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【ソロ活動市場の拡大】独身男性がもっともお金をかけていること

2040年には、独身者が人口の5割になり、既婚者(64歳まで)は3割になる─。
この衝撃的な数字を見て、みなさんはどのように感じたでしょうか。
これからの日本は「一人で生きる」ことが当たり前の社会になる、という予測をテーマに据えて、独身研究の第一人者・荒川和久さんと気鋭の脳科学者・中野信子さんに対談をしていただきました。
その内容をまとめた12月18日発売の『「一人で生きる」が当たり前になる社会』より、第1章「「ソロ社会」化する日本」を無料公開いたします。

家族市場の衰退、「ソロ活市場」の拡大

荒川:
結婚は経済活動であり、それゆえ市場でも大きな存在感を持っていました。市場でいうと、今までの高度経済成長期のスーパーマーケットを支えていたのは主婦、次の図10でいうと「ノンソロ」、いわゆる「家族市場」です。

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これは、家族の財布はお母さんが握っているということ。つまり一家の主婦が家族全員の買い物を仕切る家族市場というものが全体の4割を占めていたんです。ですから、今までは夫婦や家族が経済を回していたといえるでしょう。
ただし、今後は人口の4割、5割が独身になる。もうすでに4割です。もともと独身の人(エセソロ&ガチソロ)たちがモノを買う「独身市場」が存在していますが、「本当は一人で行動したいんだけどな」というカゲソロの人たちの市場も含めた「ソロ活市場」がものすごく大きくなっているんです。
この図10のように、「独身市場」と、既婚・未婚の状態に関係なく一人で消費をする「ソロ活市場」の2つが生まれてきています。「家族市場」はさっきも言ったように、6:4くらいにシュリンク(縮小)していくんだろうと考えられますね。
次の図11は、「ソロ活が増えた」ことを示しています。

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いわゆる「一人で行けるもん!」ですね。一人で出かける人の割合を見ると、意外に水族館や動物園など、女性のほうが一人で出かけていることがわかりますね。一人で旅行に行くのもけっこう女性が多い。
先日、テレビを見ていて思ったのが、男はおじさんになると国内旅行に行きたがる。海外ではなく、国内旅行に一人で行きたがる。

中野: 
お疲れなんでしょうね……(笑)。

荒川: 
男性が一人で出かけるのは温泉とフェス。音楽フェスとかライブって、昔は友だちどうしで行ったものですが、今は一人で行く人が増えています。なぜならば、音楽の趣味が合わない友だちと行っても気を使うだけで楽しめないからです。フェスやライブなら、行った先には趣味が合うやつしか集まっていないから、そこで友だちになればいい。

中野: 
非常に合理的ですよね。

ソロ男の外食費は、一家族分の外食費の2倍近い!

荒川:
ソロ活市場の話と関連しますが、単身男性の消費傾向を調べたところ、図12を見てわかるように圧倒的に食費が高いんですよ。

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37〜38ページでもふれましたが、家計調査の結果、単身女性は家賃に、単身男性は食にお金をつぎ込むことが判明しています。

中野: 
それは、食べる量が多いからお金がかかるということでしょうか? 
私は若い男性の食の傾向を正確には把握していませんが、周囲の学生さんなどの姿を見ていると、量が多くて味がはっきりしているものを好む印象がありますね。いわゆる「質より量」というイメージ。
一方で、女性の好みは、見た目がおしゃれとかオーガニックフードのような割高感のあるものに偏っていて、お金がかかるという印象があるんですよね。

荒川: 
そういう意味でいうと、量をたくさん食べているというよりも費目の違いですね。
やっぱり、男は外食が多いのでお金がかかります。

中野: 
なるほど、自炊しないんですね。

荒川: 
はい。自炊している男性もいるでしょうが、やはり圧倒的に外食が多いです。独身男性の外食費は、実は一家族分の倍ぐらいかかっています。実額ですよ、率(%)じゃなくて。

中野: 
エンゲル係数が高いんですね。

荒川: 
そうです、ほぼ3割です。だから、外食費はかかっていますね。家計調査だと全部平均化されてしまうから、肉や魚を買っている独身男性もいるように見えますが、なかには100%外食の人もいるでしょう。
僕らが若い頃は、車や女性(恋愛)にお金を使っていた人が多いイメージでしたが、今は、特に都会に住む若者は「車離れ」で免許も取らない人が多いですね。

中野:
すると、女性(恋愛)にお金を使うということ?
でも、恋人がいない男女が増えているという話も聞きました。

荒川: 
いわゆる若者の「恋愛離れ」ですね。なんでもかんでも「若者の○○離れ」と言われがちですが、実はそうでもないんですよ。恋愛については、第4章の「恋愛強者3割の法則」のところでお話ししましょう。

中野: 
となると、彼らは課金ゲームにお金を使っているんですか?

荒川: 
でも全体費目としては、趣味娯楽費ってそんなに上がっていないんです。むしろ少しずつ下がっています。全体の支出自体はそんなに変わっていないんですが、とにかく唯一、上がっているのが食費ですよ。
先ほどの図12でいうと、①の棒グラフは34歳以下の独身男性、②は35歳以上59歳以下の独身男性。③は34歳以下の独身女性、④は35歳以上59歳以下の独身女性です。

中野: 
この図12では、家族の支出を100としてあるんですね。

荒川: 
はい。外食にいたっては34歳以下の独身男性はもうほぼ家族の2倍近く、お金を使っていますね。あと、35歳以上の独身男性は酒も飲料も、弁当とかおにぎりとかの調理食品も、実額で家族以上に消費しているんですよ。これはパーセンテージではないので、一家族分より多く、外食費にお金を使っているということなんです。

中野: 
一家族分より多く……。すごいですね。

荒川:
当然ながら、自炊する人は少ないので魚介類や肉類、野菜などは買わないですが。
ちなみに、34歳以下の独身女性も一家族分より多く外食にお金を使っています。ただ、女性に比べて、男性はやっぱり圧倒的に酒と飲み物と調理食品にお金を使っている。逆に言うと、コンビニを支えているのは独身男性なんですよ。

中野: 
この一番左の費目、「消費支出」というのは全体ということですよね。全体に占める外食の比率がきわめて高いですね。

荒川:
そうです。あと、家族は学校や習い事といった教育費がかさみます。独身の人は0円ですが。家族と独身とでは消費する費目がまったく違うんです。
外食が多い独身男性ですが、彼らはどこで外食しているのか─基本的に立ち食いそばとか、チェーン店とか、牛丼屋とか。ラーメン屋もやたら多いですね。大戸屋、やよい軒といった定食屋を支えているのはソロ男ですよね。やよい軒は白米がおかわりできるとか、そういうところがけっこう大事です。

中野: 
若い男性にとっては重要な要素ですよね。

荒川: 
そうなんですよ。最近は牛丼屋に一人で入るのは嫌だという女性は減りましたが、昔は牛丼屋のカウンターには男ばかりガーッと並んでいましたね。

中野: 
これまでの日本では、男性の食事に関しては、独身時代は外食、結婚後は妻が担うというスタイルでした─特に古い価値観の家庭では。
でも、今は手軽にチェーン店で安くてそれなりに美味しく食べられるんだから外食でいい、食事の利便性のために結婚しなくてもいい、となりますよね。

荒川: 
そうですね。逆に、結婚したら独身時代に外食につぎ込んでいた金額の半分は節約できる、と考えることもできます。

中野: 
でも、それよりも独身を選んでいるということですよね。興味深い傾向です。男性の食事の世話をしてあげるような女性も減っているわけですね。女性としても、自分は男のために料理をつくるような人生を送りたくないわ、というスタンス。

荒川:
そうです。これはやっぱり独身の女性、しかも40代、50代の未婚女性が増えてきていることと関係があるでしょう。

中野: 
独身女性の数、増えていますね。

荒川: 
これはあとで話しますが、やっぱり「女性の男性化」も一つの大きなテーマですよね。というより、今までの「女性は一人で立ち食いそばなんて食べない」というようなステレオタイプ・価値観が変わってきています。別に恥ずかしくないという女性もたくさんいますからね。

中野: 
私も全然恥ずかしくないですよ。


今回で『「一人で生きる」が当たり前になる社会』第1章「「ソロ社会」化する日本」の無料公開は終了です。続きは書籍でお楽しみください。


著者紹介

荒川和久
独身研究家/マーケティングディレクター。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。韓国、台湾などでも翻訳本が出版されるなど、海外からも注目を集めている。著書に『結婚しない男たち―増え続ける未婚男性「ソロ男」のリアル』(ディスカヴァー携書)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会―「独身大国・日本」の衝撃』(PHP新書)など。

中野信子
1975年、東京都生まれ。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学工学部応用化学科卒業。同大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務後、帰国。現在、東日本国際大学教授。著書に『ペルソナ』(講談社現代新書)、『サイコパス』(文春新書)、『キレる!』(小学館新書)、『悪の脳科学』(集英社新書)、『空気を読む脳』(講談社+α新書)ほか。
テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。

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