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リアルと昭和人情の絶妙なハイブリッド マンガ 『解体屋ゲン』 感想

マンガ『解体屋(こわしや)ゲン』という作品を紹介したい。爆破解体に惚れ込んだゲンという男を主人公にしたお話。建物を建てるのではなく、「解体」する人たちにフォーカスをあてた、めずらしいマンガだ。

現在(24年2月27日)において最新刊は104巻という、超長寿マンガでもある。だが、ビビらずにまずは10巻くらい買ってほしい。なぜなら、今Kindleで超絶お得なセールをやっているから。

10巻までなら、33円で購入できる。10冊買っても通常のコミックス1冊分の値段にもならない。まずは10巻、モノは試しで買ってみてほしい。基本的には1話完結、長くても4話~5話くらいで完結する話が多いので、気軽に読み始めてもらって構わない。


実際、自分はこのマンガをすごく気軽に楽しんでいる。疲れた時にパッと開けるマンガとして重宝している。こう書くと、何だかハードルの低い、つまりクオリティの低い作品じゃないかと思われてしまいそうだけども、そうではない。

どの話も「外れ」がない。不快になるような結末もない。ストーリーのツッコミどころも少ない。だから、すごく安心して見られるのだ。


根幹は昔風の人間ドラマ

絵柄からわかる通り、今作品は「古き良き」な作風ではある。主人公のゲンさんは、熱い男という呼び名がピッタリな熱血漢。少し手荒なことになっても、自分の身に危険が起きようとも、やろうと思ったことはとことんやり抜くし、義理がたく、決して他人を見捨てない。

そしてその彼の周りにいる人も、「いい人」が多い。ゲンさんの仲間たちはもちろん、周りの一般人もシンプルにいい人だなと思う。

もちろん、明らかな悪いやつも出てくるが、そういうキャラは大体はゲンさんがしっかりと制裁を加えてくれる。昔のマンガにありがちな、少し無茶な展開もあるが、それで悪を討ち、弱きを助ける展開になるから、そこまで不満はたまらない。

ここだけ切り取ると、絵柄通りの作風だなと思う。実際、こうした部分がこの作品の大きな魅力で、先述した安心感につながる。最後は大団円で、ワッハッハで終わるだろうと、気軽に読むことができる。


しっかりと頭を使う

しかし、今作品は昔の作品にありがちなガバガバ展開というのは、ほとんどない。物語の主役であるゲンさんは、パワー系な見た目だが、実はゴリゴリにインテリだ。ここが、他の「古き良き」を売りにしている人情系とは違うところである。

爆破解体なんてのは、当然物理学やら何やら、緻密な計算の上に成立するもの。しかもゲンさんは、海外に爆破解体の修行に行っているほどのプロフェッショナル。そんな彼が、爆破解体に挑戦するときに、気合と根性でどうにかするわけがない。

きちんと論理に裏付けされた解決策で、状況を打開し、物語を決着させる。事故現場の救助シーンや悪役退治の場面なんかはパワープレイになることもあるが、物語の本筋である爆破解体シーンでは、決して雑なオチにはしない。


この合理的なストーリーが、自分はすごく好きだ。こうした昔の匂いがする作品は、「何だその解決策は…」とツッコミを入れてしまうような展開が多いが、少なくとも今作品はそう感じたことが(ギャグシーンとかを除いて)ほとんどない。

先述した「古き良き」な熱血人情シーンと、理論に裏付けされた合理的なストーリーの、このバランスが素晴らしいのだ。この作品でしか味わえない安定感がある。


時代錯誤なく、進歩し続ける価値観

昔っぽい作品でよくあるのが、「さすがにこれは引くわ…」みたいな強い主張が入ることだ。『美味しんぼ』なんかがその代表例だろう。

一方で、今作品はそうした「げんなり」するような描写はない。たまにゲンさんが若者や時代と反発することがあっても、しっかりと対話して、ダメなところは訂正し、よいところは受け入れて、互いに成長する。

しかも、今作品はサザエさん時空ではなく、作中の人物もしっかりと年齢を重ねていく。ゲンさんも家庭を持ち、子供が生まれ、パパとして働く立場に変わっていく。会社も大きくなり、自営業でやってたころのような自由はなくなっていく。時代も少しずつ現代の価値観に近づいていく。

そんな作中でも、現実でも、進んでいく時間にしっかりとゲンさんは適応している。まだ20巻後半くらいしか読んでいないのだが、進みゆく時代に、ゲンさんがどう対応していくのか。それがこの作品の1つの楽しみでもある。


暇なときに気軽に読み始めることができ、短い時間で感動できる、そんな名作マンガだと思う。33円なので、騙されたと思って、10巻まで買って読んでみてほしい。いつの間にかゲンさんの魅力に惚れ込んで、ズルズルと購入してしまっているだろう。






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