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【組子】日本の伝統的な木工技術の職人に聞く、今と昔

釘を使わず文様を組み上げていく木工技術「組子」。この日本の伝統技術をさらに進化させ、アメリカの International Design Awardsで金賞を受賞した株式会社タニハタに所属する2人の組子職人と、代表にお話を伺いました。

「Asanoha Chirashi」
写真:IDA DESIGN AWARDS 2023より

今はどんな作業をしていたんですか?

切り出された木材を、良いものとそうでないものに分ける選別作業です。クライアントさんの企業ロゴ部分に使われる木材なので、特に質の良いものを選んでいます。

組子職人:福田 菜々子氏

組子全体の中で、どの場所で使われるかでも木材を使い分けているんですね。

質のチェックに加えて、実際に少し組み立ててみて、隙間がないか、しっかりハマるかなども確認します。「こわみ加減」というんですけど、堅さ、きつさ、ぴったりこないと隙間ができたり。良くないものは捨てるのではなく、次にどこの部品として使えるかなども考えながら仕分けしていきます。

後々になってハマらないということが起きないよう、初めの段階でこわみ加減を確認します。

いろいろな作業がある中で、「今日はこの作業の日」という進め方なんですか?

全体を見つつ、足りない部分を補うために動いているので「今日はこの作業の日」というわけではありません。

土台となる枠の中に、文様部分の「葉組子」を入れる「葉っぱ入れ」という作業があるのですが、葉組子の部品がないと、そこの工程自体がストップしてしまいます。なので「この部品が足りていないから、追加で出してあげよう」って考えながら動く感じですね。

たくさんの作業工程の中で、どの作業にやりがいを感じますか?

やっぱり「葉っぱ入れ」と「組付け」ですね。バラバラだったパーツを組み合わせていって、それがどんどん組子の文様になっていく。これが完成するときは達成感があります。

「組付け」の作業

そういう組子の納まりとかピッタリ入ったときは、組んでいても気持ち良いし楽しいですね。

ありがとうございました。


今の作業内容を教えてください。

大きな木材を切り出し、節があったり色が悪かったりする部分を省く「木取り」という作業です。目が細かく色の良い木を選んで、注文の仕様書を見ながら必要な長さに切り出し、次の加工場まで持って行きます。地味ですが、最初の材料選定を行う非常に重要な工程です。

組子職人:高島 敬氏

曲がっている木材はもちろん、観察してこれから曲がりそうな木材も省いていきます。この選別は長年続けてきたのでパッと見ただけでも分かるようになりました。

「曲がりそうな木」の選別は相当難しそうですね。

ちなみに、タニハタさんでは定年制度を設けていないと聞きました。実際に長く働いていていかがですか?

私は76歳になるんですが、「定年」は社長と本人の話し合いで決める、ということにしていただきました。社長さえ良ければ「働けなくなるまで働く」ということになります。この与えてもらった時間で、次の世代にも知識と技術を残していけますし、私にとっては大変ありがたい制度です。タニハタには、私を含めて70歳以上の職人が2人在籍しています。

今はまだ体調も良く、若い職人たちと一緒に残業することもある雇用形態なんですが、自分の身体と相談しながら「残業なし」「業務は15時まで」など、社長と相談しながら作業時間を決めていくことになると思います。ただ、気持ちはまだまだやりたいと思っていますし、仕事場で職人の仕事を全うしたいです。

長年携わってきた組子の制作業務の中で、どんな点にやりがいを感じますか?

自分が切り出した木材を作業場へ送り、職人がそれを組み立てて、最後に出来上がる。完成品を見て、こういう風に仕上がるのか、これが自分の切り出した木か、と考えるのが楽しいですね。うまく切り出せてよかったなと。それが一番です。

ありがとうございました。


タニハタさんはソーラーパネルの設置や木くずの再利用など、環境問題へも取り組んでいます。ここへ大きく舵を切ったのはなぜですか?

株式会社タニハタ
代表取締役社長 谷端信夫氏

きっかけは2011年の東日本大震災です。福島に身内がいたので、震災の5日後に現地に車で向かいました。道中、原子力発電所の建屋爆発ニュースをラジオで聴きながら「今まで当たり前のように使っていた電力は、全然当たり前ではなかったんだ」と痛感したんです。

福島から身内を連れて帰り「これから私はどうすればいいのか…」といろいろ考えました。原発は私たちの生活が作り出した施設。まずは、自分と会社だけでも、極力無駄な電力を使わないようにしなくてはならない、という思いから取り組みを始めました。

電灯をLEDに変えたり、工場屋根にソーラーパネルを載せたり、壁をくり抜いてより室内に自然光が入るようにしたりしました。電力会社との契約も富山の水力発電の契約に変更。ほかにも、製造工程で大量に出る木くずをペレット状にして、冬の間はペレットストーブの燃料にしています。

製造中の木くずをペレット状にしたもの
ペレットストーブ

私なりに環境に負担をかけないモノづくりを目指し、今では自然エネルギー100%でそれが可能になりました。さらに、環境に負担をかけない脱炭素のモノづくりにも社員達と取り組んでいます。

当社は電力を使う製造業の会社なので、一般的には使用電力を減らすということが、売上を減らすことにつながる可能性が高いです。これに逆らい、電力の削減と会社として利益を出すということは、両立できるんだと自ら証明したいとも思っています。

タニハタさんにも、順風満帆ではない時期があったと聞きました。

我々は創業以来ずっと「和」で売ってきたのですが、1990年代に入って、和室に住む人が減り、和室が減り、注文も減り、職人さんたちが辞めていってしまったんです。それから長い低迷時代に入ります。

一時期、私はもう「和」の時代は終わったと思い、「洋」の製品に切り替えようとしました。日本人はもう「和」の空間なんて住みたくないんだと。ホームセンターなどに洋風のフェンスを売り込み、売り上げも一時的に回復したんですが、結局また落ちてきて。2000年代にはインターネットの普及によってホームページ販売を始め、様々なことに取り組んではいましたが、まだ路線としては洋風な商品も売っていました。

そんな中、目黒の雅叙園で全国の組子職人たちが集まる会が催されたんですが、出席者だった先代の父の体調が悪く、そこへ代わりに行って欲しいと頼まれたんです。これが2005年のことでした。

本当は全然行きたくなかったんです。経営も順調ではなかったので。そんな時間があるなら少しでも売りに行きたいって思っていたんです。結局、父に説得されて参加することに。そして、これが大きな転機となりました。

ホテル雅叙園東京
タニハタ公式Webサイトより

『千と千尋の神隠し』のモデルにもなったこの雅叙園には、たくさんの組子が使われていて、そのあまりの美しさに感動したんです。自分はこんなに美しい「和」を捨てようとしていたのか。

帰ってから病床の父親に、これからは「和」の製品で行くと話しました。売れる売れないはもう関係ない、とにかく自分達の作りたいものを作るんだ。和の文化を復権させる。父に向かって宣言しました。

ロゴマークでもある「麻の葉」は色んな所で見かけますが、文様にはどんな意味があるんですか?

「麻の葉」の文様

魔除けとして有名で、古来から神事でも使われていました。江戸時代には赤ちゃんの産着にも「麻の葉」が入っていて、時代考証のしっかりしている時代劇なんかを観ていると、この文様が入っています。有名なものだと『鬼滅の刃』の竈門禰󠄀豆子というキャラクターの着物も「麻の葉」文様ですね。

昔から、健康・豊作・繁栄・長寿などを願う、人に幸せをもたらすと考えられていたのが「吉祥文様」です。

中央:麻の葉、右手前:胡麻
文様に関する文献(社内展示品)

タニハタには、縁起のいい文様の由来を調べ、厳選した18種類を独自に規格化した「吉祥組子」というシリーズもあります。その中の「七宝」文様なんていうのは、古代エジプトが起源と言われていて工芸品にも多く使われていますし、韓国の伝統工芸の韓紙(ハンジ)や、日本国内でも多く見られます。

このように遥か昔からの文様が、現代において今なお使われている。過去、現代を繋いでいくと50年後、100年後にどういう文様が残っているか。答えは出てますね。

歴史的に考えても、「吉祥組子」の文様は未来においてもまだその効果を発揮しているのではないか、と私は考えています。何かしらエネルギーと言いますか、根源的に日本人が「美」を感じる文様なんだと思います。

そう考えると、日本には潜在的に「和」のニーズがあったのかもしれないですね。

そうですね。住環境としての和室は確かに減少していますが、心のどこかで「和」の要素を求めているのかもしれません。組子を取り入れる場所を「和室」から「商業施設」も含めて売り出したときに、一気に注目が集まり始めたのも、そういった背景も影響している可能性があります。

何もしないでいたら消えていくだろう日本の伝統文化をどういう形で次の世代に残していくか…これからも職人達と共に考えて、実現していきたいと思います。


取材にご協力いただきありがとうございました

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(写真:コウイッセイ)


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