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安全とは何か

はじめに


"安全とは何か"と聞かれたらどのように答えますか?
明確に答えをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、大抵の人はフワッとしていると思います。
一方で、「安全第一」という言葉は誰もが知っている言葉です。安全は何よりも優先すべき事項であると言えます。ニュースなどで事故が報道される度にしばしば安全について議論になりますが、「安全」という言葉が曖昧にもかかわらず、安全第一という言葉が先行して議論が明後日の方向へ行くことも多いと思います。
ここでは機械の安全がどのような考えで安全に作られているのかということをベースに、安全とは何かについて分かりやすく説明したいと思います。

このテキストは初めて製品安全の設計に携わるエンジニアの方や、非エンジニアの方を対象に具体例を交えながら安全とはどういう状態なのかを分かりやすく説明してゆきたいと思います。

安全の定義

早速、安全な定義について説明します。
安全とはISO/IEC Guide 51:2014(日本ではJIS Z 8051:2015)の3.14を参照しますと「許容不可能なリスクがないこと。」と定義されています。
これは逆に言えば、許容可能なリスクがあると言うことになります。リスクが全くない状態を安全というわけではないということです。この辺りが、世間一般と感覚のずれる一つの要因なのだろうと思います。ISO/IEC Guide 51の適用範囲を確認しますと、工業製品に関わらず、人や環境なんかにも適用しても良いと書いてあります。世の中の大半の人はこの規格の存在自体を知らないと思いますが、基本的な安全な考え方として業界問わず共通の認識といえます。

許容可能なリスク

許容可能なリスクは3.15を参照します。"現在の社会の価値観に基づいて、与えられた状況下で、受け入れられるリスクのレベル"と書いてあります。
この価値観は変化するものでもあります。例えば、原発です。福島の原発事故以前は、原発事故のリスクについては許容されていたと言えます。事故発生以降、世間の価値観は変化して原発事故のリスクが許容不可となったと言えます。事故の前後でリスクが変化したわけではありませんが、許容可能なレベルではなくなったと言えます。

リスクとは何か

じゃあ一体リスクとは何か?という話になってきます。リスクは3.9を参照しますと、「危害の発生確率とその危害の度合いの組み合わせ。」とあります。
つまり、危害が大きくくても確率が低ければ許容できる。確率が高くても危害が低ければ許容できる。ということです。
例えば、飛行機に乗るということ。墜落すればまあ間違いなく死ぬでしょう。これは危害が大きいといえます。しかし、墜落する可能性自体はかなり低い。すなわち、飛行機に乗るといことはこのリスクを許容したということです。
冬に寒くてセーターを着ると、静電気怖いですよね。もう扉を開ける度にビクビクしちゃいますよね。でも、家の扉を全部自動ドアにはしませんしセーターは着ますよね(着ない人はしらん)
これは、静電気がただちょっと痛いだけで死ぬほどのことではないから頻繁に起きてもいいということです。
つまり、飛行機やセーターは定義に従えば安全だということになります。しかし、リスクがゼロなわけではありません。

危害の発生確率

危害の発生確率についてはさらに、
①ハザードへの暴露
②危険事象の発生
③危害の回避又は制限の可能性
の3つに分解されます。

先ほどの飛行機の例に例えると
①飛行機に乗る回数
②飛行機が墜落する確率
③飛行機が墜落した時に助かる可能性
というふうに分解することができます。
これが、危害の発生確率ということになります。

安全を確保するということ

安全の定義やリスクについてはここまででご理解いただけたのではないでしょうか。
次は、どうやって安全を確保してゆくのかという話になります。
これまでの説明を要約すると、安全な状態というのは、リスクを許容できるレベルまで下げた状態ということになります。ここためには、どんなリスクがあるのかをはっきりさせる必要があります。
このリスクを検討する方法として「リスクアセスメント」というものがあります。
リスクアセスメントはISO12100(JIS B 9700)を参照します。ここからは基本的に機械類の話になってゆきますので、世間一般にどこまで適用可能かはわかりません(知ってたらコメントで教えてください)
リスクアセスメントについてはそれだけで記事になりますので、割愛したいと思います。
飛行機の例に例えると、飛行機が墜落すること。それがどのくらいの被害でどのくらいの確率で起こるのかというのをここで決めることになります。また、飛行機を作る時のリスクや、乗り降りする時リスク等についても考えておかないといけません。乗り降りした時に階段をふみはずすとか、離陸時に歩いたらこけるとかそんなこともいちいち全部考えます。想像よりも、大変な作業です。考えるべきリスクについても、規格にまとめられています。
また、機会があればリスクアセスメントについてまとめたいと思います。

リスクアセスメントをした後は、リスク低減の方法を考えます。こちらもリスクアセスメントと同じく詳細は割愛してまたの機会にしたいのですが、リスクアセスメントの結果許容できないリスクがあれば対策をしてゆきます。
飛行機が墜落しても死なないように緊急脱出装置をつけるとか、そもそも墜落しないように陸を走るとか、なんかそんなことを考えたりします。対策は一つではないですが、対策には優先度がありますので注意が必要です。

安全を確保するためにはものすごい数のリスクの確認と対策が必要になるということだけ覚えておいていただければとおもいます。

最後に

安全ということについて、想像とは少し違ったのではないでしょうか。特に日本では安全=ゼロリスクという考えになりがちです。とくに、危害の確率が少しでもあれば危害のひどさだけで議論する傾向あるように思います。ですが、ゼロリスクということはほとんどありません。残ったリスクを許容できるということが安全です。確率についてもよくよく議論が必要です。
「死ぬこと以外かすり傷」という言葉があります。かすり傷は許容可能なリスクですよね。死ぬこと以外は許容可能なリスクとしている(死ぬ確率も低いとしている)。つまり、安全な生き方という事になります。
これがいい生き方かどうかはともかく、リスクを適切に把握して評価するということは大切だと思います。死ぬこと以外とまではいかなくてもいいですが、冷静になれば結構身の回りはリスクが溢れていますので、ある程度許容しながらうまく折り合いをつけて生きていくと楽になると思います。

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