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35 七冠(seven crowns)


はじめに

藤井聡太さんが先日、将棋の八大タイトルの中でも最も歴史の古い名人戦を制して、史上最年少で名人のタイトルを獲得しました。これにより、藤井名人は、7大タイトルを独占した棋士となりました。
七冠を達成した棋士と言えば、羽生善治さんですが、藤井さんは羽生さん以来の史上2人目の「七冠」達成となり、20歳でそれを成し遂げたことで、最年少記録も更新したことになります。今日は、そんな将棋の世界にあまり詳しくない人にも、藤井聡太さんの挑戦を通して、関心をもってもらえたらと思い、コラムにまとめることにしました。

将棋の8大タイトル

藤井聡太さんは現在、7つのタイトルを同時に保持しています。ですから現在、7つの冠(かんむり)をもっているという意味から藤井七冠と称されるわけです。タイトルとは、ほかのスポーツにも使われる言葉ですが、賞金が出る大会という意味が一般的にはあります。つまり企業などのスポンサーがついている大会とも言えます。
では、どのような名称のタイトルがあるのでしょうか、将棋のタイトルには序列があるとされています。いずれも名誉ある称号なわけですが、賞金額や歴史的な背景などが関係して次のように序列が決められています。
【将棋の八大タイトル】
①竜王(りゅうおう) ②名人(めいじん) ③王位(おうい) 
④叡王(えいおう) ⑤王座(おうざ) ⑥棋王(きおう)
⑦王将(おうしょう) ⑧棋聖(きせい)
の8つとなります。このタイトル名に戦がつくとタイトル戦の名称になるというしくみです。ちなみに藤井聡太さんは、17歳で初めて⑧の棋聖というタイトルを取りました。30年ぶりの最年少記録の更新となり、日本中の将棋ファンのみならず、多くの人々が注目したことは記憶に新しいのではないでしょうか。

前人未到の八冠へ

藤井聡太七冠は、本日6月5日からベトナムで、「棋聖」の防衛戦に臨んでいます。タイトル戦に挑戦しているのは、佐々木大地七段です。この対局は五番勝負となります。藤井七冠は、棋聖戦の後にも「王位」の防衛戦が控えています。勝ち続けて七冠を守り抜いた先にしか前人未到の八冠はないのです。新しくタイトル戦が加わってきているこれまでのタイトル戦の歴史もあり、未だに八冠を制した棋士はいません。
藤井聡太さんが最後にねらうのは、「王座」というタイトルになります。残された最後のタイトル王座を現在保持しているのは、永瀬拓矢(ながせたくや)王座です。王座に挑戦するためには、王座戦を勝ち進み、挑戦者にならなければなりません。そのうえで、王座である永瀬棋士を制しなければならないのです。この戦いには、王座経験のある羽生善治九段、渡辺明九段らが挑戦者決定トーナメントの本戦1回戦をすでに突破しています。

権威ではなく実力を示すものへ

将棋のタイトルの中で最も歴史の古いものと言えば、「名人」と呼ばれるものになります。名人位は、竜王位と並んで将棋界の頂点とされています。江戸時代以来、1935年頃までは将棋の名人は世襲制(せしゅうせい)でした。世襲制とは、血縁などを根拠に代々継いでいくものですが、この名人の世襲は血縁が絶対ではない形でのものではありましたが、家元制や推挙制をとっていました。
それを、「短期実力制」によって名人を選ぶ方法へと変わっていったのです。継承される権威という姿から、実力で勝ち取るタイトルという姿へと変わったのです。これは、まさに伝統の在り方が劇的に姿を変容させた瞬間でした。このことで、将棋への関心が高まっただけではなく棋力を磨く棋士たちの向上心へも大きな影響を及ぼしましたのです。この影響は、囲碁の世界にも影響を及ぼしました。一世名人制が廃止され、本因坊(ほんいんぼう)という将棋で言う名人にあたるタイトル戦がはじまりました。これも実力制のシステムが導入されたものであります。

温故知新

藤井名人が名人戦を終えて、色紙にある言葉を記しました。その言葉は、「温故知新(おんこちしん)」という言葉でした。藤井聡太さんが破った渡辺名人が記した言葉も温故知新でした。これは、藤井さんの前任の名人への尊敬の念を感じる瞬間でもありました。また、藤井名人は「歴史的な過去の棋譜を学ぶということを大切にしていきたい」とも語っています。
温故知新とは、昔の事をたずね求めて、そこから新しい知識・見解を導くことですが、この言葉を記したことからも、藤井七冠が常に前を向いて歩もうとしていることが見てとれます。
こうした向上心には、棋士の世界が名人戦という実力制を導入して成しえた歴史的転換により、生み出されている好循環が影響しているのではないでしょうか。歴史は今もまさに新たな一ページを生み出しています。過去を学ぶのは新たな一歩を踏み出す糧とするためだということを改めて、藤井聡太さんの挑戦から学ぶことができるように思います。

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