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内向的な人の力を信じたインタビュー調査の話

「インタビューを行う相手が内気的な人だった時どうしていますか?」
―JX通信社が主催するマーケター向けの「消費者理会」というイベントで、インタビュー対象者が内向的な人だった場合にどう切り抜けるか?という質問を受けました。

・積極的に話をしてくれない
・話の方向性がまとまらない
・質問や意見への反応が薄い

こういう現場は、話の進行を司るインタビュアーやモデレーター、あるいは調査の依頼主からすると困ってしまいます。インタビューの趣旨が調査であれ取材であれ、その現場はどうしても外向的な(社交的な・友好的な)参加者・対象者が目立つ場になります。

イベント時の質疑応答では、私は次のように回答しました。
・関心や意向を定量的に問う質問を一度挟み、立場を固めてから答えてもらう。
・対象者確保のための事前調査で、経験値を深い人をリクルーティングする。
※ほかに、現物を用意してそれを見ながら答えてもらう、という常套手段も存在します。

しかし、それでもしゃべってくれないのが内向的な人です。上記の方法は事実有効なのですが、現場で根本的に何かを変えられる策ではありません。そしてイベント中の質問は、テクニックで回避できない状況のことを指していたことでしょう。

イベントが終わってからもこれに当てはまる回答を思案していたところ…ひとつありました―「現場で根本的に変えられる工夫」が。私は過去に、前出のような内向的な性格の人の力を信じ切ってインタビュー調査を成功させたことがあります。

この記事では、インタビューの前半では流れをつかみ損ねつつも、後半には盛り返して成果につなげた当時のことを振り返りつつ、内向的な人に調査・取材することになった時、どのように対応するとよいかまとめてみたいと思います。

※イベント本編の開催レポートは、主催者の松本健太郎さんがnoteにまとめていらっしゃいます。
▼ どうして消費者を理解する必要があるのか、理解すると何が変わるのか?|松本健太郎

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▼ まずい、まったく話をしてくれない…!

その現場は、アーティストのファンクラブに入っている人たちのグループインタビューでした。グループインタビューというのは、4人程度で車座になってあらかじめ決められたテーマのことについて2時間程度話し合う調査方法を言います。

当時は、アーティストを起用した宣伝プロモーションや新しいグッズの開発を控えていたため、ファンの中でもコアファンと言えるファンクラブ会員の人たち(男女ともにグループを形成)から熱量のある意見が出ることを期待して実施していました。

しかし、強い期待がかかるこの現場で、開始から遅れて入ってきたその男性参加者の方は、まさに冒頭で提示したような、「困ってしまう」傾向に当てはまる方でした。

・質問のたびに回答に詰まってしまう
・意見の整理に長い時間要してしまう
・他の人の意見をあまり聞いていない

さらに、話す声がほぼ聴き取れず、(当時の備品環境で)マスクで口元が見えない中、発言を聞き返すにも限度があります。「場の空気感」が大事になるグループインタビューの場において、運営的には非常に難しい展開となりました。

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▼ ありのままの状態を解釈することにした

ほとんどの場合、こういうケースでは自動的に「失敗」となります。でも私は途中から、ひょっとしてこの男性こそがファンの極みなのではないか?と思うようになり、無理に答えを引き出そうとする進行を止めました。

というのも、その男性ファンの方は、実際に商品やサービスに対して取っている行動は明快で、「言葉にできない」だけなのです。ニュース情報のチェック、広告商品の購入状況、関連トレンドへの関心は、いずれも参加者中トップクラス。

同質のグループの中で理解しようと思うから難しくなるのであって、受け止め方を変えると、発展的なファンの姿を目の当たりにしているのかもしれないと思えました。すると、前項で挙げた「困った現象」も、次のように見えてくるのです。

・質問のたびに回答に詰まってしまう(ただ、答えづらいだけ)
→意見あるなしが極端に割れる事象(意見がある時だけ答える、思い入れに浸りたい)

・意見の整理に長い時間要してしまう(ただ、答えに悩むだけ)
→複数の意見に甲乙つけがたい事象(あれも良いしこれも良い、迷ったら買ってみる)

・他の人の意見をあまり聞いていない(ただ、答える義理が無いだけ)
共感・協調するつもりがない事象(別にそこはどうでもいい、他人に左右されない)

内向的な人の発言や行動の多くは「答え」を自ら発言してくれません。しかし観察の観点を変えると、多くのことを物語っています。数少ない意見がある時の物事への執着心、意見に迷った時に現れる収集癖、自分の感覚や体験を信じる防御力など。

結果、このプロジェクトでは、内向的な志向性を持つファンをガチなファンと位置づけ、広く一般に通じる企画とは別に、拡散力ではなく購買力に期待できるサブターゲットとして、趣味性を強めた打ち出しのバリエーションを用意することができました。

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▼ 内向的な人が持つ、イノベーション価値

(私含め)調査の依頼主や企画者である企業人は、よくこう言います。

「まだ見ぬ新しいものを開発したい」
「知らない人にも買ってもらいたい」

そもそも数人~十数人へのインタビュー調査だけでこのようなビジネス与件をクリアするのは困難ではありますが、実はこの難題を解くにあたって一番「答え」を持っているのが、グループインタビューに登場した、かの男性ファンだったりします。

たしかに他の参加者は積極的に協調と批判をしてくれて、定量的に物事の印象を確かめるには貢献度が高い存在と言えます。ただ、既知の範囲の反応も多く見られました。そこをいくと想像を裏切る「情報」をくれたのは、専ら内向的な参加者です。

通常、インタビュー調査で内向的な人に出逢ったら、「正直、今回の手ごたえは厳しくなるな…」という考えが頭によぎります。しかしそこで気持ちを切らさず、「内向的な人はどう"答える"のか?」という観点に頭を切り替えてみましょう。

インタビュー調査を行う際、有識者への取材でもない限り実施人数が1人で終わるということはないでしょう。状況に対する自分の受け止め方を変えて、内向的な人からは「言葉に出しづらい何か」を教えてもらう役割を担ってもらうようにします。

もちろん、インタビュアーやモデレーターが自身の観察力で解釈しすぎないようにも注意したいものです。でも、貴重なインタビューの時間と費用に価値の息吹を吹き込むのもまた、進行を司るインタビュアーやモデレーターの力量次第であります。

何を隠そう、この記事を書いている私自身も圧倒的に内向的なタイプです。以前、論理的思考力を重んじる企業の採用面接で、「君は瞬時に返答できないと厳しいぞ」と諭されたことがあります笑。そこでは「考える時間」は否定されていました。

そんな自分がずっと心の支えにしてきて、今も年に一度は見るほど好きなTEDTALKに、スーザン・ケインの「内向的な人が秘めている力」(Susan Cain:The power of introverts)があります。映像の最後に出てくる一文を紹介させてください。

But introverts, you being you, you probably have the impulse to guard very carefully what's inside your own suitcase. And that's okay.
But occasionally, just occasionally, I hope you will open up your suitcases for other people to see, because the world needs you and it needs the things you carry.

(内向的な人は自分の持ち物をあまり見せたがらないでしょうが―たまには広げてください。きっと世の中の役にたちますから。)

※訳の部分は「スーパープレゼンテーション」放送時の字幕より。(話に登場する「スーツケース」は、自身の内面に例えられている)

今後の皆さんのインタビュー調査・インタビュー取材が実り豊かなものになることを、陰ながらお祈りしています。

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▼ まとめ

<内向的な人の発言や行動の解釈>(※私が接したケース)

・質問のたびに回答に詰まってしまう(ただ、答えづらいだけ)
→意見あるなしが極端に割れる事象 (意見がある時だけ答える、思い入れに浸りたい)

・意見の整理に長い時間要してしまう(ただ、答えに悩むだけ)
→複数の意見に甲乙つけがたい事象 (あれも良いしこれも良い、迷ったら買ってみる)

・他の人の意見をあまり聞いていない(ただ、答える義理が無いだけ)
→共感・協調するつもりがない事象 (別にそこはどうでもいい、他人に左右されない)

⇒現象だけをネガティブに捉えずに、独自の思考方法に価値を認めて、ビジネスアイデアに組み込む

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▼ 出演イベント・寄稿記事のお知らせ

*出演イベント

マーケティング課題を様々な職種・技能を持つメンバーとともに解決するオンラインイベント「マーケティングRPG」がスタートします。
海外ウェブマーケティングを専門としてECビジネスに強みを持つ「世界へボカン」の徳田さん、マーケティング思考力を取り入れたLPデザインが注目されている「nanocolor」の川端さん、おふたりと「美容業界(コスメ・スキンケア・美容サービス)のマーケティング」について語ります。

▼ マーケティングRPG ~定量×定性リサーチで知る、美容ユーザーのインサイト~

*寄稿記事

データマーケティングメディアの「マナミナ」で、「業界研究×リサーチノウハウ」のコラム連載がスタートしました。第二回は美容業界。美容サービスの特性・消費者の志向性を考慮した質問サンプルと分析スコープをご覧いただけます。美容室・エステ・マッサージ・フィットネス・ヨガなどの店舗・メディア運営に関わる皆さま、どうぞ◎

▼ 【リサーチャーが語るアンケート虎の巻】美容業界は「美意識のマーケティング」が鍵!


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