![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/105697443/rectangle_large_type_2_c1d96360183566a01e58cb4abe1b5b70.png?width=800)
新世代の先駆者:メリーランド出身のラッパー、IDKの音楽と彼が描く成功像とは?
メリーランド州はアメリカ東部に位置し、大西洋に面した白い砂浜や西に伸びる山脈など自然環境に恵まれ、気候や地形が様々であることから「ミニチュアのアメリカ」とも呼ばれています。
ラップシーンでは、Logicをはじめとする数多くのラッパーを輩出しており、Sisqó、Wale、Codae、Rico Nasty、JPEGMAFIAなど個性豊かなアーティストが多数存在しています。
そして今回紹介するのは、メリーランド州のラップシーンで注目を集め、2023年5月に4枚目のアルバム「F65」をリリースしたラッパーのIDKです。
ここでは、彼のこれまでのキャリアについて解説します。
レーベル : Clue No Clue & Warner Records
リリース日 : 2023年5月5日
名前 : IDK
本名 : Jason Aaron Mills
年齢 : 30歳
出身地 : メリーランド州プリンスジョージズ
獄中での経験を作品に反映させる
![](https://assets.st-note.com/img/1684128030151-ZCBw0nYOPI.jpg?width=800)
イギリス・ロンドンでイギリス系アメリカ人の両親のもとに生まれ、メリーランド州プリンスジョージズで育ったIDK。
彼は17歳という若さで、3年の判決を受けて刑務所に入獄しました。
その間、J.コールやケンドリック・ラマーなどのアーティストの作品を聴いてラップを学び、自分自身もラッパーとしての道を歩むようになったようです。
刑務所で初めて、自分の脳の一部を使ったんだ。
ラッパーになるための計画を立て、実行したんだ。
その後、彼は「Ignorantly Delivering Knowledge(無知なまま知識を提供する)」の頭文字をとってJay IDKとしてキャリアをスタートさせ、2014年に最初のミックステープ「Sex, Drugs & Homework」をリリースしました。
翌年には、彼が収監されていた刑務所での薬物中毒者との対話が役立った2枚目のミックステープ「SubTRAP」(2015)を発表し、自身の経験を作品に反映させることを決意したようです。
「俺は、いつも色んな質問をして、周りの人たちに深い関心を寄せていたんだ。刑務所の外の世界では一体どんな生活をしているのか、そういったことが気になっていた。そんな過程を経て、自分でも気づかないうちに、「SubTRAP」を作るための必要な情報を手に入れていたんだ。本当に自然な流れで、ただ純粋に興味を持っていただけだったんだよね。ヘロイン中毒の人と話をしたり、同じ独房にいた実際のヘロイン中毒者と交流したりしたんだ。その仲間は、薬物を断つために奮闘していたが、禁断症状が出て、夜中に泣きながら目が覚めたこともあった。寝ている間に泣いているなんて、自分でも理解できなかったよ。俺は色んなことに気づき、「どうして?なぜそうなんだ?今、どんな気持ちなんだ?」といった質問を投げかけて情報を集めていた。それが後に何かに役立つとは思ってもみなかったけどね。だから、このプロジェクトを立ち上げるとき、自分の過去の経験に深く触れることが必要だと感じたんだ。」
Jay IDK - God Said Trap (King Trappy III)
2016年にはミックステープ「The Empty Bank」をリリースし、翌年には4枚目のミックステープ「IWASVERYBAD」(2017)をリリースしました。
「IWASVERYBAD」には、Swizz Beatz、MF DOOM、Chief Keefなどのラッパーが参加し、アルバムアートワークには「D.O.C.」という文字が書かれており、これは「Department of Corrections(矯正局)」の略語で、有罪となった犯罪者の処置を管理する地方自治体を指します。
彼は、自身の経験を語ることで自分自身を知ってもらう必要性を感じ、売上の一部を少年院への寄付に充てたり、慈善活動に取り組んだりしています。
このグッズは、俺が刑務所で経験したことを元に作ったんだ。
全部にDOCって書かれているよ。
彼らが俺から稼いだお金を少しでも取り戻したいんだ。
それに、少年院の教育プログラムに寄付することで、ただ金を稼ぐだけじゃなく、何か社会に還元することもできるって考えてる。
この「IWASVERYBAD」って作品を作る上で、一番大事だったのは、自分の経験を伝えることだったんだ。何でかって?君が俺の生きてきた道のりを知らなければ、俺の作品は君にとって何の意味も持たないからさ。
大学に通いながらも刑務所や拘置所に行っていたという話や、あれこれやったっていう話は、意味不明で嘘っぽく聞こえるよな。だから、人々に俺自身のことを理解してもらう必要があったんだ。俺が何を言おうが、どんなインタビューを受けようが、何をやろうが、それが嘘じゃないと、ファンの皆に理解してもらわなきゃならなかったんだ。だって、俺の人生を見てみると、一見矛盾だらけで大きな嘘みたいに見えるからさ。
IDK with Yung Gleesh, DOOM & Del The Funky Homosapien - Pizza Shop Extended
表現者として伝えたいこと
![](https://assets.st-note.com/img/1684201759756-O0pwcJwoob.jpg?width=800)
翌年にEP「IDK & FRIENDS :)」(2018)をリリースし、2019年にWarner Recordsと契約を結び、待望のデビューアルバム「Is He Real ?」をリリースしました。
このアルバムには、Tyler, The Creator、Pusha T、JID、Burna Boy、DMXが参加しており、アルバムの最後を飾る曲「Julia」は、前述のミックステープ「IWASVERYBAD」のリリース直前に亡くなった母の名前を冠しています。この曲では、彼の母が義父からエイズに感染し、それが彼女の死の原因であったことを彼は明らかにしています。さらに、彼は母の死から2年が経過した現在の自身の感情や心境についてこう語っています。
「(母の死を)もっと理解できるようになった。俺は大丈夫だよ。
俺は受け入れ、分かち合いたいと思うようになった。
そこが(これまでと)大きな違いだね。
共有することに積極的になったね。
前は、全く詳細を共有するつもりはなかったんだけどね。」
IDK - Julia
2020年は、EP「IDK & FRIENDS :)」の続編となるEP「DK & Friends 2」をリリースしました。
この作品では、Denzel Curry、A$AP Ferg、Wale、Juicy J、PnB Rockなど、彼の友人たちが各曲にフィーチャーされています。また、NBA選手であるケビン・デュラントがプロデュースしたスポーツドキュメンタリー映画「Basketball County: In the Water」のサウンドトラックにも起用されました。
この映画は、IDKの故郷であるメリーランド州プリンスジョージズ出身のバスケットボール選手たちにスポットを当てた作品です。IDKはこの映画の音楽制作にも深く関わり、実際にドキュメンタリーの音楽も担当したことを明かしています。
IDK & A$AP Ferg - Mazel Tov
その後もコンスタントに作品を発表し続け、2021年にはセカンドアルバム「USee4Yourself」をリリースしました。
このアルバムには、Offset、Young Thug、Swae Lee、MF DOOM、T-Pain、Lucky Daye、Slick Rickといった著名なゲストが史上最多数参加しています。
さらに、このアルバムは、デラックスエディションがリリースされるほどの人気を集めており、IDKはこの作品を通じて本当の自分自身を表現し、それにより内面の恐怖を消え、生活がよりシンプルになったと述べています。
自分自身を表現することで、俺の本当の姿がみんなにバレるのが怖いっていう感じが消えて、だいぶ楽になったよ。多くの人が内心を語るのを躊躇する原因って、自分がどんな人間か他人に知られるのが怖いからだよね。セラピストが必要だって思うのは、そんな人しか信じられないからさ。素直さと、自分の真実を出せる能力、これがまさにスーパーパワーだよ。それに気づくと、人生ってすごくシンプルになるんだ。そんな簡単なことなのに、俺たちはそれを難しく考え過ぎてるんだよな。
IDK, Offset - SHOOT MY SHOT
2022年には、Denzel Curry、Mike Dimesがゲスト参加した3枚目のアルバム「Simple.」を世に送り出しました。
このアルバムでは、カナダ出身のハウス系プロデューサーで知られるKaytranadaがエグゼクティブプロデューサーを務め、アルバム全体に彼のエッセンスを感じることができます。
IDK & Denzel Curry - Dog Food
おわりに
IDKはこれまでに、WaleやRico Nastyなどの多数の地元のラッパーと共に作品を作り上げてきました。そして、今後の彼の目指すところは、若手アーティストたちが夢を追い求め、それを具現化できるプラットフォームを提供することのようです。
俺が一番大切に思ってることは、俺自身が他の奴らにとっての成功のモデルになることだよ。まだ俺には達成したい目標があると感じてるけど、俺のようになりたいと思う人が結構いるってのは忘れちゃならないんだよな。だから、俺の立場からすると、自分がここにいて、すぐそこにいるってことを彼らに示すのが大事だよ。そして、俺が持ってるプラットフォームを使って、彼らが夢を見る場所を作り、望んでることが叶うって感じさせる、それが俺の目指すところだよ。
メリーランド州から舞台に登場したラッパー、IDKは、全米の音楽シーンに新風を巻き起こしています。その独特な音楽スタイルと鋭いリリックセンスは、アメリカ音楽界を代表する存在としての彼の地位を確固たるものにしています。現在、その実力がますます求められている時期にあります。
彼の最新アルバム「F65」は、リリースと同時に音楽ファンや評論家からの視線を一身に集めています。この作品は、彼の音楽の進化と成長を示すものであり、彼の持つ無尽蔵なる才能の一端を垣間見せてくれます。
次回の記事では、「F65」について深掘りしていきます。彼がどんなメッセージを伝えようとしているのか、どの曲が特に印象的なのか、アルバム全体を通してどんなテーマが探求されているのか、などを詳細に解説します。彼の音楽についてより深く理解するために、ぜひお見逃しなく。
※ DIGTRACKS.comは、音楽プロモーター、音楽業界に携わるプロフェッショナル(DJなど)専門のデジタル・レコードプールサービスです。
ご利用の際は必ず「ご利用規約」をご確認ください。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?