものなんですか?

リサイクルのために鉄鋼メーカーの工場へ運び込まれた鉄スクラップは、溶かす前に余分なものを取り除かなければいけません。

その作業は熟練の作業員が目視で行っているんですが、人の力にも限界があるので、このアプリケーションは、AIによる画像解析でその作業を代替・サポートするために使用します。

分別・検収作業員の方が行う様に、画像認識でどう検収をしているのか、その仕組みを教えてください。

基本的には取り付けたカメラでスクラップを上から撮影し、鉄ではないもの、危険なものを検知するとアラートが鳴るという仕組みになっています。

そのためにはまず、AIに鉄スクラップのパーツについての情報をどんどん教え込んでいくという過程が必要です。このパーツはこういう厚みで、このぐらいの溶けやすさで、不純物がこれくらい入っている、というような情報を付与していきます。

それによって、画像認識で似たパーツを検知した時に情報を引き出して、繰り返し使うことでその精度をどんどん上げていくという流れです。

現場では、どのようにそのアプリを使用しているんですか?

まず人による査定の際には、トラック1台分にある何千ものパーツを約20分くらいでザーッと確認、1日に20~30台くらいのトラックの検収を行うので、細かく全部見ていくということはしないんです。AIの場合も同様で、今は結構ざっくりとした査定を行っています。

「トラックの前の方はキレイで、後ろの方は汚い」というレベル感の計算です。1台分の荷下ろしが終わると、最後に等級(質のランク)の判定をしていきます。

”これが絶対”という査定基準がないというのも大変な要素の1つです。基本的に画像認識でやるようなタスクじゃないので、AIとも相性が悪いんですよ。

相性良くないんですね(笑)。

実はそうなんです。言ってしまえば、我々が取り組んでいるのってゴミの山から同じようなゴミを見つけることなので、見つけたい対象物と背景の間に差分がなくて、AIが本来得意とする分野ではないんです。

AIは例えば草原の中から馬を見つけるように、周囲の要素とは異なるものを検出することは割と得意。ということもあって、実は同じようなことに取り組んでいる人が日本には全然いないんです。

アプリは現場の方も使うんですよね?使用感については今までどんなフィードバックがありましたか?

最初は鉄じゃないものを全て見つけるAIを作っていて、何でもかんでも検出しまくっていたんです。実際の現場には、不純物ではあるものの中には混じっていても問題がないものもあります。そういうものまで全部見つけて毎回アラートが鳴っていたので、止めて欲しいという要望がありました。

例えばコンクリートとかって、混じっていても後で電気で溶かす際に取り除けたり、空気中に蒸発しちゃうので問題ないんです。

スクラップの良し悪しを決める「等級判定」の基準が、鉄鋼メーカーによって異なると聞きました。アプリは導入するメーカーさんによって、毎回カスタマイズしていくってことでしょうか?

そうですね。例を出すとするなら、同じ牛肉でも北海道ではA5ランクなのに、沖縄ではA3ランクになってしまうみたいなことが、今の鉄鋼業界では割とスタンダードな状況なんです。

判断基準が工場ごとに異なるので、AIによる査定も、その工場で普段行われている基準で実装して欲しいと求められます。そういう業界的な背景もあって、毎回勉強し直したAIを作っているんです。

とはいえ、業界としてはどこの工場に持ち込んでも基準は同じであるべきだよねというスタンスです。当社の取り組みによって基準が違うこと自体を是正して欲しいという要望もあり、ここは解決したいと考えています。

査定基準が違うと、買い付けの金額を決める時に揉めたりしませんか?

実際に揉めてますね。急にほかの工場の基準で査定を出したりすると、スクラップ屋さんからめちゃくちゃ怒られると思います。

毎日の操業の中で、「いつも取引しているスクラップ屋さんで、このレベルのスクラップだったら、このくらいの値段だよね」みたいな共通認識が良くも悪くも出来上がっているんです。”お得意様価格”とかもありますね。

問題は、スクラップってゴミなので、その品質を誰も定義できないということ。とは言いつつも、A5ランクなら同じA5ランクで、基準は統一しておくべき。異なる値段が付くことは起き得るにしても、基準は同じにしておいた方が絶対良いですよね。

日本だとそれぐらいの課題感なんですが、これが東南アジアになると、かこつけて賄賂を渡すような慣習もあるそうです。スクラップ屋さんにとっては1つ上のグレードで査定を出してもらうだけでスクラップの売値が物凄く上がるので、検収員に賄賂を渡しておけば、ウィンウィンっていう発想なんです。

闇深いですね…

やりがいしかないですね(苦笑)。

アプリケーションについてもう少し詳しく教えてください。

Webアプリなので、Google ChromeやSafariで使うことができます。現場で荷下ろしを始める時に、「検収開始ボタン」を押してスタート。

クレーンで鉄スクラップを上げると、下から新しい表面が出てきますよね。それをトラックの上から撮影して、何かまずいものがないかどうかをチェックしていきます。これをトラックが空になるまで繰り返し、1台分の荷下ろしが終わると査定結果が出て、解析した結果が過去のログとして残っていくイメージです。

ちなみに何か危ないものがあると、その場所に印を表示させてアラートを鳴らすという機能になっています。そのアラートも「ピロリン♪」みたいな音で、仕事で毎日聴いてても苦にならないよう、サウンドデザインを意識しました。

画像解析によって見た目から分かることだけでも、かなり色んな判断ができるんですね。

そうですね。現時点でも、熟練の分別・検収員がやっている作業は、ある程度代替できてると考えています。見た目以外で言うと、実は”重さ”もデータとして取得可能です。

工場のシステムと繋げて、そういったデータもどんどん収集していますよ。重いものほど品質としてグレードが高かったりするので、「重量」はすごく使いやすくて貴重な指標です。

あと現場の方たちは、”音”や”臭い”も判断材料として使っていると言っていました。落としたときの音で中が詰まっているかどうかが分かるし、ガスっぽい匂いがしたら危ないものが入っている可能性が高い、というようなイメージですね。

検収員の方は五感をフル活用しているんですね。

熟練の方が持っているスキルってホント物凄いんですよ。とんでもない感覚の持ち主なんですが、やはり人間なので、勤務中フルにMAXその集中力をキープはできない。日頃の作業は割と流しでやっていますし。

AIによる画像認識の査定だけではなくて、人による選別と合わせて使っていく形が残るイメージでしょうか?

そうですね、そこはそんな気がします。スクラップも種類が無限にありますし、しかも電化製品ってどんどん新製品が出るじゃないですか。その結果、ゴミとして出るスクラップの形もどんどん変わっていく。

今後も特殊なものやイレギュラーなゴミは発生し得るので、そういったものは人が目で見てチェックする。このように、難しいことだけは人力で行い、通常業務の当たり前にできる部分はAIにやらせるっていうスタイルが、実はベストかなと思っていたりします。

将来、こういう事業を展開したいというビジョンはありますか?

評価のバラつきを是正して、一律な評価基準の等級判定によって金額が決まるというシステムを構築することが大前提にはなりますが、鉄スクラップのECサイトを開設したいと考えています。

現段階では評価基準が工場ごとに違いますし、評価できる人も熟練の作業員しかいない。熟練の方でさえも、見られるスクラップの量には限界がある。その結果、どうしても個人で評価にバラつきが出る。

それをAIが均質化して、日本中どこでも使えるようになれば、評価した査定をもとに流通を成り立たせることができます。

まだまだ先になりそうですが、もし遠隔で検収作業ができるようになれば、自宅でゆっくりご飯を食べながらでも環境に良いことができるようになるので、そんなハッピーな未来を目指したいですね。

EVERSTEEL社オフィスのある
東京大学構内の南研究棟

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(写真:佐久間鑑)

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