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【コサージュと草木染/藍染】フランスと日本の伝統技術の融合
胸元に着ける花飾りのコサージュ。その制作における技術やデザインを追求し、メゾン ミハラヤスヒロのパリコレクションでのショーにも参加した装飾花:コサージュデザイナーの高瀬光徳さんにインタビューをしました。
コサージュ[corsage 英、フ]
胸や肩、衿もとにつける花飾りで、生花と造花の両方をさす。フランス語の衣服の胴の部分江尾さすコルサージュからきた言葉で、そこにつける花飾りをさす言葉になった。昔は花の種類、色合い、素材などにしきたりがあった。
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高瀬光徳氏
コサージュのデザインはどのように進めていくのですか?
使うシチュエーションが決まっているという場合も多いので、まずはその背景をヒアリングしていきます。
例えば、結婚式で付ける髪飾り(ヘッドピース)の場合。合わせるのがどういうドレスなのか写真を見せてもらったり、モチーフにする実際の花の写真や、私の過去作品を見せながら、デザインの相談を行います。
実際の「花」をイメージしてそれをデフォルメするんですね。
はい。コサージュの基礎の型は、実際の花から考えます。試験的に作る時は百合の花やジャーマンアイリスが多いですね。単純に好きっていうのもありますけど。
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作:高瀬光徳
作るのが一番難しいのはバラ。花びらが何層にも重なっているのと、種類が何千とあるので、何個作っても同じようには出来上がらない。そういった変化が一番あるのがバラですね。
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作:高瀬光徳
コサージュの制作工程も教えて欲しいです。
まずは素材選びからで、基本的にはシルクを使っています。最初から色の入ったシルク生地もありますが、自分が欲しい色を再現するために、白のシルク生地を染めてから使うことが多いです。
「白」を染めてから使うんですね。
「草木染」という方法です。よくお世話になっている京都の染料屋さんから、素となる乾燥した植物の実や樹皮を買ってきて、まずは煮出し。1色入れるのに大体1時間ぐらい、それを何回も重ねて染めていきます。
用語解説:草木染
草木染めとは、草木を煮だして作った染液で布や糸などを染めることを指します。草木の種類によっては、煮ださずにそのまま染めることもあります。
染めるのに時間はかかりますが、どんな色に仕上がるのか未知数なところにも面白味があるんです。
どういうことかと言うと、染料によっては「耐光堅牢度」が高いものと低いものがあって、日光(紫外線)によって色が変化していきます。なので、経年での変色の過程なんかも楽しめますよ。
用語解説:耐光堅牢度
光による退色に対する耐性を表す度合いのこと。繊維製品を日光などの光による退色に対してどれだけの耐性をもっているかを等級で表したもの。耐光堅牢度は生地の素材や、使用する染料、色によって大きく異なるが、淡い色や鮮明な色ほど弱い傾向があるといわれている。
使い始めはノリが入ってて割と硬いですけど、これも使う内にほぐれてきます。大切に長く使っていただくことで、こういうアイテムって身に付ける人に合って来て、最終的にはその人だけのものになる。そんな風に使ってもらえたら嬉しいです。
履いて「育てる」文化のあるデニムに少し似ているかもしれません。でも水には弱いんで、雨とかは避けてもらったほうがいいですね。
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この紫陽花は10年以上前ですが、「藍染」に挑戦してみた時のサンプルです。
普段やっている草木染って、実はなかなか綺麗な青が出ないんですよ。出る植物もありますが、個人でやっているとどうしても素材が手に入らないことがありまして。それで青を求めて、藍染にトライしたという訳です。
しかし素材のシルク(動物繊維)には藍染だと色が入りにくくて、なかなか自分が求めているレベルの濃い青にはならないんです。なので、このコサージュだけは素材に綿を使っています。
用語解説:藍染
藍染とは植物染料「藍」を用いた染色技法。また、染められた布地そのものを藍染と呼ぶこともある。用いる植物は日本で主流のタデアイのほか、沖縄の琉球藍、インドではマメ科の木藍など、地域によっても異なる。これらから抽出される「インジゴチン」という色素を持つ染料を総称して「藍」と呼ぶ。
たまたまご縁があって、藍染めの元となる藍染料「蒅(すくも)」を藍染の本場である徳島の方からいただき、それを使って自分で藍を建ててみました。
藍染の世界で「建てる」とは、染液を作ることを言います。建てて染めるので、藍染は「建て染め」の一種ということになります。
「藍を建てる」というのも、実は手順がかなり多くて難しいので、材料があるからと言って、ネットで調べてすぐに自分でできるというものではありません。私は藍染の展示会に赴き、出展者の藍染職人さんに直談判をして教えていただきました。
少し脱線しましたが、基本的には草木染で色を付けたシルク生地を使用して、その生地にゼラチンのノリを入れていく、という流れになります。
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結構パリパリしています。あとすごく軽い。
ここからパターン(作るための設計図、型紙)ごとの形にカットしていき、再度湿気を入れて、コテを入れて形を作ります。
このコテの形状から用途が全く想像がつきません…どう使うんですか?
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例えば先ほどの紫陽花の花びらなんかは、1枚1枚丸く反っています。平たい生地に、こういう立体的な形を付ける時に使います。
私が使っているのは、電気ゴテではなくアルコールランプで熱して生地に押し当てるとてもオールドスタイルなコテです。コテ台側もある程度の柔らかさがあって、丸いコテを当てた時に生地がキレイに丸まるような素材になっています。
道具一式はこんな感じです。コサージュ作りの先生のお父さんが町工場の方で、生徒たちのために作ってくれた特注品。もう日本ではなかなか手に入らない道具ですね。
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アートフラワーのアーティストさんが使っているコテは電気ゴテが多く、形状も全円ではなくて半円のものが一般的です。本来のフランスにおけるオートクチュールで使っていたのはこの全円形。小さいものから大きいものまで約40種類ぐらいの道具があります。
花びら1枚1枚にある細かいシワはどうやってつけるんですか?
これはピンセットですね。
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ピンセット…?
かなり時間がかかりそうですね。
この白いバラのコサージュの花びらが、反り返っている形状もピンセットで1つ1つつけています。
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雄しべもかなり細かいです。
これはコサージュ用の「ペップ」と呼ばれる素材です。買ってきた時は白いので、これも染めてから使います。ペップの着色にはマニキュアを使ったりもしますね。
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1つ作るのにどのくらい時間がかかりますか?
どれだけ凝ったものかにもよりますが、1個で大体2~3週間くらい。ホントにゼロから、デザインの提案から始めて、シルクを欲しい色に染めて組み立てってなると1ヶ月くらいかかることもあります。
素材的にはシルクが一番ですか?
そうですね。綿を使うと、私としてはカジュアルに見えてしまうのでほぼ使いません。だけど、この頃シルクも段々と手に入りにくくなってるんです。特にベルベット。レーヨンのベルベットならギリ手に入りますけど。
用語解説:ベルベット
「ベルベット生地」とは、美しい光沢と表面に細かい毛羽が生えている生地です。美しいツヤのある生地で、高級感を演出してくれることから、セレブファッションや高級家具でよく取り扱われている生地です。パーティーや普段使いでも、シックな雰囲気を装いたい時には、ピッタリの素材です。
凄く質の良いものだとメートル3万円とかになっちゃうので、個人ではなかなか手を出しにくいですね。
「作る」技術、「染める」技術、「素材」と「花」。
組み合わせはもう無限にあるんですね。
私自身は全てにこだわりを持ちつつ、どっちつかずと言われればそうなるかもしれません。
「草木染」は日本の伝統技術ですし、コサージュ製作のテクニックはフランスの伝統技術です。しかもフランスの方では、コサージュの技術は衰退してきていて、作れる人がそもそもかなり少ないという話も聞きます。
先生からは主にテクニック的な部分を教わっていますが、そこではアルコール染料なのでこういった草木染はしておらず、自分の目指す色の深みを考えると、染める技術は自身で磨いていくしかありません。
やはりその日仏両方の伝統技術を掛け合わせて、そこに自分の「枯れた」作風を乗せていってやっていきたいというのが今後の目標になりますし、それに取り組む中で技術を残す一助になれるなら、とてもありがたいなと思います。
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(写真:若槇由紀)
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