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ガルクラ最終話感想 バンドとしてのはじまりの瞬間

アニメ『ガールズバンドクライ』について感想記事になる。最終話までの結末を含めて感想を書いたので、ネタバレが多分に含まれる。未視聴の方は注意。

2話まで視聴した際の、ネタバレがほとんどない感想記事についてはこちら。自分の感じたガルクラ序盤の魅力をギュッと書き記せた記事だと思うので、こちらも読んでいただけると嬉しい。


以下、ネタバレあり。








丁寧なはじまりの物語

最終話、最後のライブシーン。その曲はこんなセリフと共に始まる。

私たちの…はじまりの目撃者になってください!

まさに、このセリフがこの13話のアニメを象徴する一言だったと思っている。「トゲナシトゲアリ」というバンドが結成され、ここから始まっていく。そんな、バンドが始まる瞬間。それを丁寧に13話をかけて描かれた作品だったと思う。

「実際にバンドが結成された瞬間」は、もう少し手前だ。メンバーが全員揃い、「トゲナシトゲアリ」という名前が誕生したのは7話での滋賀県でのライブ。事実だけで考えるなら、トゲナシトゲアリというバンドはこの時点で始まったことになるのだろう。でも、仁菜がいった「はじまり」とはそうしたWikipeiaに書かれるような沿革のことではなく。

1つのバンドとして、バンドメンバー全員が納得して、自分たちの進むべき道を決めた。「トゲナシトゲアリ」というバンドが、どういうバンドなのか、はっきりと決まったのが13話のあの瞬間だったと思う。


彼女たちが下した決断は、メジャー事務所を脱退し、インディーズとして活動し続けること。そのキッカケとなったダイダスとの対バンも、脱退するという判断も、全ては仁菜が決めたことだった。

作曲をしている桃香ではなく。仁菜の決断によって決まる。そしてそれを、メンバーは自然と受け入れる。とんでもない好条件の事務所を脱退するという、一大事件をメンバーは笑って、受け入れる。

すばる「でもまぁ、なんとなく想像していた気がする。最初から、こうなるって…」
桃香「コイツ(仁菜)だもんな」
すばる「うん、ニーナだもん!」

13話より

この決断の是非はともかく、バンドメンバーたちがその結論に納得するその様子に、視聴者は不思議と違和感を持つことはなかったと思う。このバンドって、こんなバンドだよなって。そう自然と思わせる描写を、13話かけて丁寧に描いてきた作品だったと。見終わった今、そう思う。


ブレなかったコンセプト

ネタバレなしの記事にも書いたのだが、このアニメが他のバンドアニメと大きく違うなと自分が感じたのは、「バンドってめんどうくさい」という部分に目を背けずキチンと描いたことだと思う。

本作品のバンド「トゲナシトゲアリ」は同じ高校の軽音部で結成したわけでも、昔からの顔馴染みで結成したバンドでもない。様々な年齢、背景を持った少女たちが結成したバンド。だからこそ、彼女たちは何度も衝突し、言い争う。

みんなで仲良く放課後にお茶をしながら、超絶クオリティな演奏をぶちかますなんて、そんな夢物語は存在しない。そう視聴者に叩きつけてくれた作品だったと思う。ほんわかしがちなバンドアニメの世界観に馴染めていなかった人間だったので、こうした展開は拍手喝采だった。


そして、音楽の道を真剣に志すということは、それ以外の選択肢を捨てるということ。祖母から期待された俳優への道だったり、真面目な両親からの重圧だったり。そうした色々な社会性を捨てるという選択肢を取ることが、バンドを本気でやるということなのだ。

今までのバンドアニメ、特に学園モノのバンドアニメではある意味でタブーだった、バンドに打ち込めば打ち込むほど、社会とは乖離していくという、バンドとしての「めんどうくささ」も正面から描いている。


こうした「めんどうくさい」ものの象徴として君臨するのが、主人公の井芹仁菜だった。「川崎の狂犬」なんてあだ名がネットでつけられるくらいの、暴れっぷり。

自分が正しいと思ったことは、絶対に曲げない。ほんの少しでもいいから、妥協したほうが絶対にメリットも多い場面でも、折れることはない。そんな彼女の生き方は関わりの薄い他者から見たら、「めんどうくさい」以外の何者でもないだろう。そんな彼女の歌う曲だから、伝わるものがある。みんなが抱える「めんどくささ」の代弁者になれる。だから彼女がロックバンド「トゲナシトゲアリ」のボーカルであり、中心であり、この作品の主人公であると言える。

最初から最後まで、仁菜は主人公だったし、ロックシンガーだったし、バンドの中心だった。「めんどうくさい」の象徴であった。仁菜も作品も、全くブレることのなかったことがこの作品の大きな魅力の1つだったと思う。


ロックをやる理由

なぜ、人がバンドをやるのか。音楽を、ロックをやるのか。自分の中でこれに対する回答はシンプルで、「言いたいことがあることがあるから」だと自分は思っている。

音楽で安定して稼ぎたい。人気になりたい。お金を稼ぎたい。そんな理由だったらスタジオミュージシャンだったり、POPSをやればいい。安定もしていない、楽器を自分たちで練習しなくちゃいけない。そんなロックバンドという音楽をやる理由ってなんなのだろうか。それは言いたいことがあるからだと思っている。

他人が奏でるメッセージに協力するのではなく。自分が作り出した音楽で、自分の言いたいことを言うのが、ロックだと自分は思う。だから、スタジオミュージシャンとロックミュージシャンやバンドマンは違うのだ。どっちが優れている、という話ではなく。


そういった意味では、トゲナシトゲアリのバンドメンバーは「何か言いたいこと」がありそうな背景を持ったメンバーの集まりだ。

桃香はダイヤモンドダストというメジャーバンドから脱退した人間で。
仁菜はいじめられて、不登校で、家庭にも不満があって。
すばるは祖母からやりたくもない俳優業を期待されていて。
ルパさんは家族と死別をしていて。
智は音楽に本気になってバンドを解散させていて。


順風満帆な人生を送っている奴がロックを歌うな、とまでは言わない。でも、わざわざ音楽で表現したい何かがある人間というのは、大なり小なり何か胸にしこりのような、陰りがある人物であってほしいと自分は思っている。

そういった意味で、トゲナシトゲアリのメンバーは集まるべくして集まったメンバーだった。だから、彼女たちの演奏に単なる音楽的な魅力以上のなにかを感じてしまう。

そう視聴者が思わせるだけのキャラ描写があった。脚本の花田先生の手腕がすごい。やはり、この人は群像劇を描かせたらピカイチだ。特に、アニメ作品へのキャラたちのドラマの落とし込みかたでは、抜きん出た実力を持っているなと感じさせられる。


彼女たちの「青い」決断を応援したい

プロの道を諦め、インディーズで活動する。最後のトゲナシトゲアリの選択を、自分は正しかったと全肯定はできない。もちろん、物語としてはドラマチックだし、仁菜ならそう決断するだろうと理解はできる展開だったのだが、「本当にその決断でよいのか?」という不安感はある。

プロなら、事務所に所属してプロとして成長・活躍して事務所に恩返しすべきなのではないか。プロの世界からの「逃げ」なのではないだろうか。そんな思いが全くないといえば嘘だ。彼女たちの決断を聞いた時の自分の感想としては、レコーディングの中田さんの反応が近い。

このシーンは最終話の中でトップクラスに好き

笑顔で送り出すことはできない。それは彼もプロとして仕事をして、プロの世界の厳しさやその門の狭さを知っているから。だから、全面的に肯定することもなく。不満げに「青いねぇ」と言いはなつ。

でも、「10年後生き残っていたらおいで」という厳しい言い方は、プロの立場として、青い決断をした若者たちへのエールなんだと思う。プロとしては甘やかせないし、思うところもありながらも、彼女たちの作品自体には魅力を感じていたからこその、最低限のエール。


今作品は、「バンドモノ」というよりは、トゲナシトゲアリというバンドが1つになっていく過程を描いていく作品だった。意外と「バンドとしての問題」を正面から描いてこなかったように思える。

バンド活動をしていく上での活動費だったりとか、ファンとの付き合い方とか、そういったバンドにありがちな諸々を、「トゲナシトゲアリ」としてどう乗り越えていくのか。そして何より、インディーズな状態で、どうやって武道館を目指すのか。続編があるとしたら、そうしたバント活動をしていくうえでの諸々を真正面から描いてくれるのでないだろうか。非常に楽しみだ。

青い決断をした彼女たちを、応援していきたい。だって、この作品はアニメだし、彼女たちはまだ若いのだから。こんなイヤになるくらい青くさい展開を楽しむのがアニメだろう。


最後に、今作品の魅力を陰ながら支えていたのは、花田先生のリズミカルなセリフのやり取りと、それを時にコミカルに、時にシリアスに演出しながらハイテンポで見やすく描いた、東映アニメーションのCGアニメーションだったと思う。

今までのCGアニメーションの中で、一番好きなCGアニメーションだった。どちらかというと、ライブシーンよりも、日常のコミカルなパートでこそ、CGアニメの魅力として映えていた気がする。積み重ねてきた歴史を感じる、TVアニメーションとは思えない動き。さすがでした。箸休め的に日常パートだけのOVAとか出して欲しい。それくらい、キャラたちの会話が魅力的な作品だった。


おまけ 桃香さんの作る曲が好き

今作品で自分が好きな曲はこの3曲。

見事に、トゲナシトゲアリっぽい曲とは反対の曲調が多い。トゲナシトゲアリとして作曲される曲よりも、桃香がダイダスのころに作ったような、カラッとしたロックが好きなのかも。

ガルクラの世界にいたら、「桃香はダイダスと新川崎(仮)のころがイチバンだったんだよなぁ」と懐古する厄介おじさんになっていた気がする。


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