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『物語の欠片』のカケラの裏話(とりあえず)最終回

橘鶫さんの大長編『物語の欠片』のキャラクターのイメージ画のご依頼を受け、9月から始まった第十一篇『朱鷺色の黎明篇』に挿絵として掲載していただいてきましたが、昨日とうとう最終話を迎えました。
私のほうではキャラクターを二人ずつくらいで絵の制作裏話を続けてきましたが、すべての絵が挿絵として登場したので、こちらも最終回となります。

では大取りとなった二人について書いていきたいと思います。今回も作品のほうは鶫さんの物語のリンクを載せますので、ぜひそちらでご覧ください。


レンとカリン

今までは一人ずつ語らせていただいていましたが、今回は何かと二人について同時に語ったほうがまとまりそうなので「レンとカリン」と題して進めていきます。

『物語の欠片』の読者の方にはあえて書くまでもないことですが、この鶫さんの物語はカリンとレンのダブル主人公で、主にこの二人の視点でストーリーが展開していきます。

物語の第六篇『天色の風篇』と今回の『朱鷺色の黎明篇』は普段は脇役の面々の視点で描かれていますが、やはりシメはいつもの主人公たちにバトンが返されました。

主人公ですから、この二人を描かないということはありえない、とお話をいただいた時から思っていたのですが、当初この二人はツーショットで一枚に収めようと思っていました。
というのも、物語を読み始めて一カ月ほどたったころ(私が『物語の欠片』を読み始めたのは今年の1月下旬、鶫さんがnoteで物語をつづり始めてから既に一年くらいたっていました)ふと「こんな大長編だったら、誰かがファンアートとかやってそうだよね?でも著者ご本人も絵を描く方だし、そんな勇気ある人はいないか」と思ったことがあったのです。
その時、最初に思い浮かんだのが主人公二人のツーショット。

その後こんなことを思ったということはすっかり忘れていて、まさかその半年後に自分がその「勇気ある人」になるとは思ってもみなかったのですが…。

しかし描きはじめてみると、「この二人はそれぞれに独立して面白いキャラクターなのに、一緒くたにしてしまうのはもったいない」と思いはじめました。

レンはマカニ族で自らの藍色の翼にもこだわりがあるので、スグリ同様、まず画面に全身が入るくらいで飛んでいる姿を描きました。

困ったことに、その姿はちょっと堕天使か小悪魔を連想させないでもない雰囲気。

なぜなら彼は濃い藍色の翼に黒髪。
それを背面から描いて顔だけ振り向かせるようにしたのですが、どうもこのレンは納得いかない。何かが違う。

それでも鶫さんにはお見せしたのですが、鶫さんからのお返事は

「目の色、こだわらせてください。」

そうでした。
かなり引いた構図だったので、目の色は独立して着色されておらず、目の淵と同じ色で描きこまれていました。
しかし彼の目は緑。伴侶であるカリンが大好きな目だからか、物語でも何度か言及されています。

鶫さんに「青緑っぽい緑」と改めて教えていただき、目の色がしっかり塗り込めるように腰から上の構図にして描き直しました。

それが今回挿絵として使っていただいた絵なのですが、実は今回描いた中で一番納得いっていない一枚です。

「イメージ画」の域を超えてキャラを描いてしまっている。
レンの顔を「固定」してしまっている感じがご依頼内容からずれてしまっていると思うのです。

彼は戦士なのだからこれくらいキリっとした表情でもいいのかな、と思いつつ、一見「影」の部分のなさそうな、素直で明るいレンは私が(絵を描く上で)苦手なキャラクターだと言えるかもしれません。
レンのもっと観念的な、彼の内面を掘り下げるような絵をいつかもう一度描いてみたいと思っています。

ここであえて言及しておきたいのですが、スグリやレンの、マカニ族の翼のある姿を描くのに迷いがなかったわけではありません。

いまだ物語の中では構造が明らかにされていないマカニ族の人工翼。

物語を読み始めた当初は、翼に腕通しがついていて腕を動かしながらバサバサ飛ぶのかな、と思ったのですが、読み進むうちに分かったのは、どうも飛んでいるときに両の手は自由らしいということ。

ではリュックサックみたいにしょっているのかな?
しかし、スグリに翼を「しょわせる」ごとく革紐なんかを描くのはとても抵抗があり、結果、天使のように、あたかも背中に生えているかのように描いてみました。

実はマカニの翼の構造については常に想像(妄想)をふくらませているのですよ。
マカニ族は翼をもつ年齢になると背中の血管に磁石のような機能が発達して翼を付けているのだ、とかね…。

翼の大きさに関しては、鶫さんの設定では私の描いたものよりずっと大きい、とのお話をいただいたので、いろいろ次の絵の構図が頭の中で飛び交っているところです。

エンジュの全身を描いていたら、やはり族長ですからね、閉じた状態で踝くらいまである大きな貫禄のある翼を描いていた気がしますが。

そしてレンとのツーショットを諦めて、一人になったカリン。
ツーショットで考えていたのは、レンの翼に守られるかのように翼に囲まれているカリンだったのですが「守られている」状態をカリンのイメージ画として仕上げるのはかなり抵抗があります。

頭脳明晰、武術も心得ていて、何でも一人でこなす多才なカリンは放っておいたらどこまでも自力で突っ走ってしまう。

突っ走る…じゃ、馬に乗ってるところでも描こうかな?
でも彼女の特徴って、「馬に乗れる」だけじゃないもんなぁ。

ラフスケッチを繰り返し、迷ったあげく私は何をしたかと言いますと…
考えるのをやめました。

カリンは本当に作戦ゼロで取り組んだ絵です。

先に何も決めずに筆を手に取りました。

そして、出来上がった絵を見て初めて「そうだった、カリンは大地の化身だった」と思ったんです。

頭で絵の構図を考えていた時は「賢くて優しくて美しい女性カリン」に気を取られていて、彼女の能力である「大地を癒す力」をすっかり忘れていたのです。

愛読者としてそんなことがあるのか、と後で自分で呆れてしまいましたが。

ところが考えずに描きだしたら、出てきた。

これはカリン(もしくは主様…?)に「描かされた」としか思えない。
既に物語で指定されているカリンのアグィーラ人としての銀髪もグレーの瞳も無視して彼女の癒しの力の象徴である新緑を連想させる緑と木の幹の深茶色を基本色として描かれた、まさに力を使っているところのカリン。

自分でも狐につままれたような感じで仕上がった絵をお見せしたところ、鶫さんのお返事は

「鳥肌立ちました。私の中のカリンそのものです。」

良かったぁ、私なんぞはしょせん頭を使ってはいけないのだ、などと自虐的なことを思ってしまった体験でした。

今回、最後の二話で物語の主人公であるカリンとレンの絵が連続して掲載されたわけですが、特にレンのほうはファンが多そうなイメージで、愛読者の皆様に「これはレンじゃない!」とお叱りを受けたらどうしよう、とコメント欄でつぶやいたら、鶫さんのお返事は「特にレンが好き、という意見は聞かない」とのこと。

そこで思ったのですが。

カリンとレンはいわば『物語の欠片』の代名詞。
『物語の欠片』が好きイコールカリンとレンが好き。カリンとレンが好き、は当然のことであって、いちいち言及しなくてもいいんだ、と。
私もあえて「カリンとレンが好き」なんて思ったことがないような気がします。
「好きか嫌いか」とかそういった次元ではなくて、読者にとってカリンとレンは「見守るべき存在・愛情を注ぐべき存在」なのかな、と思います。
私だって、いくら「スグリ推してます!」と言ったところで、カリンの代わりにスグリが出続けたら「すみませんっ!カリンどうしてますかっ!」と問い合わせをしてしまうと思います。笑


何だか語り足りないうえに言葉足らずで意図したことが伝わっていない気がして心配ですが、以上『物語の欠片』のカケラの裏話第四弾でした。

ここまでお付き合いくださった皆様、本当にありがとうございました。

そしてこのような素晴らしい機会を与えてくださった橘鶫さんに、この場を借りて改めて御礼申し上げます。
今回のご依頼で「物語からのイメージでキャラクターを描く」という試みを経て、私の中で「自分が絵を描くことで本当にやりたいこと」の形が更なる発展を遂げたように思います。
大げさに聞こえるかもしれませんが。
そのくらい、私にとっては『物語の欠片』のカケラになれたこと、大事件だったのであります。

ところで今回のタイトル、「(とりあえず)最終回」とさせていただきましたが、既にちょこちょこ鶫さんにコラボ第二弾を匂わせるコメントをいただいていますので、図々しくもこれから先もカケラの裏話を書く機会があるのではなかろうかという願いを込めて…。


今日の一枚。
「読みきれんかったから、借りてくわ!」と昨夜は寝落ちしたアオサギ氏。思いっきり借りパクの予感。


イメージ画のご依頼をいただいた経緯や画材のお話などはこちら↓


豆氏のスイーツ探求の旅費に当てます。