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本を書く力が身につく本の読み方:初級編

10月に本を出版してから、親しくしている身近な人と話していると、「いつか自分も本を出してみたい」という反響をもらうことが多くありました。これは自分もまったく同じで、最初の準備からカウントすると、なんだかんだ10年くらいかかっています。

10年もかかってしまった人が本を出すアドバイスはできないのですが、印象に残ったのが、「本を出したい」と同じくらい、「自分の考え方をまとめてみたい」という意見が多かったことでした。これは社会人としてそうあるべきなので励みになりました。

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一般的に「本を出すのに必要なこと」とされているのは、「友人の出版記念パーティーに行くこと、出版社の編集者と親しくすること」、つまり、出版人脈のネットワーキングがゴールのように言われています。でもこれで本の企画が通るかは疑問です。

というのも、振り返ると、10年の間に私は3回/3社ほど企画が途中で無くなっています。いざ本づくりをするとなると、会ったばかりのよくわからない人の企画は、ニーズが低くてすぐ却下されるか、もしくは差し迫ってないので後回しにされ続けます。

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私は2019年に6月と10月に2冊出版できました。これは、出版業界に強いコネクションがあって実現したわけではありません。「本を書く力が身につく本の読み方」をしていたことが、出版社から一番信頼してもらうきっかけになっていたのです。

本記事では、実際に本を出す出さないは別にして、「自分の考え方をまとめてみたい」人に向けて、「本を書く力が身につく本の読み方」を5つのティップスにまとめます。新人著者が語るにはおこがましい話題ですが、ぜひお付き合いください。

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▼ ①書店棚でテーマ分類を覚える→本で成立するテーマがわかる


・本のテーマ設定は書店棚のテーマ分類を覚えることから始める

本にすることを意識して書くうえで一番大事なことは、自分のテーマをどの粒度に合わせて書くか?です。編集者さんと企画について話をする時、テーマを広く設定すると「広すぎる」、かといって狭く設定すると「狭すぎる」、というフィードバックを受けるので、本を書くにしろnoteの記事を書くにしろ、テーマ設定は最初にして最大の難所です。

まず初めに理解しておきたいのは、「ビジネスニーズ=出版・読者ニーズ」ではないということです。

たとえば、「広報」はビジネスシーンでは非常にメジャーな職種・ノウハウですが、書店の棚ではそれほど大きくは展開されていません。「広告」と一緒になっていたり、「マーケティング」の一部だったり、いずれにしてもコーナーのごく一部です。

逆に「会計」は、職場の中で従事する人は限定的ですが、知識を必要とする人は多いので本の発行点数は多く出ています。棚も元の枠組みを超えてあちこちに出ています。つまり、ビジネスニーズと出版・読者ニーズは必ずしも一致していないのです。

ここは会社員の人は特に注意してください。このギャップをわかっていないと、「自分はこれほどニーズのある仕事をしているのに、なぜ出版社はテーマが狭いと言ってくるのか」という認識のズレが生まれ、いつまでたっても本を書く準備に至りません。

もちろん「営業」のように、ビジネスでメジャーであり、書店の棚でも大きいテーマもあります。この場合、出版・読者ニーズは確定しているので、「営業」の中での差別化・新規性を打ち出していくことが焦点になります。

では、どうやってテーマの粒度を見極めていけばよいか!?

書店の棚で本のテーマ分類を覚えることから始めましょう。

体を鍛えたい人がジムに通うのと同様、本を書きたいと思ったら書店に通うことが原則です。そうすれば、いまどういう本が流行っていて、どういう本が棚に残っているのか、本の情報が自然と身につきます。

頻度は月に一度くらいから始めて、2~3週に一度へと増やしていきます。行き始めると変わり映えがないことに飽きが出てくるので、いつも同じ書店に行くのではなく、別の書店も見に行くようにします。

ビジネス街・駅ナカ・専門店など、買い物に行ったついでに足を延ばして、いろいろなタイプの書店を見てみましょう。書店の分類は以下で詳述しますが、いろんなケースの棚に触れることができます。

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・大型書店→本命のテーマ、小型書店→代替可能なテーマを知る

まず、「大型書店」でリサーチすべきことは、「書きたいテーマと完全一致する本命のテーマ」を見つけることです。

ご存じの通り、大型書店は棚の分類が細かいので、書棚全体のテーマ名だけでなく、コーナーPOP名レベルで記憶していきます。自分の書きたいテーマがどういう分類に入るのか、覚えましょう。

というのも、本は書店の中のどこかの棚に収まる必要があります。こう言うとごく当たり前に聞こえるのですが、事前をよく分析しておかないと希望の棚から外れることが実際にはあり得ます。

たとえばマーケティングの書籍でも、理論が多めだったら「経営」の棚を目指す、哲学が多めだったら「ビジネス思考法」の棚を目指す、など、自分の本が収まる棚の範囲を把握していきます。

棚を見極められたら、以下を確認します。
類書の発行点数→コーナーにある既刊本のおおよその冊数
類書の売れ行き→各本奥付の増刷状況(特に3刷の本が複数あるか)

類書の状況から、出版・読者ニーズが十分にありそうか、もし薄い場合、どれくらい苦戦しそうかを類推します。ニーズ自体を掘り起こすのは通常不可能に近いので、場合によっては自分が棚に合わせたテーマにスイッチします。

次に、「小型書店」でリサーチすべきことは、「書きたいテーマの代替可能なテーマ」を見つけることです。

小型書店に行くと、相当ベーシックなテーマでない限り、自分の書きたいテーマでは「棚が存在しない」ことの方が多くなります。たとえば「SNSマーケティング」は一定のニーズがあるテーマですが、小型書店だとマーケティングはおろか、営業テーマなどビジネス書一般と一緒に勝負することが多々あります。

でも、実はこの小型書店のカオス状態が世間の関心だったりします。少ない売場でも勝負できるだけのベーシックなテーマか?あるいは猛烈にトレンドに乗ったテーマか?ということは、小型書店の方が理解しやすいのです。本命テーマ以外にも「本の企画が成立するテーマ」を複数ストックしておきましょう。

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▼ ②出版社の新刊情報を毎月見る→本に接するサイクルをつくる


・公式サイトの新刊情報で発売と同時にキャッチアップする

書店通いを始めると本の数の多さに圧倒されますが、これは最初のうちだけです。既刊本は徐々に目が慣れてくるので、だいたい覚えられます。

ですので、基本的には「これから出てくる新刊」を押さえていけばよいことになります。でも、あてどなく書店巡りをするほど時間に余裕は無いもの。

そこで、出版社のウェブサイトで「新刊情報」を確認します。出版社のサイトでは、「今月の新刊」「もうすぐ発売」など、新刊情報が月に一度は更新されています。

サイトで新刊情報をチェックしておけば、発売時にすぐチェックしに行けますし、定期的に書店に行くタイミングが生まれます。

やり方は地味なのですが、この方法は本好きの人でもあまりやっていない技なので、「最近の新刊傾向がわかっている人」として、出版社からも信頼してもらえます。

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・半年間で出版社が得意なテーマがわかってくる

とはいえ、各出版社のサイトをくまなく見るのはツラいので、比較的自分が好きなラインナップを出している3~4社に絞りましょう。

各社のサイトを半年ほど見続けていると、それぞれの出版社が得意とするテーマが見えてきます。特に以下に慣れていくといいです。

*毎月出している本のラインナップ
→各月の発行点数の中で、ビジネス・実用・語学・文芸がどういう配分になっているか。各社が基本とする刊行頻度の高いテーマは何か(営業・プログラミング・手芸など)。

*人気・好調のシリーズ(同じ装丁でテーマ違いで発行しているもの)
→定番テーマでまだ出ていないテーマがあれば、そのシリーズの中で出せる可能性がある。また、新しくシリーズが立ち上がった時、自分のテーマが入る余地があるかを見る。

その他、ウェブサイトからは以下のようなこともわかります。
・重版情報→ヒットしている本の売れ行き・テーマ・装丁
・広告情報→自分のテーマで本を発売するのに適している月

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▼ ③ペンを片手に線を引いて読む→印象を瞬時に振り返りできる

・赤線箇所を後から読みつなげばすぐに記憶を引き出せる

「書く」ことを意識すると、自分のテーマに関連した本(類書)を読む機会がぐっと上がります。本の中身が役に立つ/役に立たないという読者目線ではなく、どういう背景で本が出ているのか・評価されているのかを、自分が把握する必要が出てくるからです。

とはいえ、200ページもある本の内容を記憶に留めておくのは無理な話。

そこで、本を読む時は赤ペンを片手に、気になったところに線を引いていきます。読んでいる最中に線を引いておけば後から見返した時に要点がわかりやすく、また赤線部分を追っていけば、要約ブログを書かずともだいだいの概要を思い出すことができます。

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本の内容をマークしておく方法には、付箋など他の方法もありますが、自分も初期にいろいろ試したうえで、この直に赤線を引く方法が一番該当箇所を参照しやすいという結論に至りました。ちょっと極端ですが小説(文芸)でもやることがあるくらいです。

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・線の引き方:1巡目→本文直上の余白、2巡目→本文直接

線は2回に分けて引いていきます。

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1巡目は、しっかり読みながら本文直上の余白スペースに引きます。これは『週末起業』の著者で、読書術の本も出されている藤井孝一さんが提唱されていたノウハウで、通勤中などはきれいに線を引けないストレス発生するところ、これなら線を引く距離が短く、ガンガン引けるというわけです。

2巡目は、1巡目で線を引いた箇所をざっと振り返りつつ、さらに良かった箇所で手を止め、本文に直接線を引きます。ここが自分にとってのベストオブベストなので、後から見返す時はそこを見るだけで良くなります。読書中にこのような印をつけておくことで、ポイントを整理しやすくなります。

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▼ ④読んだ感想をツイートをする→本の魅力をサマる訓練をする


・類書への自分の見解と公式のウリを突き合わせる

本を一冊読み終えたら、読後の感想をツイートします。
印象に残った箇所は既に赤線で整理されていますので、その部分を見ながら読んだ感想を短文にまとめます。

まず、ツイートの中身は、「本の基本情報+良かった箇所+自分らしい感想」を基本パターンに構成します。この3つが入っていると、内容面の魅力を紹介することに加えて、自然に自分の個性も出すことができます。

次に、本の表紙・帯などの装丁にある本の紹介文を見て、編集者や著者は、どういうターゲットに対して・どんな立ち位置で・何を目玉に・本の魅力を伝えようとしていたのかを推測します。自分の視点と書籍の視点を突き合わせて、答え合わせをするイメージです。

この感想ツイートを続けていると、本のウリを構造分解することに慣れてきます。何せTwitterのスペースは140字しかありませんので、その本の究極的な魅力がどこにあるのかを、突き詰めて考える癖がつきます。

もちろん本の魅力をサマリする訓練は自分の本を出す時にも有効で、表紙・帯をはじめとするカバー回りは実際には編集者さんが手がけるのですが、この技術を使って自分の本の魅力を解説できると喜ばれます。

感想を書く時にひとつ注意したいのが、「良書」という表現を避けること。
「良書」という言い回しは書く時に便利な反面、「何が・どう良いのか」をあいまいなまま文を収めることができてしまうワードでもあります。私もふと使いそうになったら、極力別の言葉に置き換えるようにしています。

なおツイートは「書評」「読了」などの記号を本文に入れておくと、後から自分で検索する時に便利です。

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・書評を切り口にTwitterのフォロワー数も上げる

さて、この読了ツイート。本を読む時間と合わせるとそれなりに負荷が高いものです。しかし、読了ツイートにさほどいいねがつくわけでもなく、労力の割に得られるエンゲージメントは少なめ。これだとモチベーションが上がりにくいのが実際のところです。

そこで、少しでも多くのTwitterユーザーに届けられるよう、本の著者の新刊発売投稿を引用リツイートする形で感想をツイートします。新刊発売の投稿は著者としても伝えたい情報を集約しているので、そこに自分の感想を加えれば、相乗効果が生まれます。

実際に私はこの方法を何度か試していますが、リツイートしてくれる著者さんは多くて、ツイートのインプレッションが上がったり、少しですがフォロワー数を上げることができました。著者にとっても読者である自分にとってもWINな運用方法と言えます。

この方法は、新刊はもちろんのこと、既刊の本でも有効です。(少しあざといのですが)、著者のタイムラインを発売月にさかのぼって見てみると、新刊発売時の投稿に行きあたります。それを引用リツイート投稿すれば、著者さんの方でも感想に気づいてくれます。

ただしこの方法には注意点が2つあります。

1つめ。もし自分の感想がポジティブでない場合、(本の印象自体は是々非々だとしても)オーガニックでつぶやいた方が紳士的です。

2つめ。自分の宣伝は絶対載せないようにします。「私はこういう商売をしていて~」と書くと、便乗商法感が強く出るので、避けます。

無理に引用リツイートするのが目的ではなく、オーガニックでツイートする方がいいことも多々あるので、状況を見極めていきましょう。

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▼ ⑤数冊選んで書評を書いてみる→自分のカラーを明らかにする


・書評の構成=「本のタイトル+内容箇条書き+ポイント引用」

感想ツイートをもとにして、今度は書評を書いてみましょう。
noteの人はnoteでぜひ。noteでタグのボリュームを見てみても、「書評」「ビジネス書」は小さくないタグなので、読まれる確率があります。

参考までに、私の書評noteを見てみましょう。

ご覧の通り、各書評の書き方は以下の要素から成り立っています。
・本のタイトル
・内容箇条書き
・ポイント引用

書評を見た人には実際にその本を見て欲しいので、著者の位置づけ、内容のあらまし、マッチする読者層、象徴的な箇所の引用を書くことで、客観と主観のバランスよく本の紹介を行うよう心がけています。

書評noteは、かけた労力の割にあまり多くスキがつくことありません。書評形式でスキが多くつくのは、あくまでセレクターとして名が立っている人が中心なので、反響はあまり気にしないようにしましょう。

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・「選書をする→書評を書く」プロセスに自分の個性が表れる

投稿の反響をあまり気にしなくていいのは、立派なものを書くことが目的ではないからです。実は、書評noteを書く一連のプロセス、つまり、「選書をする→書評を書く」プロセスは、自分の個性を発見するために行います。

たとえば私の場合、全体では「リサーチのスキルアップ本」を書評テーマにしていますが、直接的な「リサーチ技法」テーマだけではなくて、「リーダーシップ・組織マネジメント」などのテーマからも選書を行っています。

この選書意図は、「リサーチを行ううえでは高いコミュニケーション力が欠かせない」という観点からそうしており、これがすなわち、私の個性(ビジネスで成果を出すことに重きを置いたリサーチ)につながっています。

本を書く時に、内容と同じくらい大事になってくるのが「プロフィール」です。これも思い違いしやすいのですが、本に載せるプロフィールは「経歴(略歴)」ではありません。専門性は当然あったうえで、自分の個性を書く場所です。

同一テーマの著者が多い場合、ノウハウでは大差がつかない場合があります。成功者の思考法や行動論は行きつくところ類似するものなので致し方ありません。そこで、実績・事例を含む「プロフィール」が効いてきます。

選書→書評で見つけた自分の個性は、差別化・独自性を語るのに有効で、強いプロフィールになります。やることは「たかが書評」なのですが、本を書くことを意識すると、とても重要な訓練になることがわかるでしょう。

なお「選書」というと、古典的な"良書"が入っているべきではないか?有名な経営者が薦める教科書から選ぶべきではないか?という考えがよぎりますが、「これを選んでいたらセンスがいい」みたいな選び方は避けましょう。ベーシックな定番書も、お気に入りの一冊も、自分らしい視点で読み解いたものが一番です。

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▼ まとめ


①書店棚でテーマ分類を覚える→本で成立するテーマがわかる
・本のテーマ設定は書店棚のテーマ分類を覚えることから始める
・大型書店→本命のテーマ、小型書店→代替可能なテーマを知る

②出版社の新刊情報を毎月見る→本に接するサイクルをつくる
・ウェブサイトの新刊情報で発売と同時にキャッチアップする
・半年間見続けていると出版社が得意なテーマがわかってくる

③ペンを片手に線を引いて読む→印象を瞬時に振り返りできる
・赤線箇所を後から読みつなげばすぐに記憶を引き出せる
・線の引き方:1巡目→本文直上の余白、2巡目→本文直接

④読んだ感想をツイートをする→本の魅力をサマる訓練をする
・類書への自分の見解と公式のウリを突き合わせる
・書評を切り口にTwitterのフォロワー数も上げる

⑤数冊選んで書評を書いてみる→自分のカラーを明らかにする
・書評noteの構成=タイトル+内容箇条書き+ポイント引用
・「選書をする→書評を書く」プロセスに自分の個性が表れる

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本記事の①~⑤を実践していくと、行きつくところ、「本の企画書をつくる力」がついてきます。

本の著者として、「コンテンツ」は用意できて当たり前。
でも意外と、「企画背景」が書けなくて、苦戦をします。

記事中のトレーニングを続けていると、自然と書く本の企画背景は定まっていきます。出版社は企画書を見ながら、「なぜ出すのか?どこにニーズがあるのか?」を、企画背景から判断するので、それを自然と物語れるようにしていきます。

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記事をご覧いただきありがとうございました!

あまりいないとは思うのですが、冒頭に触れた通り、「出版のコンサル」は一切やっていないので、ご了承ください。出版に関するバックエンドのサービスは一切持っていないので、もしそれを期待して最後までご覧いただいた方がいたら、ごめんなさい!

でも、もし記事を読んでためになったことがあったな、商品としての本づくりについてもう少し勉強してみようかな、と思っていただいた方は、私が10月に出版した『売れるしくみをつくる マーケットリサーチ大全』(明日香出版社)をぜひご覧ください。

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この本に自分の本づくりのすべてを結集させているので、プロダクトの端々から本記事に書いたノウハウを感じ取ってもらえると思います。全国の書店で取り扱いがあるので、ぜひお近くの書店で見てみてくださいね。「リアルの書店で」、ですよ!(笑)

次回は「上級編」をテーマに、本を出す前提で、出版社の企画会議・編集者とのやり取りで役立つノウハウを書く予定です。こちらもお楽しみに!

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