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青果のセリ人に聞く!「セリはなぜあんなに速くて分かりにくいのか」

セリが速いのは気持ち的なことと、時間的な問題です。ダラダラしていると新鮮な物もしなびて見えますし、業者のみなさんは早く荷を揃えて販売したいですからね。

40年近く前から青果市場でセリ人(せりにん)を担当し、現在は後進に託してバックアップに回っているという圓岡善弘(つぶらおかよしひろ)さんはこう話す。

普段なかなか目にすることのない「セリ(競り)」。それを仕切る「セリ人」とはどんな職業なのだろうか。今回は埼玉県の深谷中央青果市場で、セリの現場を見学させてもらい、セリ人という仕事についてお話をうかがった。

今回お話を聞いた圓岡善弘氏
深谷中央青果市場
セリは朝8時半から始まる

(以下、細字:圓岡氏、太字:筆者

「セリ」を初めて見たんですが、速くて全然ついていけなかったです。

威勢を見せるというのもあるし、活気がないとなかなか買い手さんも付いてきてくれないんですよ。

「セリ人」になるには資格や試験があるんですか?

この辺りではセリ人を「やり受け(槍受け)」って言ったりするんですよ。入札額を示す指の動作を槍に見立てて、それを受ける人が「やり受け」。

一般的には、そのセリ人は卸売市場の社員として販売業務を数年経験すると、自治体から「登録証」を貰うことができます。埼玉県ではその制度が無くなってしまったので、他の県ではどうしているのか分かりませんが。

「移動競り(現物競り)」の様子
深谷中央青果市場では
品物を見せながら移動してセリが行われる

セリ人は、競売以外にどんなお仕事があるんですか?

ただシンプルに売るだけではなくて、色々な情報を生産者(農家)さんや販売業者の方々と共有することが非常に重要です。

例えば、流行りの野菜や野菜の病気などについて種苗会社さんに相談したり、農家さんと一緒に勉強したり、野菜の生育状況や想定される出荷時期などを八百屋(買い手)さんに説明したりします。

農家さんは一旦市場に持ち込むと、自分で値を付けることができません。すべて市場に委託になってしまうので、当たり前だけど、真剣に取り組まないと付いてきてくれないです。

言える範囲で、失敗談ってありますか?

それはもう失敗だらけです。

農家さんに「こうした方がよく売れるかも」って提案したら、逆に安くなってしまったり、業者さんに「週末の入荷が多いので売り込みお願いします」と頼んだのに、雨で入荷減だったりします。

それはかなり難しいですね…ほかに普段から気を付けないといけないことはありますか?

八百屋(買い手)さんが出してくれた槍を間違えて認識しないようにかなり気を付けています。

例えば13を表すとき(130円や1300円などを提示する場合)、普通は「1-3-1-3・・・」って1と3の槍を交互に指で表すんだけど、八百屋さんによっては「1」があまり出てこなくて「3」だけのことがある。

手槍の種類
出典:東京都中央卸売市場のWebサイトより

「サンモン(13)」とか口で言ってくれると分かりやすいんですけど、手だけの人もいる。だから1000円の人と2000円の人がいる中で、手だけで「3」を出してる人がいたら、その槍が1300円か3000円かの判断を誤ると、落札する人も金額も変わっちゃうんです。

そんな判断を、あの速いスピードの中でやっているんですか…

ちなみにチョンというのが「1」ですね。

そうそう、でも地方によっていろんな言い方があるんですよ。「11」のことを並べた道具に見立ててドオグとか、確か群馬なんかはチョウチョウ。頭にチョウがつくことが多い。東京の方では、みんな値段を数字で読むようにってお達しが出てるみたいですよ。

読み方を統一しようということですね。

公正な取引のためにって意図なんでしょうけど、意外とそれも賛否両論ありまして、セリの呼び方(符丁)は、周りの人が見ても分かりにくくするっていうことがそもそもの狙いとしてあったりするんです。買っている値段が端から見て分かるってことは、原価がバレちゃうってことですから。

事実、私は全然分からなかったです。指と声が何を意味するのか馴染みがないですし、取引単位すらも分かりませんでした。

分かんないように先人たちが工夫したんでしょうね。

買い手さん同士での駆け引きもあるんですか?

うちの市場で仕入れて、同じ場所に売りに行く人も何人かいるわけです。そうすると彼らはライバル関係になるので、セリの中でも駆け引きが発生します。

相手の買値よりちょっとでも安く買おうとするのも1つですし、あるいは今日はもう相手に買わせちゃって次の日のセリを狙いに行くとか、相手と同じ量か少し多めに売りに出して牽制したりもします。

作戦がすごいですね…

深谷市場さんでは、セリ人や買い手さん同士は、みなさん顔なじみな印象でした。

そうですね、基本、毎日顔をあわせますから交流は自然と増えます。

セリに参加しないタイミングでは
買い手さん同士も会話をしていた

新規の方が入ってくることはあんまりないですか?

いないことはないですけど、誰でもすぐ入れるわけではなくて、事前の審査が必要になります。取引金額も少なくない業界ですし。この辺りのルールは各市場によって異なると思います。

一般的には、買い高に応じて積み立てておく保証金の制度や、代払い制度などを採用している市場さんが多いです。

確かにその方法は市場としては安心ですね。

圓岡さんから見て今日の取引はどうでしたか?

雨の後だったのですが、今の時期にしては入荷量が多い方でした。雨だと農家さんは畑に入れないことがあって、そうして市場に入る量が少なくなると、値段が高くつくことも多いです。

12月にはもっと量が増えるそうですね。

やっぱり冬で、深谷ねぎ。今日は100ケース持ってきてくれた農家さんもいました。

大きい生産者さんだと200ケース持ってくる方もいます。200持ってこれるような農家さんは何人か雇ってますけど、実際には夫婦でやってるってとこがほとんど。最近ようやく農業法人として若い人が入ってきたりとか、あとは外国の方を雇ってる人も多いですね。

大量の深谷ねぎ

セリが終わって、この後はどんな業務になるんですか?

まずは売った野菜の整理(積み込みや配送)を14時までに終わらせる。15時になったら、今度は翌日の搬入が始まっちゃうので、それまでに売り場を全部キレイにしておく必要があります。

他の部署では、農協さんやほかの取引市場さんとコンタクトを取って、地場に出荷のない野菜や果物などを発注しています。それとは逆に、欲しいと言われた野菜を確保して送る準備もありますね。

この間の北海道なんかは、暴風雨で連絡船が止まって連休前なのに荷物が届かないということがありました。3連休で3倍欲しいところにね。スーパーもせっかく広告に「北海道産」って入れてるのにどうすんだよってなるので、空輸で運ぶ人もいるし、ほかの市場から手配するとか、あの手この手で間に合わせるのも仕事です。

育てるときだけじゃなく、運ぶときも自然との戦いだとは…

子どもたちの給食に、この野菜が必要なんだけど「ありません」なんていうのは、揃えるのが仕事の立場ではなかなか言えないですよ。そういうところは自負としてありますね。

ホワイトボードには入荷量などの
様々なメモが書かれている

この仕事のどんなところにやりがいを感じていますか?

深谷の野菜を、全国の消費者に食べてもらってる。それが一番です。

あとはやっぱり農家さんに頑張ってもらったっていう前提があるので、それには応えたいと思っています。

本当に人間関係が重要なお仕事ですね。

やってることは原始的ですけどね。需要があれば高くなる、供給が多くなれば安くなるって、市場はそれが如実に表れるところだと思います。

今まではその特定の産地の供給で価格が上下してたのが、流通が発達したことで全国各地に届けられるようになって、価格の付き方も変わってきました。関東地区でたくさん収穫できた野菜が、よそのエリアで収穫が少なければ高く売れますし、それがもっと広くなって日本全国の需給によって価格が変わるようにもなりました。

その原始的なことが何十年も変わらない。今もなくならないってことは、それが結局一番いい値の付け方なんだろうとも思います。

株価や外貨も需給で価格が変動するので、凄く健全な経済な気がします。

市場が信用されてるっていうのは、そこが一番なのかもしれない。交渉によって微調整はありますけど、相手を見て値段を決めるわけではないし。公平・公正な取引だと思います。

本日はありがとうざいました。
次回こそはセリのスピードについていきたいです。

ここはまだ分かりやすい方なんですけどね(笑)。


▼深谷中央青果市場Webサイトはこちら


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芦田央(DJ GANDHI)
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