見出し画像

【「はじめに」公開】安斎 勇樹 著 『問いかけの作法 チームの魅力と才能を引き出す技術』

 チームの主体性と創造性を発揮したい、すべてのマネージャー必携!
 
日本の人事部「HRアワード2021」書籍部門の最優秀賞に選出され、ベストセラーとなった『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』の著者、安斎 勇樹による最新作『問いかけの作法:チームの魅力と才能を引き出す技術』が発売になります。
 このnoteでは、書籍の冒頭部分「はじめに」を公開いたします。


はじめに チームは問いかけから作られる

◎誰も意見を述べない「お通夜ミーティング」

「さあ、この企画に何か意見はありませんか?」
「どんどんアイデアを提案してください!」
「今日は自由に話し合いましょう!」

 どこか集中力のない表情のプロジェクトメンバーたちは、あなたから目を逸らし、互いに発言権を譲り合うように、一向に口を開きません。

「遠慮なく意見していただいてかまいませんよ」
「どなたか、いかがでしょうか?」

 あなたの呼びかけは虚しく、期待していた「画期的な提案」はおろか、誰も「自分の意見」さえ述べない、お通夜のような状況です。

 もっと自分の頭で考えて欲しい。
 主体的に話し合いに参加して、自分の意見を述べて欲しい。
 自分の役割を考え、チームに貢献して欲しい。

 多くのリーダーがチームに対して抱くこのような「期待」は、多くの場合、思う通りには叶いません。

 そこであなたは仕方がなく、この期待を口に出し、チームメンバーに指示を出したり、じかにお願いしたりすることによって、直接的な「要求」をしてみることにします。

「もう社会人なのだから、主体的に自分の意見を発言してくださいよ」
「良いアイデアじゃなくてもよいので、最低ひとつはアイデアを出せませんか?」

 しかしながら、あなたは肩を落とすことになるでしょう。それでも他人は、あなたの要求通りには動いてくれないからです。

「意見と言われても……。特にありません。賛成です」
「すみません、次までに考えておきます」

 打っても響かない相手に業を煮やしたあなたは、部下を呼び出し、その受動的な態度に不満を表明し、叱責したくなるかもしれません。どうしてやらないのか。なぜできないのか。やる気があるのか。
 あるいは相手が同僚や上司であれば、友人や家族に愚痴をこぼすことで、その直接ぶつけられない感情を発散したくなるかもしれません。

 そうしているうちに、とうとうあなたは変わらない現状を受け入れ、「周囲に頼るよりも、自分でやったほうが早い」という結論に、辿りついてしまうでしょう。
 当初のチームへの「期待」は、いつしか「失望」へと変わっていくのです。

◎魅力的な場に変えるために「問いかけ」の質を変える

これは、多くのチームで発生している「孤軍奮闘の悪循環」と呼ばれる展開です。
お互いに誰も期待していないチームから、良いパフォーマンスが生まれるはずがありませんから、一度このサイクルに陥ると、チームの主体性と創造性はどんどん下がっていきます。皮肉なことに、優秀でモチベーションの高い人ほど、このサイクルによってチームのポテンシャルを抑制し、そしてチームから孤立していくのです。

 本書を手にとったあなたが思い描く理想は、孤立無援に「自分が頑張る」世界ではなく、仲間と力を合わせて「チームで成果を出す」世界であるはずです。あなたがチームの仲間に期待するものは、あなたに対する「同調」でも「謝罪」でもなく、その人らしさ、すなわちチームメンバーの個性あふれる才能の発揮であるはずです。

 では、あなたがこの悪循環に陥らずに、チームと職場を魅力的な場に変えるためには、どうすればよいのでしょうか。
 その答えはただひとつ。
 周囲に投げかける「問いかけ」の質を変えることなのです。


魅力と才能を引き出す「問いかけ」の技術

 場面を冒頭の「お通夜ミーティング」に戻しましょう。
 もし、あなたの呼びかけが、以下のような「問いかけ」であったならば、いかがでしょうか。

「この企画案、どこかひとつだけ変えるとしたら、どこでしょうか?」
もし自分がお客さんだったとしたら、この案に100点満点で何点をつけますか?」
「いきなり良いアイデアを考えるのは難しいですよね。まずはいま頭の中にパッと浮かんだことがあれば、なんでもよいので教えてくれませんか?」

 これらは実際に、私が「お通夜ミーティング」の司会進行をするときに、頻繁に活用しているテクニックです。具体的には、本書で詳しく解説する「問いかけ」の技術のうち、「仮定法」「パラフレイズ」「足場かけ」と呼ばれるテクニックを使っています。

 このようなちょっとした「問いかけ」の工夫を加えるだけで、話し合いの空気は、ガラリと変わります。

 特に意見はないと口を閉ざしていたはずのメンバーたちが、次第に、
「企画の中身はよいと思うのですが、キャッチコピーの表現が気になります」
「もし自分がお客さんだったら、85点です。こういう要素が加わったら、+5点になるかもしれません」
など、自分の意見を表明してくれるようになるのです。

 このような、工夫された「良い問いかけ」を繰り返していると、ミーティングを重ねるごとに、チームメンバーは自分の個性、すなわち「こだわり」を発揮することに喜びを感じるようになっていきます。

 あなた自身も、「なるほど、そういう意見もあるのか」「この視点は参考になるな」と、メンバーの発言から気づきがもらえるでしょう。眠っていたチームのポテンシャル(潜在能力)が発揮され、「自分の仲間たちにはこんな才能があったのか」と、驚かされる場面を何度も経験するはずです。

 そのような強固に信頼しあったチームから、良い成果が生まれないはずがありません。このような成功体験を繰り返すことで、あなたのチームに対する期待はさらに高まり、信頼感へと変わるでしょう。このようにしてよりよいチームワークを発揮する好循環が生まれるのです。

あらゆる場面で必要な「問いかけ」の効用

 問いかけが必要な場面は、なにもミーティングの進行や、部下とのコミュニケーション場面だけとは限りません。同僚や後輩、あなたの上司、また家族や友人とのコミュニケーションの場面においても有効です。あなたが共にする「他者」の思考と感情は、あなたが日々発する問いかけの質に、少なからず影響を受けているからです。
 また、これまで説得や交渉の相手だと思っていた取引先の相手とも、問いかけをうまく使えば、同じゴールを目指す「仲間」として、協力関係を築くことも可能です。

 これからの時代、仕事は「自力」ではなく、「他力」を引き出せなくては、うまくいきません。問いかけの技術を駆使することによって、周囲の人々の魅力と才能を引き出し、一人では生み出せないパフォーマンスを生み出すこと。これが、現代の最も必要なスキルのひとつなのです。

 周囲の才能を引き出してばかりでは、他の人が評価され、自分の評価は埋もれてしまうのでは? そう心配に思う人もいるかもしれません。
 しかし、それは「逆」です。むしろ、自分だけのスキルと業績にしか関心がない人よりも、問いかけをうまく使って他者の力を引き出せるほうが、これからは高く評価されるようになっていきます。

 世間に目を向けてみても、アイドルのプロデューサー、スポーツチームの監督、バラエティ番組の司会、ビジネスコーチや編集者など、「自分が答えを出す」のではなく、うまく他者に問いかけることによって、「他人の才能を引き出す」ことができる人が、ますます表舞台で注目されるようになってきています。

 あなたひとりの実績を磨くよりも、「問いかけ」によるチームの力を高めていったほうが、結果として「あの人と一緒に働くと、気持ちよく仕事ができる」「あの人のチームだと、良い成果が出せる」「あの人のもとでは、次々に良い人材が育っている」といった「あなた自身の評価」へとつながり、活躍の場も広がっていくのです。

 何より、一人で孤独に努力を重ねるよりも、他者の才能を活かしながら働くほうが、圧倒的に仕事が楽しくなるはずです。

吃音の子どもを覚醒させた、奇跡の問いかけ

 実は私自身、チームのなかで自分の意見を述べたり、アイデアを提案したりすることが、とても苦手でした。振り返ると、学校の授業中に先生から突然名指しされ、うまく答えられなかった経験から、心の準備ができていないうちに「どう思う?」と意見を求められることに、トラウマと呼べるほど、アレルギーを持っていました。

 ミーティングで意見やアイデアを尋ねられても、「何か良いことを発言しなければ」とプレッシャーを感じてしまい、かえって頭が真っ白になってしまいます。結果として、気の利いたコメントもできず、「面白いですね」「良いと思います」などと、無難なリアクション。
 そしてそういう日に限って、家に帰ってシャワーを浴びているころに、突然良いアイデアが思い浮かぶものです「あの時に言えていれば」と、後悔することも少なくありませんでした。

 逆にいえば、これは「自分の発想力が低い」ことが原因ではないのではないか。シャワーを浴びているときと同じように、プレッシャーを感じず、リラックスできる状況であれば、きっと自分でも良いアイデアを思いつき、チームに提案することができるのに……。そんなふうに、悔しい想いをしていました。

 私は大学生のころ、無闇に生徒にプレッシャーを与える学校教育に問題意識を持っており、もっと自由にのびのびと才能が発揮できる学びのあり方を模索した結果、「ワークショップ」と呼ばれる学習スタイルに関心を持ち、実践していました。

 私が開催するワークショップには、中学受験に失敗してしまい自信を失った子や、不登校の子どもなど、さまざまな子どもたちが通ってくれていました。
 そのなかに、「吃音」の特性を持った小学5年生のA君がいました。A君はグループワークになると、他の子どもたちとの自己紹介タイムで必ず言葉がつっかえてしまい、うまく話せない。一言も発さないままでも、なぜか、毎回のワークショップに参加してくれている。そんな状況が半年ほど続いていました。

 そんなある日、たまたまあるワークショップで、私が「あなたが小さい頃に夢中になっていた遊びはなんですか?」と、問いかけたときのことです。その問いかけが、何かA君のスイッチを入れたのでしょう。A君は堰を切ったように自分が気に入っていた遊びについて流暢に解説してくれ、周囲を驚かせたのです。その後、A君は別人のようにアイデアを次々に提案し、大人が驚くような作品を生み出したことを、今でも昨日のことのように覚えています。

 それ以来、私は「誰しもが心の中に魅力と才能を秘めており、それが必ずしもすべては発揮できていない。ちょっとした環境の要因によって、ポテンシャルが抑圧されているのではないか」と考えるようになりました。

 その問題意識から、私は大学院に進学し、「学習環境デザイン」という領域を専攻しながら、「問いかけ」の技術と効果について、認知科学的な実証研究を繰り返しました。それから10年以上研究を継続し、前著『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』に、「問い」の重要性と設計技法について、体系的にまとめました。日本の人事部「HRアワード2021」書籍部門の最優秀賞に選出されるなど、ベストセラーとなりました。

 現在は、東京大学大学院情報学環で特任助教として研究を継続しながら、株式会社MIMIGURI(ミミグリ)という会社の代表を務め、大企業からスタートアップまで、さまざまな組織の創造性を引き出すお手伝いをしています。

本書の構成

 本書『問いかけの作法:チームの魅力と才能を引き出す技術』は、私のこれまでの研究と実践の成果を、チームのミーティングにおける「問いかけ」に落とし込んだ実践書です。ミーティングには、集団で話し合うチームミーティングだけでなく、1対1の面談形式で行われる1on1(※)も含みます。

「問いかけが重要なのはわかったけど、質問を考えるのが苦手だ」という人も、少なくないでしょう。しかしながら、問いかけは人間力やセンスではなく、一定のルールとメカニズムによって説明できる、誰にでも習得可能なスキルです。問いかけに必要な要素と工程を分解し、誰にでも実践可能なプロセスに落とし込んだ理論が、本書で提案する「問いかけの作法」のモデルなのです。

 もちろん、本書を「ただ読む」だけでは、チームの魅力と才能を引き出せるようにはなりません。本書の理論は、現場で実践を繰り返すことで、より理解が深まる内容になっています。

 急いで読み終えようとせずに、1章ずつ、あるいは1項ずつ読み進めながら「本書を読み進める」「実際のミーティングで実践してみる」「手応えを振り返る」という試行錯誤を何度も繰り返すことで、本書の知があなたの身体にじわじわと染み込み、技術が磨かれていく実感が得られるはずです。

※1on1:上司と部下で定期的に実施される一対一の面談のこと。

目次

Part I 基本編
第1章 チームの問題はなぜ起きるのか
1-1 ファクトリー型からワークショップ型へ
1-2 ファクトリー型のチームが陥る現代病
1-3 ワークショップ型でチームのポテンシャルを発揮する
第2章 問いかけのメカニズムとルール
2-1 問いかけのメカニズム
2-2 意見を引き出す問いかけの基本定石
2-3 問いかけのサイクルモデル

Part II 実践編
第3章 問いかけの作法① 見立てる
3-1 観察の簡易チェックリスト
3-2 見立ての精度を高める三角形モデル
第4章 問いかけの作法② 組み立てる
4-1 質問の組み立て方
4-2 質問の精度をあげる「フカボリ」と「ユサブリ」
4-3 複数の質問を組み合わせる
第5章 問いかけの作法③ 投げかける
5-1 注意をひく技術
5-2 レトリックで質問を引き立てる
5-3 問いかけのアフターフォロー

著者について

安斎勇樹 あんざい・ゆうき
株式会社MIMIGURI代表取締役Co-CEO
東京大学大学院 情報学環 特任助教

1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。研究と実践を架橋させながら、人と組織の創造性を高めるファシリテーションの方法論について研究している。ファシリテーションを総合的に学ぶためのウェブメディア「CULTIBASE」編集長を務める。
主な著書に『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』(共著・学芸出版社)『リサーチ・ドリブン・イノベーション 「問い」を起点にアイデアを探究する』(共著・翔泳社)『ワークショップデザイン論―創ることで学ぶ』(共著・慶応義塾大学出版会)等。


書籍のご注文はこちらから

Amazonでは、書籍、電子書籍、オーディオブックのご注文が可能です。

楽天ブックスはこちらから
https://books.rakuten.co.jp/rb/16959719/


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?