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書店員さんの選書 vol.1 CHIENOWA BOOK STORE 伊藤さんが選ぶ、「3巻以下で読める漫画10選」

こんにちは。ディスカヴァーで電子書籍を担当している西川と申します。コロナウイルスの拡大に伴い、主に電子書籍での施策がたくさん立ち上がり、それ自体はとてもいい試みだなと思う反面、書店さんや紙の本のために何かできないか? という問題意識を持っていました。その一環で、書店さんおススメの本を紹介させてもらえませんか? とお声がけしたところ、複数の書店員さんが参加してくださいました。本選びのプロフェッショナル、書店員さんが選ぶ本、気になりませんか?

第1弾は、埼玉県朝霞市にある CHIENOWA BOOK STOREさんです。

はじめに

はじめまして。CHIENOWA BOOK STORE スタッフ 伊藤楽と申します。
コロナウイルスが流行っていて、皆様が暇を持て余しているかもしれない。だから皆様に、書店員として心からお勧めできる本を紹介しよう! と思った…わけではございません。自分の好きな本をお勧めできる、こんなチャンスを逃す理由はないと思いこの企画に立候補した次第でございます。

とは言ったものの、鬼滅の刃以外にも書店には面白い本があるということをさらに周知したいと考えていたのも事実。まだまだ書店員としての経験が浅い私ですが、心から面白いと思う本を選びました。ぜひ探して読んでいただけたらと思います。
テーマは「3巻以下で読める名作漫画10選」です。キングダムとワンピースで本棚が圧迫されてしまっている方もご安心ください。スペースも時間も必要とせず、お財布にも優しい、でもしっかりと面白い漫画を10作ご紹介します。


『カプチーノ』(菊池まりこ 作 KADOKAWA)

「私があなたを幸せにするってんで!!そこんとこよろしくお願いします!!」

まず最初にご紹介するのは、ド直球ラブコメの隠れた名作、『カプチーノ』でございます。ステップアップ↑LOVEコメディーという名乗りにふさわしい、主人公カップルの成長があまりにキュンキュンさせてくれる作品です。
見どころは序盤と終盤での人物のキャラの変わり方です! 最初は緊張して想いを伝えられなくても、関係が進めばできるようになる。最初はカッコ悪いところを見られたくなくても、いつの間にか素の自分でいられるようになる。最初は成り行きで付き合うことになった二人が、ぶつかりながらもちょっとずつお互いのことをわかっていく。そんな様子を愛でたい方、必読です!


『子供はわかってあげない』(田島列島 作 講談社)

「…それは 俺が… これから 証明していきます」

マンガ大賞2015で2位、2020年に実写映画公開も決定。多くの漫画ファンたちをうならせた名作のご紹介です。この漫画に派手さは全くありません。しかし、読めば読むほどに味わい深くなっていく、ひと夏のちょっぴりハードボイルドなボーイ・ミーツ・ガール。何度も読み返してしまう独特のセリフ回しや、淡々と進むからこそ染み込んでくる彼らの成長が大人にならざるを得なかった大人たちに刺さるでしょう。
思えばあの季節に、自分は大人になることを決めたんだった。そんな思い出がある方におすすめです。


『ちーちゃんはちょっと足りない』(阿部共美 作 秋田書店)

「2人だけの秘密だよ」

大人になるタイミングっていつなんでしょうか。人間は生まれながらにして平等じゃないって気づいてしまった時でしょうか。前二作と打って変わって、ダークな作品のご紹介です。中学二年生で気づいてしまったこの世の真理。それは、人間は生まれたときから平等じゃなくて、しかも自分は下層の人間だということ。
底辺は底辺同士で仲良く依存して生きていくしかないじゃん。自分の立ち位置を知れるくらいには大人だけど、それで納得できるほど子供でもなくて、でも何にもできないっていうのも事実だし、この最低な世界で一番最低なのは私だよね。
そんなことを考えてしまう方。この本に書いてあるのは、あなたのことです。


『外天楼』(石黒正数 作 講談社)

「お前さん 生まれはどこだい?」

講談社が誇るミステリ雑誌、メフィストに連載されたこちらの作品。作者は『それでも町は廻っている』『天国大魔境』の石黒正教先生です。ミステリなので当然なのですが、ネタバレ厳禁なのでおススメするのが本当に難しい!! 石黒先生お得意の、コント的シチュエーションで繰り広げられる漫才のようなセリフに笑っていたかと思いきや、話はいつの間にか生命倫理に踏み込む本格SFの表情を見せてきます。
読み始めはまとまりのない短編集だと思うかもしれません。しかし、すべての要素が伏線として立ち上がり、最後に見せるのは圧巻のラストです。何も言わずに最後まで読んでください。絶対に後悔はさせません。


『さよならタマちゃん』(武田一義 作 講談社)

「命の代わりに失くしたものは たいして重要なものじゃない」

漫画アシスタントの作者は、35歳で精巣腫瘍になり、抗がん剤治療を受けることに。これはその治療の過程を描いたエッセイ漫画です。僕も祖母が抗がん剤治療をしていたのですが、祖母はこんなに大変なことをやっていたのか、思わされました。
作者が描くのは、抗がん剤治療そのものの肉体的苦痛だけでなく、それに負けてしまい妻に当たってしまう自分に対する自己嫌悪。しかし作者はそれと付き合っていくことをあきらめません。だからこそ家族の愛情を確認できるし、同室の人たちから大切なことをおしえてもらったりします。人、家族、生きること。私たちが普段まじめに考えることのない、でも誰もが避けて通れない問題に向き合える作品です。


『星明かりグラフィクス』(山本和音 作 エンターブレイン)

「考えたうえで私を選んだんならいいさ でも違う!私に“逃げて”来たんだろ!?変化が怖いから傷つきたくないから そんなの不健康だよ!戦うことを選べよ!君は勝てる側の人間なんだ 私と違って!」

美大という才能がぶつかり合う空間で、一人の天才と一人の凡才が自分の才能にケジメをつけるまでの物語です。凡才は凡才らしく、天才の足を引っ張ってはいけない。天才は天才として、凡才になど構わず進まなくてはいけない。この漫画にあるのは幻想ではありません。そのリアルさに圧倒されます。
この物語が問いかけるのは、凡才は天才になりたかったが、天才は果たして天才になりたかったのか? 彼らはその才能を望んだのか? ということです。天才が自ら自分の才能を潰そうとしているときに、凡才ができることとは何なのか。それは彼らの背中を押してやることかもしれません。それには厳しい言葉が必要になることもあるでしょう。最初に引用したセリフのように。


『映画大好きポンポさん』(杉谷庄吾【人間プラモ】 作 メディアファクトリー)

「迷いは一切ない そう…… 見たのねジーン君 物語の光を 創作の煌めきを!!」

映画産業が栄える架空の町、ニャリウッド。その町を舞台に描かれるのは、映画という娯楽の魅力に魅せられてしまったシネアスト達の仕事です。伝説の映画プロデューサーの孫にして、その人脈、財力、才能すべてを引き継いだ銀幕の申し子、ポンポさん。彼女は、自らの審美眼の言うままに映画を作ります。撮影所の若きアシスタント、ジーンにいきなり監督をやらせたり、「ピン」が来たという理由で全く無名の女優を主演に抜擢したりします。しかも共演には、もてる限りのコネを使い伝説級の大スターを起用したりとやりたい放題。そんな彼女のもとに集った筋金入りのシネフィル達は、たった一つのシーンのために映画を撮ります。彼らはいったいなぜそこまでの情熱をもって仕事をしているのか? すべてはそう、創作の煌きのため。自分には映画しかない、自分の生きる場所はここにしかない。そう信じた人間たちの熱い熱いお仕事漫画です。


『【プリズムの咲く庭】海島千本短編集』 (海島千本 作 新潮社)

「どこに行くの?」

連続してストーリーが面白い漫画を紹介しましたので、絵が美しい作品集を。漫画とは、絵で描く物語ですから。
twitterのフォロワー数21万のイラストレーター、海島千本さん(@Kaisen_Tobiuo)の作品集です。とにかく筆致が美しい! 万年筆で描いたかのような温かみのある線が描くファンタジーの世界は、日本の漫画の一つの到達点ではないかと思います。この漫画の美しさに、子供は目を輝かせ大人はたまらずうっとりします。ひとまずは作者さんのtwitterをチェック! そしてその絵の美しさに魅了されてしまったのならぜひ、お買い求めください。



『我らコンタクティ』 (森田るい 作 講談社)

「…カナエちゃん 絶対一緒に打ち上げよう」

宇宙にロケットを飛ばして、宇宙空間でずっと映画を上映したい―――
ひた向きに、たとえそれが意味のないことでも、ロマンに一途に生きる人ってなんて素敵なんでしょう。自分が子供のころに観た映画を、UFOに観せたい。その思いだけで、主人公たちは町工場からロケットを自作、テラリウムによる永久機関を搭載して、宇宙に映画を飛ばします。いるかもしれない宇宙人が、いつかこの映画を観るかもしれない。かもしれないばかりだけれど、それでもやりたい。だからやる。夢とロマンを積んで、感動へ向けて進む物語です。


『世界の終わりと夜明け前』(浅野いにお 作 小学館)

「―――――まるで、世界の終わりみたいだ。」

なんだか世界が大変みたいで、本当にこの世は終わっちまうんじゃないかって思わせる毎日です。この原稿だって休みの日に書いてるし、十本に絞るのも大変なのに文字数削りでさらに大変。少ない文字でいかに読みたい! と思ってもらうかの大変さにヒィヒィ言って、あーやっぱ引き受けなきゃよかったわ、とか思いながらここまで書いています。あの頃なりたかった自分にはなれなかったし、コロナウイルスとか言ってるけど明日も明後日も来年もきっと同じような毎日が続いてくんだろうなって思ってしまう。そう考えると終わりのない終わりの上に立ってるような気がして気が滅入ります。でも自分の周りをじっくり見てみると今日はいい日だなっていう日が確実にあって、どうせ世界が終わるなら、こんな日に終わってほしいものだとか思ったり。そんな『世界が終わってほしい日』を集めた短編集です。

もうすぐ夜が明けそうです。世界が終わってしまってもも文句無しの朝です。初めてこうやって文章を書きました。大変だったけど、書いて良かったと思います。
もしこの記事を読んで読みたい漫画が生まれたら、ぜひ読んでみてください。お店のtwitterもありますので、そちらに感想を送っていただけたら嬉しいです。ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。


CHIENOWA BOOK STORE 伊藤様、素敵なブックガイドをいただきありがとうございました! 漫画のセレクトがストーリーになっているようで、私も読みたくなりました。気になる作品との出会いのきっかけになれば幸いです。

そして、CHIENOWA BOOK STOREさん、オリジナルグッズがあったり、会員制サービスなども展開されている面白い書店さんです。お近くにお越しの際はぜひお立ち寄りください。

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