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【注目新刊】2023年4月上旬

自然科学

『増えるものたちの進化生物学』ちくまプリマー新書

著者の前作『協力と裏切りの生命進化史』が面白かったので、
書店で実物を手にとってみて、内容がかぶっていないようなら、購入したいと思っています。

『心理学をつくった実験30』ちくま新書

自然科学の到達点、見出された法則についての出来上がった話を読んだり聞いたりする。
そんな学校の理系科目の授業のようなものは、面白くなくて無味乾燥で、何より頭に入って来ないものです。
それよりは、科学史から科学の話に入るようにしています。
科学者が試行錯誤して、今とは別の仮説をたてて検証したり、偶然にも成功の手がかりをつかんだという物語は、記憶にも残りやすいものです。

また、発見や実験の過程を知らずに結果だけ聞いても、その話が本当かどうかはわからないものです。
それは、統計の取り方によって、統計の結果が科学的にまったく間違った結論を示すのと同じです。
世間で流通しているようなマユツバな心理学の話と、学術的な心理学とはどう違うのかなという関心からも、本書が気になっています。

政治思想・社会思想

酒井隆史『賢人と奴隷とバカ』

『自由論 現在性の系譜学』の著者として、近年ではデヴィッド・グレーバーの『負債論』や『ブルジット・ジョブ』の翻訳者としても知られる著者の新著。
ここ10年で発表されたエッセイ集とのこと。

人目を引く題名と表紙デザインですが、魯迅「賢人と馬鹿と奴隷」が元ネタとなっています。
どのような話かというと…

『生活について様々な不満を持っている奴隷がいました。
その不満について奴隷が賢人に相談すると、賢人はおおいに同情して奴隷になぐさめの言葉をかけます。何の根拠もなく、「きっといまによくなる」と。
不満の元が何ひとつ解消されたわけではないのですが、奴隷は気が楽になりました。

『また別の日、この奴隷は別の人にまた同じように愚痴りました。しかし、今度の相手はなんと馬鹿でした。
この馬鹿は不満の元を解消する直接的な行動を起こそうとします。
この行動のせいで主人に怒られることを恐れた奴隷は、仲間の奴隷とともに馬鹿の行動をやめさせ、馬鹿を追い払います。
そして、奴隷は馬鹿を追い払ったことを主人にほめてもらいました。

『この出来事の後、奴隷がふたたび賢人に会う機会がありました。
奴隷は主人にほめられたことを報告します。賢人が「きっといまによくなる」と言ったのは本当だった、と。その様子は希望に満ちていました』

という内容の話です。

この寓話から何を読み取るのか。
社会問題を批判しても具体的な行動に出ない賢人=学者に問題を見るか、
不満を抱こうと実は現状にしがみつく奴隷に問題を見るか、
奴隷の不満を解消するために、馬鹿が取るべきだった別のアプローチを考え出す必要を見るか…
他にも色々な読み方がありそうです。

反原発、反ヘイトスピーチ、反ワクチン・反マスク、ポリティカル・コレクトネスやコンプライアンス…
ポピュリズムやポスト=トゥルースを取り上げた本書で、著者である酒井隆史さんは、この寓話と現状をどのように結びつけるのでしょうか。

『主権者を疑うー統治の主役は誰なのか?』ちくま新書

そもそも「主権」とは何なのか。
本書はこの概念の由来と展開について追っています。

ときどき、古代ギリシア・ローマの著作の翻訳書や解説書の中で、「主権」という言葉を使用しているものが見られます。
しかし、それは、政治思想史の学術的な水準でいえば、不適切な訳語の選択です。
ましてや、政治を批判する意見や有権者に呼びかけるために安易に使われている言葉より、ずっと深くて重い言葉です。
単なる「最上位の支配権」のような意味合い以上のものを含んでいます。

16世紀フランスの政治思想家ボダンによって、「主権」という概念が、特殊な意味合いを帯びて登場したのです。
その特殊な意味合いとは何か、なぜそのような特殊な概念を用いようと思ったのか。
ホッブズをはじめとする後の人々は、それをどう受け継ぎ、どう手を加えていったのか。

人々の生活や意見が多様化しすぎて、単数形での「国民」を見出すことが不可能としか思えない時代で、
本書を傍らにして「主権」について復習しながら、色々と思いを巡らせてみたいと思っています。

『政治権力の民主的正当性と合法性 シュミットとヘラー』

主権について考えるとき、近代以降で必ず登場するのが政治思想家カール・シュミットです。

ワイマール共和国でナチスが政権を掌握する少し前の話。
とあるクーデターが起きます。
ドイツ国(ライヒ)の首相パーペンが、大統領の緊急事態条項にもとづいて、プロイセン州政府の全権を掌握、州政府の閣僚を罷免した事件です。
そのクーデターの是非について、プロイセンとライヒ(地方政府と中央政府)の間で裁判が行われます。
この時、実際の裁判所でパーペン(ライヒ)側の弁護をしたのが、政治思想家カール・シュミットでした。

本書は、このクーデターとカール・シュミットの言説を取り扱っています。
著者のスタンスは、目次や紹介文から察するに、基本的にはシュミットの論敵ヘラーに親和的で、シュミットに厳しいように思われます。

たしかに、自由民主主義国家の法治主義の前提、法学的思考ではヘラーが正しいように思われます。
その一方で、法学の次元をこえた政治学の次元で考えると、本当にそうなのかなとも思えてしまうのです。

法という万人に対する一般性を基準にした統治すら、政治のひとつの手法です。
ワイマール共和国の時代は、その手法で上手くいく条件が満たされているような空間だったのか。
法だけでは対応不可能な情勢ではなかったか。
では、法学という枠内で対応すべき条件とは何か。
その条件を満たさないとき、どのような手法が正しいのか。

このことについてどう考えるにせよ、政治思想が大学内の空論ではなく、現実の事件と絡んだ稀有な出来事について知ることができる本書は一読の価値がありそうです。

アダム・スミス『国富論』

経済学の父アダム・スミスの主著『国富論』の翻訳の文庫化です。
経済関連の翻訳を多数手掛けた訳者によるものだけあって、読みやすさでは定評があります。

思想

ボーヴォワール『第二の性』

先月に引き続き、ボーヴォワールの主著の第2巻の部分が2分冊で刊行です。


中級者向け概説書

今回は中級者向けの概説書が複数出版されています。
書店で実物を見て、自分の知識レベルに合うかどうかで購入するかどうか決めて行こうと思っています。

◯『批評理論を学ぶ人のために』

◯『ポップカルチャー批評の理論ー現代思想とカルチュラル・スタディーズ』

◯『カンギレム『正常と異常』を読む』

◯『ジャック・デリダ『差延』を読む』

◯『はじまりのバタイユ』

エッセイ

『孤独のレッスン』集英社インターナショナル新書

文学者や作家、総勢17名が孤独をテーマに語ったエッセイ集。
個人的には、荒木飛呂彦先生が著者に含まれているのが購入の決め手です。

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