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スラム街のインフラ:電気編【ファベーラ滞在記】

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このシリーズについて

このマガジンは、ファベーラ(ブラジルのスラム街)の滞在記です。スラム街と聞くとこわい場所のようですが、そうではなく、普通の人が普通に暮らすまち。その面白さを毎回一話完結でご紹介します。

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ファベーラの電力事情

どこも同じですが、今年は電気代がずいぶん高くなりました。ブラジルでも2022年の一般家庭の電気代は20%以上の値上がりになったとのこと。ファベーラの人たちの暮らしにはどんな影響があったのでしょうか。

そもそも、ファベーラの電力供給は、その大半が「gato(猫)」と呼ばれる違法な送電網によるものだと言われています。

近所で撮影した「猫」。大量の電線が絡まっている。

この写真を見たら、配線が正規の電力業者によって行われたわけではないとすぐに分かりますね。パターンは色々らしく、カビネイロ(Cabineiro)と呼ばれるファベーラの技術者が電力会社に無断で配線することも、こうした技術者が電力会社にコミッションをもらっている場合ももあるそう。

確かなのは、ファベーラにおいて、電力というものがインフォーマルな仕組みだということ。「猫」のような違法配線は電力の過剰使用をもたらし、リオデジャネイロなどでは街全体の停電につながっているといいます。違法配線は停電時の復旧作業にも時間がかかるし、大雨の時なんかにも簡単に停電します。

電気代についても、僕のいたファベーラでは、そもそも支払っていない(勝手に電力を使っている)と話す人が多かったように思います。

少し前ですが、この状況を許すまじと、リオデジャネイロのあるファベーラでは電力会社が「猫」を一掃してしまったそうです。

もちろん、電気をフリーライド(ただ乗り)で使っている以上、撤去されても仕方ないという考え方もあります。一方で、メーターをつけて料金が徴収されるようになると、電気が使えなくなったり経済的に困窮したりする人が多いのもまた、ファベーラという貧しい人が多く住む場所の特殊さです。

電気を無断で使うことがはたして窃盗なのか、それとも生活のために必要な分配正義なのか。最近では、電気も生活に必要なインフラなのだから、すべての国民が安心して使えることを目指すべきではないか、という考え方もあるようです。

ファベーラの電力事情をめぐる議論は、ブラジルという国がこうした人びとにどう向き合っていくのかという態度の問題でもあるようです。

(おわり)

参考文献


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