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420 Mrs. GREEN APPLE「コロンブス」

はじめに

紅白にも出場している人気バンドである「Mrs. GREEN APPLE(ミセス・グリーン・アップル)」のMV(ミュージックビデオ)の配信が停止になっています。その原因は、MVの中での表現が差別的な内容を含んでいるというものでした。
ミセス・グリーン・アップルや彼らが創作する音楽が好きだという子どもたちも多く、今回の炎上がなぜ起きたのか疑問に感じているという話をここ数日耳にしました。そこで、今日の教育コラムは問題になっているMVの表現について少しお話してみたいと思います。

炎上している内容とその概要

ミセス・グリーン・アップルは、2013年に結成された日本のロックバンドです。当時高校2年生だったボーカルの大森さんを中心にバンドを結成し、2015年に人気曲「StaRt」を収録したミニ・アルバム「Variety」でメジャーデビューします。私個人としては、朝の情報番組かなにかでよく耳にした「ダンスホール」という曲が印象的です。
見てみると一言で言えば確かに、侵略者としての側面を前面に押し出した映像でした。どのシーンがどうのというよりも、ほとんど全てが差別的な意図で作られたものだと思われても仕方ないかもしれません。
楽曲の歌詞からは想像できませんでしたが、MVをみると差別的な印象を強く受けてしまうのです。問題の描写は、ニコニコと楽しそうにコロンブス・ナポレオン・ベートーヴェンの姿に扮した3人がある島にたどり着きます。
その島には、先住民が居ました。その先住民姿を類人猿というか猿の着ぐるみを来た人間にして表現しています。コロンブスという人物が行った植民地支配的な行動を先住民をかわいらしい着ぐるみの猿として描き、先住民に対して行った非道をそのサルに人力車を引かせたり、ピアノや乗馬、天文学を教えたりするという行動で表現したのだと想像することができます。

コカ・コーラは関係ない

コカ・コーラのCMに使われている新曲「コロンブス」ですが、曲や歌詞からは差別的な印象を私個人は感じませんでした。タイトルがコロンブスという点だけが奴隷商人の名前をなぜ使ったのかという印象を受けました。

今回の問題を受けて、コカ・コーラ社は次のような声明を発表しています。

「弊社では、事前にミュージックビデオの内容に関しては把握をしておりません。コカ・コーラ社はいかなる差別も容認しておりません。今回の事態を遺憾に受け止めております。これは、我々が大切にしている価値とは異なるものです」

まさに、この通りで、コカ・コーラのサマーキャンペーンのCMに「コロンブス」という新曲を用いていました。しかし、コカ・コーラがこのキャンペーンで制作したCMは、この楽曲を使用してはいるものの問題視されたMVとは全く別のコンセプトのものです。3人がジャンプしてコーラをつかむ程度の表現で、スーツを着ているような3人が出演しているだけです。
しかし、問題の差別的なMVはアーティストサイドで制作していたものです。この本人たちによる映像表現まで、コカ・コーラがその内容を把握して意見を言うなんてことはないでしょうし、ファンがいくら当該アーティストがコカ・コーラが好きで、頑張って作ったのに冷たいと愚痴をこぼそうとも、どうしようもないことです。

コロンブスという人物像をどのように学んでいるか

コロンブスの取り扱いは、最近の社会科の授業では縮小傾向にあります。教科書の記載もごくわずかです。現在と過去とで学校教育において、各世代の教師がどのレベルで情報をアップデートして伝えているかが実は重要な問題だと考えています。
近年のコロンブスという人間への評価には、ある種の負の側面を含めた見つめ直しすすめられています。
昔ながらに、1492年の新大陸の発見だけを強調して教育する方法が進められているとしたら今回のような表現が生じてしまう可能性があります。現在でもこの過去の歴史観に沿った教育が進められている可能性があります。しかし、今では同時代に多数いた探検家や征服者たちの一人という視点をもちながら、ヨーロッパによる中南米の征服や奴隷貿易、植民地支配のきっかけになった行いをした人物というコロンブスの行動を否定的な側面からも提示する必要があります。
西半球と東半球の間で産物の交流が盛んになった「コロンブス交換」の観点から取り上げることも重要ですが、先住民に対して、外来の侵略者や植民者がとった行いについても、コロンブスと結びつけなければいけないわけです。
ヨーロッパの人々によるアメリカ大陸への入植と植民地支配、とくに先住民の征服や虐殺を象徴する存在、それが、アメリカで1990年代ごろから進められてきたコロンブスへの歴史認識の見直しなのです。
「1492、コロンブス、新大陸発見」とだけ暗記型の歴史学習を進めてきた日本の教育の脆弱さがもしかすると今回の問題の本質にあるのかもしれません。

画像:ヤフーニュース

海外展開を狙っていける、または既にそうした考えを持っているアーティストであるのであれば、周囲のスタッフも含め、歴史認識など世界基準の教養を学ぶ姿勢をもち続けていくことが大切でしょう。
日本の教育、教養の現状を今回の問題は示しているのかもしれません。今回の映像について彼らが、釈明していることが真実だとすれば、やはり日本の教育の現在地をもう一度見つめ直す必要があるのでしょう。

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