403 モラトリアムの重要性
はじめに
今日の教育コラムでは、モラトリアムという言葉や考え方についてお話してみたいと思います。
モラトリアムとは、「一定の猶予期間」といった意味で用いる言葉です。金融の分野では、支払い猶予などという意味があります。また、心理学の分野でも使われることが多いようにも思いまが、学術的な言葉としてエリクソンが提唱した発達心理学の言葉として有名です。
エリクソン
エリク・H・エリクソンは、ドイツに生まれの心理学者でアメリカで活躍した方です。ジークムント・フロイトの弟子で、発達心理学・精神分析の研究をもともとはしていた人です。また、青年向けに心理療法などもおこなっていました。 よく私たちが使う「アイデンティティ」という言葉を生みだしたのもエリクソンだと言われています。
エリクソンが提唱したものに、8つの発達段階があります。これが世に有名な「心理社会的発達理論」です。8つの段階とは「乳児期」「幼児前期」「幼児後期」「学童期」「青年期」「成人期」「壮年期」「老年期」の8つで、一般的には発達にはこのような段階があるという考え方です。
教育の現場におけるモラトリアム
エリクソンが述べていることを簡単に言えば、人間は生涯を通じて発達していくものであるということになります。
この発達の段階において、青年期から成人期に移行するときがあります。青年期とは14歳くらいから24歳くらいまでの10年くらいとしましょう。特にこの段階では、多くの異なる場面や状況において、自分とは何者か、自分は何になりたいのかについて考える時期だと言えます。これが、アイデンティティの確立というものです。自我同一性の確立とも言います。
この場面、つまり青年期で少なからず誰しもが自分が何者かが分からず悩むことになります。これが、役割の拡散・混乱などというものです。
この青年期を経て、成人期になると自分の職場や家庭など現実的な役割を担い、責任を負うようになっていくわけです。つまり、大学を卒業して社会に出ていく頃には、アイデンティティを確立し社会的な責任を担っていくわけです。
この、青年期と成人期の間に大人の領域に踏み込めずにうろうろしている状態があり、その過程でアイデンティティを確立し、社会的責任を担う準備をしていくのです。
モラトリアムの重要性
モラトリアム症候群という言葉が少し前から一般的になってきていますが、これは、社会に出て大人として振る舞うことに対して抵抗を覚える状態を指します。
近い言葉にピーターパン症候群という言葉があります。成人になっても子どものような精神的・感情的特性を保持する人々を指します。大人になることへの危機を感じながら引きこもったり、ニートになったりする人もいます。
村上春樹の「ノルウェイの森」を読んだことのある人はこの作品は、まさに青年が自分が何者であるかを知るために、旅をしている物語であり、それこそがまさにモラトリアムだということに気づくはずです。
自分を探す時期にどのように探すかを自分自身、つまり我が子にどのようにさせるかを考えて臨むことは重要です。もしかすると高校への進学や大学への進学そのものが、多くの子どもたちにとって、モラトリアムな時期を安心して過ごすための重要な行為なのかもしれません。