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アウトローの星 Ⅱ

学生時代はそこまで親しくなかったが、社会人になり距離が縮まった友人がいる。過去のエッセイでも登場したちょいクズで、アウトローなUだ。
ここ数年で、なぜ急激に負のポテンシャルが爆発したのか不明だが、彼のちょいクズっぷりがしょぼくれていて、くすぐられる。
Uはとにかく飲む、食う、喋る。サービス精神が旺盛なのか、神経がいかれているのか、彼の暴飲暴食は豪快だ。日頃は奥さんから食事制限をかけられているため、単純にタガが外れただけのようにも見えるが、漫画のように酒や料理をかっ喰らう姿に野生を感じる。ベロベロに酔うと、喋る内容が支離滅裂になり理解するのに苦労するが、それでも僕は彼の言動に心を奪われるのだ。
飲み会に合わせてコンディションを調整し、解散の瞬間までピークを維持。酒が絡んだ時の彼は、途轍もない底力を発揮する。

「必死やな」
奥さんからの冷たく鋭い視線が、Uに突き刺さる。飲み会への執念に呆れているのだ。
「あいつがわしを待っとるんやっ!」
そこで俺の名前を出すな。と思ったが、少しだけ嬉しい気持ちもあった。冷静に考えると、酒が飲みたいだけのような気もするが、いつの間にか共犯関係にされている方が気になる。

「ラーメン吐いた」
飲んだ翌朝に必ずUから届くLINEだ。結局吐くのか。といつも思う。
そんなどうしようもないやつだが、健康のためにウォーキングをはじめたそうだ。歩く途中で居酒屋に立ち寄り、カウンターでビールを一気に飲み干す。これがたまらないとのこと。そして、串揚げを数本喰らってふらふらと陽気に歩く。脂肪を燃焼するどころか、逆に蓄えている。
奇妙な行動にしか見えないが、彼はウォーキングをはじめたつもりでいるのだから恐ろしい。効果については言うまでもない。
奇妙な行動の罰で、奥さんからの制裁がより厳しいものになった。それでも彼はめげずにわずかなグレーゾーンの隙間を狙い、こそこそと飲み食いを繰り返す。しかし、そのわずかなグレーゾーンも、真っ黒に塗りつぶされてしまうのだ。
「詰んだ〜。てへ」
奥さんから追い詰められ、がんじがらめになったUからの戯言だ。彼からのLINEを見返すと「吐いた」か「詰んだ」しかない。
“なぜ急激に負のポテンシャルが爆発したのか”
多分だが、元々そんなやつなんだと思う。

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