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103 「さいち」のおはぎ


はじめに

今日の教育コラムでは、お盆にご先祖様にお供えしたり、家族で食べたりする「おはぎ」について少しお話ししたいと思います。
「おはぎ」をお盆に食べる風習には意味があります。それは、あんこに使われている小豆の赤色には「魔除」の意味合いがあること、餅米に「五穀豊穣」の祈りが込められているというものです。
そんな「おはぎ」の中でも私が忘れられないおはぎが一つあります。それが「さいち」という小さなスーパーのおはぎです。

秋保温泉にて

宮城県仙台市から車で30分ほどの場所に秋保温泉(あきうおんせん)と呼ばれる場所があります。
奥州三名湯の一つとして有名です。因みに、奥州三名湯のなかで最も歴史が古い温泉が、飯坂温泉です。ここはとても歴史が古く、縄文時代にまで歴史をさかのぼります。他に、宮城県に秋保温泉、鳴子温泉があります。
私が、昔立ち寄ったのは、その一つの秋保温泉でした。出張先での仕事を終えて、夕方に仙台市の役場を離れ、しばらく車を走らせた先にある日帰り温泉でした。公衆浴場だったと思います。
すごくいいお湯で、一日の疲れがすっかりとれたことをよく覚えています。コンビニで買った新しいパンツとTシャツに着替えただけでも、気もちがさわやかになりました。スーツをケースにしまい、車に積んでおいた短パンに着替えて頭にタオルを巻き、コーヒー牛乳を飲み一休みし、楽しみにしていた牛タン屋さんを目指して車を走らせようとしたときのことです。

一人のおばあちゃん

来るときに見かけた、スーパーで少し飲み物を買いクーラーボックスに入れておき、帰りの車中で冷たい飲み物でも飲もうと考え、車を移動させました。スーパーの駐車場に車を停めたところで、一人のおばあさんが私に話しかけてくれました。
「山梨」ナンバーの私の車を見て、「山梨から来たの?」と声をかけてくれたその方は、山梨県の勝沼のご出身とのことでした。私は、地元は長野ですが、山梨での暮らしもだいぶ長くなっていましたので、ふとした奇遇にとてもうれしく思いました。
勤めていた学校の話をすると、よく知っているとのことでした。話し終えると、おばあさんは買い物袋を押し車に乗せて、ゆっくりと駐車場の向こうへ歩いて行かれました。

スーパーを出てしばらくしたら

買い物を終えて、車を2分ほど走らせた頃、先ほどお話をしたおばあさんが、歩道のわきで一生懸命、品物を拾っていました。どうやら、押し車から荷物が落ちてしまい、道のわきで押し車の収納スペースに詰め替えていたようです。
車のハザードをつけて、道のわきに停車させお手伝いするとおばあさんは、少し足を打ったようで痛そうにしていました。私は、名刺を差し出し怪しいものではないことを伝え、お家まで送らせていただくことにしました。私も心配なまま帰りたくなかったので、自分のためにもそうしたかったのです。
おばあさんは、申し入れを聞き入れてくださり、自宅まで案内してもらいながら運転をしました。
ご自宅の前でおばあさんをおろし、押し車を後部座席からおろしていると一足早く家に入ったおばあさんが、お孫さんを連れて玄関先に戻ってこられました。

「さいち」のおはぎ

おばあさんは、押し車の収納スペースから先ほどのスーパーで買ったばかりの商品を取り出し、その中から「おはぎ」を私にと1パック渡してくれました。お孫さんが話すには、「さいちのおはぎ」は、とても有名らしく、買うのが大変なほど人気だということでした。私は、おばあさんが苦労して買ったものを頂けないと話すとおばあさんは、「いいから、いいから」と笑顔で私の手を握って手渡してくれました。
ありがたく頂戴し、牛タンの予定を「おはぎ」に変更し、帰途に就きました。途中のサービスエリアでお茶を買い、大きなおはぎが2つ入ったパックを開き、おばあちゃんに感謝していただきました。
あんこが格別においしく、これでもかとまとっているあんこなのに最後まで飽きずに食べられる「おはぎ」でした。土地には土地のうまいものがあると言いますが、まさか、温泉街の小さなスーパーにこんなにもおいしいものが眠っていたとはと感動すら覚えました。
それ以来、様々な地域に立ち寄ると私は必ずその地域ならではのスーパーに立ち寄るようにしています。しかも、何か美味しいものがあるのではという思いで、特にお総菜コーナーは念入りに見るようにしています。
そのおかげで、これまでに新潟では「原信」、岩手では「ベルプラス」、宮城では「ウジエスーバー」、秋田では「イトク」、山形「ヤマザワ」、福島「ヨークベニマル」、鳥取では「マルゴウ」などなど、たくさんの特色ある地域密着のスーパーに出会うことができました。
おばあちゃんがくれたあの「おはぎ」からすべてが始まっているような気がします。

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